第23話 レッドドラゴン討伐配信(1)

 ドラゴンダンジョン入口前。


 画面には、タヌポンと龍巳陽子が大きく映し出された。

 

「どうも、ドラプロ所属になったタヌポンと」


「ドラプロ所属の龍巳陽子と申します」


 カメラに向かって手を振るタヌポン。

 その隣で龍巳ちゃんはお辞儀をする。


:盛り上がってまいりました!

:やったぜ!

:無職からここまで登り詰めたなタヌポン

:呪え!

:誤字ってるw

:祝わないんかいw


「今日はダンジョン協会から許可が下りたので、ここドラゴンダンジョン入口から放送しております」


タヌポンがカメラを持ち、ぐるりと周囲の様子を映す。

周りは多くの人が配信に映ろうと、ピースする者や手を振る者などがいる。


:行ける人いいなぁ……

:俺も行きたいが流石に東京じゃなぁ……

:都心住みのわい完全勝利!

:なんだぁ? てめぇ?

:田舎民! 切れる!


「あ、あまり喧嘩は……」


 龍巳ちゃんがコメント欄を見てあわあわとする。


:可愛い

:かわいい

:天使

:女神

:隣の狸が邪魔だなぁ?

:吊るし狸

:慈悲はなし


「はいはい、いつものいつもの」


 タヌポンはいつものやり取りにも慣れてしまって、やれやれとポーズする。


:あれ?

:いつもとタヌポン服装違くない?

:全体的に茶色い……


「俺の仕事着――というか防具だな。良くない?」


 タヌポンは胸を張って自分の服を全面に押し出す。


 二人の服装は、タヌポンが全体的に皮のような素材が多く、コメントの通り茶色い。


 龍巳ちゃんは白いローブにオーブが先端に着いた杖を両手で抱えるように持っている。


 コスプレかと思われるかもしれないが、これが正式な探索者の服装である。

 それだけ、今回は本気だということだ。


 タヌポンの服の感想はというと……


:ださい

:古臭い

:そもそも臭い


「もう最後ただの悪口じゃねぇか!? この防具結構気に入ってるのになぁ……」


 タヌポンは肩をがっくりと落とす。


「わ、私はいいと思いますよ? 趣あって」


「ありがとう……龍巳さん……」


:精一杯のフォロー

:龍巳ちゃんに感謝しな

:草

:ださださ、た~ぬき♪


「もうタイトルコールいこうか!?」


「そ、そうですね」


 タヌポンの上ずった声とともにデンという効果音が鳴る。


「「レッドドラゴン倒してみた」」


 周りから大歓声が上がる。


:遂にか!

:やっと真相が明らかに!!

:わくてか

:おっしゃ!


