第34話 牛タンとずんだとフォレストダンジョン(2)
「――で、案の定というか、分かっていたというか。瑠璃は準備をするの忘れて、俺が準備したの持ってったんだよな」
瑠璃はどっか抜けてんだよな。
ここぞって時にはしっかりと決めるんだが、それ以外ちょっと心配になるレベルだ。
「瑠璃の兄離れはまだまだ先、か」
いい加減、兄離れしてほしいものだ。
俺も妹離れ出来ていないって言われたら、まぁ否定できないけど。
そんな事を考えているとおばあさんが俺に近寄ってくる。
「お茶のおかわりはいるかい?」
「はい、ぜひ!」
俺は牛タンの店から移動し、自然豊かな川沿いの茶屋でずんだ餅を食べていた。
川のせせらぎを聞きながら、食べるずんだ餅とお茶は格別だね♪
ずんだ餅をアイスについてくるスプーンでパクリと口に運ぶ。
「もっちりとした食感にもち米の豊かな風味。それを包み込むようにネットリとしたずんだの食感。豆特有の甘さが舌に心地いい。とても美味しいですおばあさん♪」
「あら、嬉しいねぇ」
おばあさんがお茶を注ぎながら、朗らかに笑う。
俺はのどかな自然の風景を見ながらゆっくりと背伸びする。
こんなにのんびりした日は久しぶりだ。
現地には着いたが、配信と食材集めは明日からだし。
今日は羽を伸ばして下さいと佐藤さんに言ってもらえたから、お言葉に甘えて宮城の美味しい物巡りをしている。
牛タンもずんだ餅もうまいし、最高の休暇だ。
……そのはずなんだけど。
俺は川を見つめてボーと考え込む。
パーティーが終わった後に宇佐美に言われたことが、いまだに引っかかっている。
「ダンジョン協会には気をつけろ……ね」
宇佐美が去り際に言った言葉だ。
どうやら、俺がレッドドラゴン討伐でステータスダウンポーションをかけられたことが、どうにも腑に落ちないらしい。
理由はダンジョン協会の厳重警備の中、副社長がステータスダウンポーションなんて、あからさまに怪しい物を、簡単にダンジョン内に持ち込むことが出来たこと。
警備をしているダンジョン協会がこれに関わっているのなら、警備を素通り出来たことも、確かに辻褄は合う。
だが一番の問題はそこじゃない。
そもそも俺が副社長の気配に全く気付かなかったことが一番おかしいのだ。
スキル隠密と空歩のスキルで上から奇襲。
作戦だけ聞くと上手くいきそうに見える。
だが、隠密スキルはDEXの高い相手には通用しない。
隠密を使えば気配でどこにいるか分かってしまう。
もし副社長がS級並みの実力だったとしても、SSSのDEXにかなうはずがないのだ。
つまり……
「二つ名レベルを騙せる隠蔽スキルで副社長を隠した別の人物がいる……ってことか」
でも、本当にいるのだろうか。
もしそんな奴がいるとしたら、レッドドラゴン以上の実力があるということだ。
未知のスキル、もしくは俺をも上回るステータスの持ち主。
それはもう人ではない、化物……そう言って差し支えないだろう。
「まぁ、化物って点に関しては、俺も人の事言えないけどな」
レッドドラゴンと同等のステータスを持つ俺を上回る謎の人物。
ダンジョン協会の陰謀。
色々めんどくさい事態に巻き込まれてる感じがするな。
「そっちは宇佐美が調べてくれるらしいし。任せるしかないよな」
あいつはムカつく奴だが、信頼はしている。
それにもしダンジョン協会が黒だとしたら……
「茜の事故とも無関係とは言えなくなるかもしれない」
俺は茶屋の椅子から立ち上がる。
会計を済ませようとおばあさんの元に行く。
「おばあさんごちそうさまでした。お勘定は現金のみですか?」
「スマホ決済でも出来るよ」
「じゃあお願いします」
俺がおばあさんの指さした読み取り機にスマホをかざす。
ピロン♪ という音が鳴って決済が完了する。
「今時ですね。茶屋だから現金のみかと思ってました」
「息子が導入しろとうるさくてね……おや、もしかして探索者さんかい?」
「……? そうですけど、おばあさんよくわかりましたね?」
俺が首を傾げるとおばあさんが腕を指さす。
「この町で、その変わった腕時計付けてるのは全員探索者さんだよ」
俺がこの町に来た時につけさせられたんだよな。
スマートウォッチみたいだけど、機械に詳しくないからよく分からない。
探索者じゃない人はつけてないみたいだけど、これ何か意味あるのか?
