第31話 レッドドラゴンのコンフィ

 互いに調理する食材を確保し、それぞれ調理に入る。


「さて、まずはタヌポン様の視点から見ていきましょうか!」


 そう言うと画面が切り替わり、一人称視点に変わる。


:タヌポンの視点!?

:でもさっきまでカメラつけてなかったよね?

:仮面に仕込んであるってことか?

:音もしっかり拾ってる

:ドラプロの技術やっば

:金あるなぁ

:流石、配信専門にしてる会社


「すごい、カメラの方見なくてもコメント欄が見れる! しかもあんまり重くないし邪魔じゃない!」


「我が社の最新技術を詰め込んだ商品です。仮面配信者の方はこの機会にぜひお求めください!」


:通販番組かよw

:忘れてるようだがこっち会社のチャンネルだからな?

:ステマは基本

:科学の進歩ってすげぇ


「――って感心してる場合じゃないよな。まずは……」


 肉にいつもの謎の黒いスパイス、塩胡椒を振りかけてから肉を角切りにしていく。


:今回まじで何するんだろ?

:少なくともステーキじゃないな

:音割れ焼肉w

:懐っつ

:初回の伝説配信


「あれから本当に色々あったよなぁ……俺がここに立ててるのもリスナーのおかげだよ。本当にありがとう」


:いきなりどうしたタヌポンw

:感極まった?

:テンション違って風邪ひくわw

:だが、素直に感謝できるの偉いぞ

:これからも応援する

:いじりも続けるからな


「それはやめてもらっていいかな!?」


 タヌポンが角切りの肉を熱したフライパンに投入する。

 ジュゥゥゥと言ういい音が響く。


:やっぱ肉と言えばこれだよな!

:見てるだけで腹減ってくる

:タヌポンの代名詞!

:うまそう……


「よし、後はこれを一旦別皿にとっておいて、ご飯と一緒に炊く!」


:ふぁ!?

:炊き込みご飯って、こと?

:まじか!?

:でも合うか?


「味付けはみんなも食べたことある、パーティー料理の定番だ」


 土鍋の中に、水、米、さっきほど焼いた肉。

 バター、コーン、焼肉のタレ、おろしにんにくを全て入れていく。


:ガーリックライスか!

:正確にはその味の炊き込みご飯だな。

:いや確かにパーティーメニューだけども!?

:ホームパーティーの方やんけw

:一気に庶民的に……

:おっきなパーティー会場でなにやってんねんw

:やっぱタヌポンだわw


 タヌポンが土鍋を火にかける。


「後は炊き上がるまで、まって少し蒸らせば完成だ」


「はい! では次は宇佐美様の視点に移っていきましょう!」


 画面が切り替わり宇佐美さんの視点に移る。


「あら、わたくしの番ですわね。今はちょうど漬け込んで置いた肉を取り出すところですわ」


 宇佐美の小さい手には、キラキラと光る肉を持っている。


:キレイ

:これ同じ本当に同じ肉か!?

:宇佐美様の手も光って見える

:ロリ……手がてかてか……閃いた!

:通報した

:ほんとこのニキこりないなぁ……


「肉が光って見えるのはオリーブオイルのせいですわ♪ オリーブオイル、おろししょうが、ローリエ、タイム、とあるスパイスを肉と一緒に入れて一晩マリネ――寝かした物がこれですわ♪」


:手間がやっばいな!?

:タヌポンは庶民料理感あったけど

:こっちは完全に高級料理っぽいですわ!?

:対極の二人だな

:庶民タヌキとウサギのお嬢様

:果たしてどちらが勝つんでしょう?


「もちろん、わたくしが勝ちますわ♪」


 宇佐美さんは、鍋に漬け込んだ油と一緒に肉を煮詰めていく。


「後は弱火でじっくり煮込んだ後、肉だけ取り出して表面を焼いていきますわ♪ その前にソースを作りますわね♪」


 宇佐美さんがフライパンを取り出す。


「フライパンにバルサミコ酢、赤ワイン、醤油、蜂蜜を加え、中火でひと煮立ちさせたらバルサミコソースの完成ですわ♪」


:何かもう……

:タヌポン勝ち目ある?

:レベル違い過ぎて……

:料理人に一般人が勝てるわけないだろ!

