SS:スクランブルエッグを作ろう!

 ある日の事。

 猫宮さんが俺の家にやってきた。

 何と俺に料理を習いに来たそうだ。

 ――かなり意外だった。


 理由を聞くと……


「お兄さんの配信で、うちめっちゃ料理音痴って言われたんだよね☆ マジショックで☆ だからお願い☆ 汚名挽回したいんよ☆」


「成程ね、料理の事ならもちろん力になるよ。……だけど、汚名は挽回するんじゃなくて、返上だよ?」


「それ☆ お兄さん学校通ってるうちより賢い☆」


 猫宮さんに肩をバンバンと叩かれる。

 俺もこのノリに随分慣れたなぁ……


 さて、妹の友人が俺をせっかく頼ってくれたんだ。

 期待には答えなきゃな。


「じゃあ、早速練習開始するか」


「よろ☆」


 俺達はキッチンに移り、二人はエプロンをつける。

 食材も買ってきてあるので準備ばっちりだ。


「それじゃあ作っていこう!」


「「おぉ!」」


「うん?」


 今掛け声一つ多くなかったか?


 猫宮さんとは逆方向を見ると、そこにはエプロンを装着している瑠璃が立っていた。

 いつの間に二階から降りてきたんだ?


 瑠璃がこちらを見て首を傾げる。


「どうしたのお兄ちゃん?」


「いや……瑠璃も作るのか?」


「うん♪ 私も料理出来るようになれば、お兄ちゃんに楽させてあげられるし♪」


「瑠璃……」


 俺の目頭が熱くなる。

 少しでも俺の負担を減らそうと……


 こんな兄思いの妹に育ってくれて本当に嬉しく思う。


「お兄さん泣いてんじゃん☆」


「ちょ!? お兄ちゃん泣くほどなの!?」


「嬉しくてな……よし! 俺頑張って教えるよ!」


 そう意気込んだのは良かったんだが……


「卵は殻ごと入れればカルシウム取れるっしょ☆」


「殻はちゃんと捨てて!?」


「砂糖の適量……これくらいだね♪」


「一握りも砂糖入れるな!?」


「「これを一気に強火で!!」」


「やめて!?」


 ……と、このように教えるのはかなり難航した。


 人に教えるのって、こんなに難しいのか……

 そして、失敗作はどんどんと積み上がっていった。


「レベチ……」


「料理ってこんなに難しいんだ……失敗ばっかり」


 ぐったりとした様子の二人。

 失敗続くとメンタルに来るよね。

 俺もそうだったな……


「初めはみんなそうだよ。俺だって色々失敗してここまで来たし」


「例えばどんな失敗?」


「そうだな……野菜炒め作るとき洗わず丸ごと切って入れた。――野菜炒めがじゃりじゃりしてたの今でも覚えてる」


 あの時の野菜炒め、顔をしかめるくらいやばかったな。


 俺は失敗したのが悔しくて、何度も何度もやってるうちに上手くなっていって美味しく出来たのが嬉しかったのを覚えてる。


「大丈夫、料理はトライアンドエラーだ。頑張っていこう」


「「うん!」」


 二人が気合いを入れ直しキッチンに向かう。

 俺は邪魔にならないように遠くから見る。


 今日作ろうとしてるのはスクランブルエッグ。


 卵を割る、調味料入れて卵と混ぜる、混ぜた卵液を焼く。

 この三工程で出来るお手軽料理だ。


 野菜炒めも候補にあったけど、炒めながら調味料入れるのは初心者には難しいかなってことで、この料理だ。


 瑠璃が卵を割り、猫宮さんが塩、砂糖、牛乳と混ぜ合わせる。

 役割分担出来ていて、今の所順調だ。


 二つのコンロにそれぞれフライパンを用意し。

 緊張した瑠璃と猫宮さんが前に立つ。


「い、行くよ……」


「りょ、りょぴ☆」


 二人が熱したフライパンに卵液を入れる。

 中火でかき回しながら、火を通していく。

 卵液が完全に固まりきる前に火を止めて器に盛る。


「か、完成した!」


「テンションあげ☆」


 二人は手をつないで喜んだ。


 ふわふわで鮮やかな黄色のスクランブルエッグに仕上がっている。


 俺はスプーンを二人に渡す。


「さぁ、せっかくだから出来立てを食った方がいいぞ」


「そうだね♪」


「りょ☆」


 二人がスプーンを受け取り、みんなで手を合わせる。


「「いただきます」」


 スクランブルエッグを一口頬張り、頬を緩ませる。


「ふわふわに出来てる~♪」


「鬼ヤバ☆」


「最初からすっごい成長してるよ。二人とも」


 俺がそう言うと嬉しそうに二人は笑う。


「とりま、これで料理音痴卒業☆」


「私も料理できるようになったよ♪」


 その光景を見て俺は微笑ましかった。

 料理ってやっぱりいいな。


 俺は立ち上がる。


「ごめん二人とも、俺これから用事あるから食べ終わった食器は、流しに置いておいてくれ。後で俺が洗っとくから」


「それくらい私がやってあげるよ」


「ありがとう瑠璃」


 俺は準備を済ませて外に出る。


 残された二人は綺麗に出来たスクランブルエッグを完食した。


「美味しかった♪」


「それな☆ でも、失敗作食わなきゃじゃね?」


「あ……そうだった……」


 二人は失敗した料理の皿を恐る恐る覗き込んだ。

 だが……


「あれ!? 全部無くなってる!?」


「ま!?」


 二人は慌てた様子で皿を確認したが、綺麗さっぱりと無くなっていた。

 代わりに一枚の紙が置かれている。

 そこには瑠璃が見覚えある字でごちそうさまでした、と書かれていた。


「これ、お兄ちゃんの字……失敗作全部食べてくれたんだ……」


「何そのイケメンムーブ☆ 惚れちゃいそ☆」


 瑠璃は渋い顔で桃を見る。


「……やめといたほうがいいよ」


「どして? お兄ちゃんとられるのいや系?」


 首を横に振る。


「いや、私より後で藍ちゃんに知られたらどんな目に――」


「は~い☆ やっぱ今のなしで☆ ごめんねお兄さん☆」


 言い終わった瞬間、二人とも楽しそうに笑いだす。


 自分の知らぬ間に突然振られることとなる。

 可哀想な橙矢なのであった。

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