「――ていう事で、レッドドラゴンのいる九十層まで移動するから、ちょっと待っててくれよな」


 そう言うと待機画面に切り替わり、向こうの音も聞こえなくなる。


:移動までしばらくお待ちください

:なうろうでぃんぐ♪



 □□□



 カメラを一端止め、俺が脇に抱える。

 いつでも起動できるようにスタートボタンに手をかけておく。


「こっからは妨害があるから、いつでも配信始めるようにしとかないとな」


「そうですね」


 俺と龍巳さんは歩いてドラゴンダンジョンに向かう。


 周りは人だかりが出来ている。

 だが、柵でしっかりと仕切られており。

 こちらに近寄ってくる者はいない。


 ダンジョン協会の人も巡回していて、警備体制がしっかりと整っている。


「それにしても、すごいな。龍巳さんのお父さん、一日で、ダンジョン協会からの協力を取り付けるなんてさ」


「父も私をあの会社に行かせた罪悪感あるみたいで、急ピッチでセッティングしてくれました」


「本気度合がすごいな……」


 よっぽど娘を殺されかけたことが腹に据えかねていたのだろう。

 訴え返す準備を万全にしていると、龍巳さんから聞いた。


 後は俺が討伐するだけで、裁判があったとしてもこちらが絶対に勝てるとようにしているとのことだ。


 ――責任重大だな。


「ただ、すみません。ポーションだけはやはり準備できず……」


 龍巳さんが申し訳なさそうに謝る。

 俺は首を横に振った。


「仕方ないですよ。一日で手に入る代物じゃないのは分かってたことですから。」


 むしろ、ドラプロがここまでしてくれるとは思ってなかった。

 龍巳さんのお父さんに感謝だな。


「それに無策ってわけでもない。期待してるよ龍巳さんのスキル」


「はい、任せてください」


 龍巳さんは力強く返事する。


 話をしながら歩いていると、ドラゴンダンジョンの入場ゲートにたどり着く。

 ここまで来るとほぼ一般人は入ってこれず、探索者が多い。

 近づこうとする者も出てきたが、ダンジョン協会の人が

 押さえてくれているのでこちらまで来ない。


 VIPにでもなった気分だ。

 高揚した気分を抑えて、俺は自分の拳と拳を合わせる。


「さてと、じゃあ行きますか!」


「はい!」


 俺が意気揚々と入場ゲートをくぐった瞬間。


 バシャっという音とともに頭に何かが降りかかる。

 手で触ると髪が湿っていた。


 天井を見上げるが、それ以上は水滴は垂れてこない。

 その様子を不思議そうに龍巳さんが見る。


「どうかしたんですか?」


「……いや、大丈夫です。ただ上から雨漏りしてたっぽいので、龍巳さん気を付けてくださいね」


 俺が笑いながら言うと龍巳さんが苦笑いする。


「さ、先行き不安ですね……」


「一応頭上注意してだけ行きましょう」


 頭上を注意しながら、俺達は階層ポータルまで急ぐ。



 □□□



 橙矢達がポータルへ向かってから数分後。

 入口頭上から人が降りてくる。


 隠密スキルを解除して現れたのは、福田株式会社の元副社長、山崎だ。


 成功したことに安堵して一息つく。


「き、気付かずに行ってくれて良かった……」


 山崎は胸を撫で下ろす。

 そして物悲しげに橙矢達の方を見つめる。


「本当にすみません……葉賀様……でもこうするしか……」


「謝るくらいならしなければいいですのに」


「――!?」


 山崎は声のした後ろへ振り返る。

 そこには、ゴスロリ衣装に身を包んだ少女が立っていた。


 少女の登場に山崎はひどく動揺する。


「う、宇佐美様!? な、何故ここに!?」


「ちょっと用事がありましたのよ。それよりも……」


 宇佐美と呼ばれた少女がギロリと睨む。


「わたくしが前に会社に置いていった、ステータスダウンポーション。こんな事に使うとは――いい度胸ですわね?」


「いや、それ……は」


 宇佐美はニコリと笑って、両手に持ったサブマシンガンの銃口を山崎に向ける。


「ひっ!?」


 銃口を向けられ、山崎はガタガタと震える。


「鈍亀がひどい目に合おうと、構いませんわ♪ で・す・け・ど♪ わたくしのポーションを使ったことが許せませんの♪」


「ゆ、許して下さい! 脅されて仕方なく!」


 山崎は宇佐見に必死な表情で訴える。

 宇佐美はつまらなそうに銃口を下げた。


「でしょうね」


「え?」


 山崎は肩透かしをくらったように、ポカンと口を開ける。

 宇佐見が冷めた目で山崎を見た。


「どうせ、こうしないと社員をクビにするとでも言われたのでしょう?」


「……!? 何でその事を!?」


 山崎は図星を付かれ驚愕する。

 宇佐美は腕組みをして、話し続けた。


「貴方の事は昔から知っているつもりですわ。貴方がこんなことするのは、いつも社員のためですわ。」


「……」


 山崎は肩を落として、俯く。


「社長に……言われたんです。葉賀さんを、これで弱らせろと……そしたら社員のクビは考えてやるって」


「ほんと、あのボンボンクソメガネは碌なことしませんわね」


 宇佐美は呆れたようにため息をつく。

 山崎を宇佐美は指さした。


「それに乗る貴方も貴方ですけど。」


「私だって、こんな事したくなかった……」


 山崎は涙をポロポロと流す。


「でも……社員を、会社を守るためには……何かを切り捨てないと……葉賀様には、クビの時庇えなかったことも、今も本当に悪いことをしたと思って――」


「なるほどですの♪」


 宇佐美はにこやかに笑う。


 瞬間、乾いた複数の銃声音が響く。

 山崎の後方の壁に無数の弾痕が刻まれ、水が滴る。


 驚きのあまり山崎は地面に膝をついた。

 宇佐美は座り込んだ山崎に近寄り、襟を引っ張る。


「――ふざけんじゃねぇですわ? あの、お人好しにどこまで甘えれば気が済みますの?」


 宇佐見は、静かに、それでいて深い怒りをあらわにした声を出すとプルプルと山崎は震える。


 ぱっと手を離して、宇佐美は遠くにいる橙矢を忌々しそうに見る


「ほんと、お人好しもここまでくると滑稽ですわね」


 宇佐美は足に力を込め、前傾姿勢を取る。


「鈍亀には後で謝っておくのをおすすめしますわ。どうせ、怒ってないですよとかバカみたいに言うはずですわ!!」


 音を置き去りにし、通路を宇佐美は走り抜ける。

 後ろからは嗚咽交じりの山崎の鳴き声だけがいつまでも響いていた。

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