第25話 レッドドラゴン討伐配信(3)
私が他の探索者の誘導を終え。
階層ポータル付近まで戻ってくると、罵声や怒声がここまで響いてくる
まさか、葉賀さんに何かあったんじゃ!
そう思ってポータル前まで走り寄る。
だが、私が一番最初に見た光景は……
「だ・か・ら! 俺ごと撃ち抜くなんてアホなのかって言ってんだよ!」
「避けられない貴方が悪いのではなくて? あ、鈍亀には無理な話でしたわね♪」
「誰が鈍亀だクソ兎! 元はと言えばお前の作ったポーションでこんな遅くなったんだろうが!」
「あら、言い訳ですの♪ 情けないですわね♪」
少女と言い合う葉賀さんの姿だった。
葉賀さんをからかう小学生のような少女。
それに葉賀さんは怒りをあらわにする。
温厚な葉賀さんが、ここまで怒るなんて。
この少女は一体……
私の存在に気が付いた葉賀さんは、いつもの笑顔に戻る。
「龍巳さん誘導ありがとうございました。おかげで制圧できました」
「わ・た・く・し・の、おかげでしょ? 倒した数も分からないようでしたら、小学生からやり直したらいかがかしら♪」
葉賀さんは笑ったまま、額の青筋がピクピクと動く。
この少女に対して葉賀さんが相当怒っている事が見てるだけでも分かる。
「あの……その方は?」
「気にしないでください。ただの迷い込んだクソガキですから、今すぐここから叩きだします」
「ボキャブラリーがクソしかないの程度が知れますわよ鈍亀♪ それに貴方がわたくしに勝てるとでも思っていますの♪」
「「あ゛?」」
葉賀さんと少女はバチバチと睨み合う。
く、空気が重い……
葉賀さんが首を鳴らす。
「上等だ。今ここで決着つけてやるよ」
「望むところですわ! 二人まとめてかかってらっしゃい!」
「私も数に入れられてる!?」
いきなり二人の勝負に巻き込まれました!?
レッドドラゴンの討伐に来たはずなのにどうしてこうなったんでしょうか!?
止めないと!
「葉賀さん! これからレッドドラゴン討伐なのに、そんなことしてる場合では!」
「……」
私の話が聞こえていないのか。
葉賀さんは何も答えずストレッチをする。
「勝負内容は?」
少女がポータルを起動させる。
「先にボスフロア前までたどり着いた方の勝ちとしますわ♪」
「シンプルでいいじゃんか。負けても子供みたいに泣くなよ?」
「そちらの方がみっともなく、泣くんじゃありませんわよ♪」
「お二人とも! 私の話聞いてくださいよ~!!」
瞬間、ポータルで全員が転移した。
□□□
九十層に着くと多くの探索者が待ち構えていた。
暗い顔でこちらを見つめるものや、好戦的な視線などが入り混じった視線を向けられる。
「……階層攻略してきたってわけじゃないよな」
龍巳さんは杖を構え、戦闘態勢になる。
「おそらく、葉賀さんに助けてもらったメンバーと転移同行で来たのでしょう」
なるほど。
時間はかかるが攻略するよりは一番簡単か。
宇佐美が笑いをこらえながらこちらを指さす。
「助けた人に足元すくわれる気分って、一体どんな気持ち何ですの鈍亀? わたくしに教えていただけますかしら♪」
俺は舌打ちし、正面を見る。
「……うっせぇ」
周りを見渡すと大体百人以上いるだろうか。
この数をかいくぐっていくのは骨が折れそうだ。
全員が武器を構えこちらと相対する。
「勝負の合図は?」
「これが落ちたら、ですわ!」
宇佐美がポケットから硬貨を投げ捨てた。
クルクルと回転し、空中で対空する。
最後に地面に落ちる瞬間。
硬貨が跳ねた。
「さぁ、
宇佐美の銃口から魔方陣が展開され、辺り一帯を覆いつくす程の規模に達する。
それを見たスダモ社員は顔を青ざめた。
「――た、退避! 退避~!!」
集団が蜘蛛の子を散らすように後ろに逃げようとするが、もう遅い。
魔方陣から水の弾丸の雨あられが降り注ぎ。
大半の探索者にヒットする。
弾丸の雨が降りやむとボスフロアまでの道が出来上がる。
宇佐美は跳ねるように前へと進む。
「それじゃあお先に失礼しますわ♪」
「待ちやがれ!」
俺は龍巳さんをお姫様抱っこで持ち上げる。
