第35話 ダンジョンウォーリアー

 金髪少女が自分の身長くらいある大きな斧を肩で担ぐ。


「お兄さんやるようデスね。初心者だったらこの一撃で終わるんデスが……ついてないデス」


「あっぶないな! いきなり襲ってきやがって。何、あんた殺人鬼か何かか?」


 少女が否定するように指を振る。


「人聞き悪いデス♪ ダンウォのスライムウェポンで傷つくのは、スライムプロテクターだけデスよ♪」


「さっきから知らない単語ばかり……」


 確かに殺気というか、俺を殺すつもりで振るわれてはいないのは分かる。

 ゲーム感覚――その言葉がしっくりくるかもしれない。


「ちょっと何が起こってるか調べるからま――」


「待てと言って、待つバカいないデスよ♪」


 斧を大振りに振り上げる。

 反撃してもいいが、ダンジョンのステータスそのままなら、力加減間違うとこの子殺しちゃいそうなんだよな。

 見たところB級レベルの子みたいだし。


 スライムプロテクター? とかの強度も分からない。

 なら、ここは……


「避ける一択」


 体を半身ずらし、斧の攻撃を回避する。

 地面が斧の衝撃で砂ぼこりが舞う。

 だが、あれだけの衝撃を与えたにも関わらず、地面は全くの無傷。


 あの特殊な武器のおかげだろうか。


「DEX高い探索者さんデスね。ワタシと相性最悪デス」


「俺は今の現状が最悪なんだけどね? 【スキル:弱点看破】発動」


 俺はいつものスキルを発動させようとする。

 だが、いつものように弱点が光らず、全く反応がない。


「はっ? 何で?」


「お兄さん残念デス♪」


 横薙ぎに斧が振るわれる。

 多分ステータス的に受けるのは問題ないだろうけど……


「わざと一発貰うのは癪だ! 【スキル:鉄壁】発動!」


 俺が宣言すると今度はしっかりと体にオーラを纏う。

 ガキンッ! という弾く音が響く。


「ワッツ!? 雑魚スキルのくせに、ワタシの一撃弾きましたデス!?」


「雑魚スキルって……防具なしでもしっかりと防いでくれる優秀スキルだぞ?」


「防具を装備すればいいだけの話デス。耐久力もあまりない、しかも継続時間も短い。わざわざスキル枠一つ埋まるほうが無駄デス」


 金髪少女が肩をすくめる。

 それ、散々言われて来たな。


 防具を装備すればいらないスキル。

 無駄、弱い、何で使ってるの?

 そういう意見の方が多かった。


 だけどそれでも俺はこのスキルを使い続けた。

 どんなに馬鹿にされようとも、攻撃系のスキルがなかった俺にとっては、これを極めるしか探索者の道はなかったんだ。


 仁王立ちして、少女を笑う。


「その雑魚スキルのおかげで時間稼ぎになるな。俺が調べ終わるまで無駄な攻撃してろよ」


 俺が舌を出して嘲ると金髪少女の顔が険しくなる。


「むっかぁデス!」


 ガンガンと俺に斧を振るうが全て鉄壁に阻まれる。

 俺はその間にスマホでこの現象の事調べた。


 すると一件だけヒットした。


 最新技術の仮想ダンジョンと呼ばれる、疑似的に作り出すダンジョンを使って、探索者どうしで戦う、フォレストダンジョン周囲で行われてるイベント。

 名前はダンジョンウォーリアー、略してダンウォ。


 探索者は買うと貰えるポイントを賭けてバトルを行い、勝った方が両者が賭けた分のポイントを総どりすることが出来る。


 バトルにはスライムプロテクターとスライムウェポンと呼ばれる特殊な武器を使うことで、相手や周りの環境に一切ダメージを負わせることはない。


 スキルは事前にセットされた一つのみ使用可能。

 セットしていない場合、一番最初のスキルが選ばれる。


「なるほどな。だから他のスキルは使えないと……」


「うがぁ! 何で壊れないんデスか!」


 無駄な攻撃を繰り返し、肩で息をする金髪少女。

 哀れだと思ったが、その時俺はふとある考えがよぎった。


 俺って今、罪なる者の効果無効になってるのでは――と。

 ダンジョンアプリの方で確認すると確かに鉄壁以外が、非活性状態になっていた。


 つまり……


「久しぶりに武器使えるのか」


 俺は早速試してみることにした。

 確か、武器名を言うとその形にスライムが変形するんだよな?