:いい加減にしろ!

:もう審査員にかけるしかない!


「だといいですわね♪」


 煮込み終わった肉を熱したフライパンで焼いていく。

 ジュワァァと言う肉の焼けるいい音が響く。


:あぁ肉が焼ける音ぉぉぉ……

:水素の――

:言わせねぇよ!?

:もうふざけないとやってらんない

:潔く負け認めた方がためじゃないか?


「絶対諦めないからなぁぁぁ!」


 タヌポンの声が配信に入る。


:草

:声が引きつってますわw

:口調がいつの間にかうつってますわ!

:もうやめて!

:タヌポンのライフはゼロよ!


「安心してくださいまし。せめて完膚なきまでに負かして見せますわ♪ 料理人として一般人に負けられませんもの♪」


 焼きあがった肉をまな板の上で切り、白い皿に並べていく。

 ソースを皿の上から、まるで絵を描くように、美しく、綺麗にかける。


「完成しましたわ♪ レッドドラゴンのコンフィ・バルサミコソースを添えて、ですわ♪」


キラキラとした肉が花のように綺麗に飾られ、バルサミコソースでさらに皿をより高みに押し上げる。


:やっば!

:高級ディナーでしか見たことないの出てきた!?

:もはや芸術品の域だろ!?

:コンフィ?

:簡単に言うとオリーブオイル煮

:前作ったアヒージョじゃなくて?

:ニンニク使わないのがコンフィ

:ニンニク入れるのはアヒージョって覚えるといいかも

:なるほど……

:そもそもアヒージョはスペイン料理

:コンフィはフランス料理だからな

:勉強になるな


 視点が変わり、全体カメラの方に移動した。

 審査員の元に皿が運ばれていく。


 宇佐美さんが両手を広げた。


「さぁ、ご賞味あれボナペティ♪」


「「「「いただきます」」」」


 四人がフォークとナイフで肉を食す。

 感想は……


「うむ、ソースにバルサミコ酢を使っていてさっぱりとしているな」


「肉なのにあっさりしてますね」


「うめぇな」


「香草が爽やかで食べやすくていいわね」


 それぞれ、反応は上々のようだ。


:兎さん勝ったな風呂入ってくる

:は~い解散

:誰もタヌポンの勝利信じてなくて草

:いや、無理だろ

:もうダメだ……おしまいだ……

:勝てるわけないよ

:どこの王子様の話ししてます?


「少しくらいは俺を信じてくれよ」


 ガックリと遠くで肩を落とすタヌポンが映る。


:あっ、ちゃんと見えてるの忘れてた

:いつもコメント欄あまり見ないから

:ごめんタヌポン、わざとだ

:わざとなんだw

:確信犯だw


「ひどい!? まぁでもせめてこれを見てから言ってくれ!」


 タヌポンが土鍋を抱えて審査員の目の前の机に置く。

 審査員それぞれに茶碗と箸、スプーンが配られる。


「スプーン? 炊き込みご飯じゃなかったか?」


「まぁそれは後でわかりますよ」


 タヌポンが土鍋の蓋を開けるともくもくと湯気が上がる。

 中はゴロゴロとレッドドラゴンの肉が転がり。

 全体的に茶色の中にコーンと上から散らした小ねぎがアクセントの炊き込みご飯に仕上がってる。


「レッドドラゴンのガーリックライス風炊き込みご飯だ。冷めないうちにどうぞ」


「「「「おぉ」」」」


:実家のような安心感

:うまいだろうけど……

:あれ越えはないでしょう

:インパクトはこっちが上のはずだから!


 四人に炊き込みご飯を盛り、全員が一口ほおばる。


「うむ。バターの濃厚さとタレが肉によく絡んでいる」


「ニンニクが食欲をそそります」


「うめぇな!」


「コーンもいいアクセントになって美味しいわ」


 上々な様子……だが先程よりは反応が薄く感じる。


:あぁ……

:やっぱダメか

:分からせ失敗か……

:分からせニキ残念がってて草

:まぁしゃあない

:プロに勝つのは難しいってことだ


「それでは審査の方に入らせて――」


「待った!」


 審査に入る寸前。

 そこでタヌポンが何と待ったをかけたのだった。

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