「は、葉賀さん!?」
龍巳さんは顔を真っ赤にして、こちらを見る。
俺なんかに触られるの嫌かもしれないですけど、ちょっと我慢してくださいね。
「俺が走った方が早いですから、行きますよ? 舌、噛まないでくださいね!」
「きゃあぁぁぁ!?」
俺が龍巳さんを抱えた状態で通路を駆ける。
正面には奥まで逃げていたスダモの探索者が、数名倒れているのが見えた。
その奥には、サブマシンガンを撃ちまくる宇佐美の姿がある。
後ろに振り返って俺を嘲笑う。
「やっと追いつきましたの? 鈍亀はやっぱ鈍亀ですわね♪」
「鈍亀って、言うな!」
宇佐美に向けて、蹴りを繰り出すが軽く避けられる。
代わりに宇佐美の後ろにいたスダモ探索者を蹴り飛ばす。
ケラケラと宇佐美が笑う。
「遅くてノーコンだなんて、救いようがないですわね♪」
宇佐美がこちらに銃口を向ける。
サブマシンガンから水弾が俺の顔目掛けて飛んでくる。
首を少し横に逸らし、これを回避。
俺の背後にいたスダモ探索者の頭に当たり、ばたりとスダモ探索者が倒れる。
「お前も外してんじゃねぇか? ガンナーがノーコンは致命的だよな?」
「わたくしは優しいからわざと外してあげたんですのよ? そんなことも分からないのかしら♪」
「俺もわざと蹴りを外しただけだが? 背後取られるのも気がつかないのか?」
「貴方もですわよ鈍亀♪」
「「アハハ! ――潰すぞ(されたいんですの)!!」」
俺達のにらみ合っている最中にカメラをこちらに向けようとするスダモ社員を見つける。
多分俺達が暴力を振るってるシーンだけ切り抜いて、悪評を広めるつもりだろう。
「させるかよ!」
俺が走り寄ろうとするが、それより先に宇佐美がノールックでそのカメラを撃ち抜いた。
ガチャリと落ちたカメラをスダモ社員が青ざめて見つめる。
「させませんわよ? 他にも何人か撮ろうとした方がいらっしゃったようですが、全て撃ち抜かせてもらいましたわ♪」
くるりと振り返り、宇佐美はおもちゃを見つけた子供のように笑う。
「ひっ!?」
にこりと宇佐美が笑うとスダモ社員が一目散に逃げていく。
ふんと宇佐美は鼻を鳴らす。
「全く、レディーを見て逃げ出すなんて失礼な方ですこと」
「レディー(笑)だろ?」
「――撃ち抜かれたいんですの?」
宇佐美は笑って、俺に銃口を向ける。
いつでも蹴りを出せるように態勢を取って鼻で笑う。
「やれるもんならやって――」
その時、龍巳さんが俺の服を思いきり引っ張る。
「あの二人共! もうボスフロア前ですよ!!」
「「え?」」
龍巳さんの大声に我に返る。
後方をよく見ると、ボスフロア前にある扉があることに気づく。
「同着、ですわね。つまらない幕切れですわ」
「本当にな」
ジト目で龍巳さんは俺を見る。
「あの、そろそろ下ろしてもらってもいいですか?」
「あ、はい……あの、すみません」
俺は慌てて不機嫌になっている龍巳さんを下ろす。
「私が何度話しかけても無視されるので、本当にどうしようかと思いました」
プイっと龍巳さんがそっぽを向く。
俺は両手をつけて謝った。
「すいません、頭に血が上ってつい……」
呆れたように龍巳さんはため息をつく。
「……戦いの前なんですから、しっかりして下さいよ葉賀さん」
”戦いの前なんやさかい、しっかりしてや橙矢”
昔の映像と今の映像が被って見える。
前にもあったが、今度は幻聴もか。
俺は頭を振って幻覚を振り払う。
「――そう、ですね。気を付けます」
「……」
俺が意気揚々とボスフロアの扉に手をかけようとした。――瞬間だった。
バシャリと冷水が頭にかかる。
ずぶ濡れになった俺は後方を睨みつけた。
「何のつもりだ、宇佐美」
振り返ると銃口を持った宇佐美が立っている。
「――話はまだ終わってませんわよ?」
宇佐美は先程のこちらをバカにしたような態度ではない。
それは……視線の先を憎悪する。
深く――濁った瞳だった。
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