「メイス」


 瞬間、片手にスライムが形を成し、手に懐かしい重さがのしかかる。

 スライムだからとても軽いが、武器を持つのは、本当に久しぶりだ。


「一年ぶりくらいか……久し振りに暴れようか!」


 俺は片手でメイスを強く握って構える。


「さて、そろそろ反撃させてもらうよ?」


 そう言うと少女は俺を鼻で笑う。


「やれるもんならやってみろデ――」


「じゃあ遠慮なく!」


 俺は少女の言葉を遮るようにメイスを振るう。

 斧をメイスで殴打した瞬間、スライムに戻り爆散した。

 スライムがビチャビチャと飛び散り、辺りに散乱する。


「……えっ?」


 金髪少女は何が起こったのか分からないようで、手の平と俺を交互に見る。


 よく見ると衝撃で地面が少し抉れてるな。

 ダメージなしって噓じゃないか?


「同じスライムでも威力が違うと爆散するのか。地面とかもさっき見たいにノーダメージじゃないっぽいし。やっぱり武器使っちゃダメかもな」


 俺はメイスを手放すと液状になり、スマートウォッチ内に収納された。

 なるほど、こういう仕組みか。

 かなり便利だな。


 少女を見るとあり得ない物を見たような顔をする。


「いやおかしいデス!? 威力とか、そんな次元の問題の話じゃないデス!?」


「でも、現実問題そうなってるだろ?」


 単純にS級レベルの攻撃を想定されてないだけだと思うが、あえて言わない。

 まだ発展途上の技術だし、そういうこともあるだろう。


 俺は肩をすくめて、金髪の少女を見る。


「降参してくれないかな? 俺も女の子殴るのは気が引けるしさ?」


「こ、ここまで来て引けないのデス!」


 もう、金髪美少女がやけくそ気味に殴りかかってくる。

 俺は人差し指で拳を止め、かなり手加減して押す。


「なっ!?」


 瞬間、金髪の少女は後ろに吹っ飛ぶ。

 仮想ダンジョンの範囲から飛び出すとそこは……


「嘘!? このまま落ち――」


 ぼしゃんと金髪の少女は川に落ちる。


『WINNER! 葉賀橙矢!』


 スマートウォッチからそのように勝利宣言が流れた。


 俺はそんなことより、金髪の少女の行方の方が気になる。

 一応地面よりはいいと思って川の方向に飛ばすようにはしたけど、溺れたりしてないよな?


 俺は川を覗き込むと、金髪の少女は慌てたように泳いで陸地に上がる。

 何かこっちに向かって叫んでるようだが、上手く聞き取れないな。


 金髪の少女は元気そうなので、俺はその場から逃げる。

 騒ぎになったら困るし、人に見られでもしたら、俺が川に突き飛ばしたようにしか見えないからな。


「襲ってきた自業自得ってことで!」


 俺は走りながらそれだけ言って、自分の泊まってるホテルに帰った。



 □□□



 ホテルの一室に戻って、詳しくダンウォについて調べた。

 段々と俺でもダンウォについて分かってきた。


 どうやら、主催というか、開発した企業はあまり名前を知らないマイナーな企業のようだ。

 だが、出資しているのは……


「ダンジョン協会……ここでも絡んでくるか」


 仮想ダンジョンって時点で、ダンジョン協会が絡むのは分かっていたけど、宇佐美があんな事言ったせいで全てが怪しく見えてくる。

 何か目的でもあるのだろうか。


「一応宇佐美に連絡入れとくか」


 俺はスマホで宇佐美に、ダンウォの事をメッセージで教えたのだが……以下の文が送られてきた。


 そんな事既に知ってますわよ?

 むしろ全然知らなかったんですの?

 やっぱり鈍亀は情報も遅いですわね♪

 私の情報収集の邪魔なので、しばらくは連絡してこないでくださいまし♪

 鈍亀と違って暇ではないんですわ♪

 というか貴方なんで宮城に――


 など、罵倒の限りを尽くされた。

 俺はスマホをベットに投げつける。


「やっぱ俺、こいつ嫌いだわ」


 宇佐美には情報は渡したし。

 明日に備えて俺は寝ることにした。


 明日はいよいよフォレストダンジョンに潜るわけだし、しっかりと休養を取ならければ。


「今日は休日のはずなのに、何でこんなに疲れてるんだろう……」


 俺はため息をつきながら、泥のように眠った。

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