「ほらほら、ポイント付けてあげるからかざしておくれ」
「あっ、はい」
言われるまま、俺は腕につけてるスマートウォッチを、さっきの機械にかざす。
ピロン♪ という音が鳴ると腕時計のタッチパネルに、合計30と表示される。
「牛タンの店でもそうでしたが、このポイントみたいなの何に使えるんですか? 大体100円で1ポイント追加されてるみたいですが……」
「ポイント分値引き出来るのさ。1ポイント1円でね? まぁこの町でしか使えないがね」
「なるほど……教えていただいてありがとうございます」
「いえいえ、また来ておくれ」
おばあさんに見送られながら、俺はスマートウォッチを眺める。
「地域限定のイベントみたいなもんなのかな?」
これがいわゆる町おこしって奴なのかも、随分ハイテクな町おこしだ。
探索者対象にしてるってことは探索者の人材不足してるのかな?
人口の約五割、二人に一人が探索者ライセンス持つこのご時世に?
それでも不足してるのなら、田舎の若者不足ってやつかもしれないな。
「ちょっとそこのお兄さん♪ 待ってほしいデス♪」
俺が考え事をしていると声をかけられた。
声のした方に振り向くと、俺より背の高い女の子に声をかけられる。
瑠璃のように染めた髪ではなく、ナチュラルブロンドの髪。
外国の人かな?
でも日本語は喋れるみたいだし、ゆっくりと喋れば分かるかな。
「え~と、俺に、何か、よう、ですか?」
俺が言葉を区切りながら喋ると手で押さえながら少女は笑う。
「片言じゃなくてもいいデスよ♪ 日本語ちゃんと聞き取れますから」
「そうですか。改めて俺に何か用ですか? 道を聞きたいなら――」
「ノー♪ ワタシここ出身なので違います。それより少し協力してほしいことがあるのデス」
協力?
何か困ってるのかな?
「俺でよかったら協力しますよ?」
「サンクス♪ ありがとうございマス♪」
そう言うと少女はパァと明るくなる。
「実はこのスマートウォッチ、フレンド紹介するとポイント貰えるらしいのデスが、生憎友人がいなくて……」
「そんな機能あるんですね。ちょっと俺機械には詳しくなくて、どうやってやるんですか?」
あれ?
今女の子がほくそ笑んだ気がしたが、気のせいか?
「ノープロブレム♪ やり方教えます。これをこうして……」
女の子が自分のスマートウォッチを操作しながら説明してくれる。
俺はその通りに操作すると……ピコン♪ という軽快な音が響く。
『決闘の申請が受理されました。仮想ダンジョン展開します』
スマートウォッチから機械音声が流れた後、結界のようなものが展開し。
体がふっと軽くなる。
まるで、ダンジョン内に入った時の感覚だ。
「えっ?」
俺が驚いたのも束の間、スマートウォッチからスライムのような液体が自分の体を包んだ後、すぐに液体は見えなくなる。
「さっきから何なん――」
咄嗟に俺は姿勢を下げた。
意識したわけじゃない、無意識もしくは反射的に避けた。
俺の頭が在ったところには、ゲル状の斧が振るわれている。
その斧を振るったのは、ニヒルに笑う金髪少女だった。
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