第21話 レッドドラゴン討伐作戦会議

 店のバックルームで、お互いに自己紹介を終えた後。

 俺は親方にスダモであった出来事を全て話した。


 その際に、俺が配信者になったことも話したら、親方にはかなり驚かれてしまう。


「オレと同じで機械音痴の坊主が、配信? とか言うハイカラなもんしてるなんて、信じられねぇぜ」


 親方がニカッと笑い、俺は苦笑する。


「まだまだ、妹に教わりながらですがね」


「兄妹仲が良くて結構じゃねぇか!」


 俺達がそんな話をしていると、龍巳さんが恐る恐る手を挙げた。


「あのぉ……そろそろ本題に……」


「おう、そうだったな。だがレッドドラゴンか……」


 親方は神妙な顔で考える。

 しばらく熟考したうえで親方は結論を口にした。


「流石の坊主でも……無理じゃねぇか?」


 親方がそうはっきり言う。

 龍巳さんは焦ったように反論する。


「で、ですけど! タヌキさ――葉賀さんは一度、お一人でレッドドラゴンを倒していますし、今回も……」


「いや、今回は前みたいに簡単には行かないかもしれない。」


 俺がそう言うと、龍巳さんが悲しい顔をする。

 龍巳さんにそんな表情をしてほしくはなかったが、前回とは状況が全く違うのだ。


 親方の見立ては間違ってはない。

 俺の素のステータスでは、死ぬ覚悟で挑んで勝率五割だ。

 あの時簡単に勝てたのは、一度きりの奥の手を使ったから――もうあの手は使えない。


 それに……


「おそらく、スダモからの妨害がほぼ確実にある。奥の手の強化ポーションは使いきったからなぁ……」


「ポーション? まさか坊主! 宇佐美嬢ちゃんのポーション使ったのか!?」


 親方が信じられない物を見る目で見てくる。

 龍巳さんが首を傾げる。


「宇佐美?」


 俺はその名前を聞いて、深いため息をつく。


「俺と親方がいたパーティーメンバーの一人だよ――俺がメンバーの中で、唯一絶対に会いたくない奴」


「温厚なタヌキさんに、そこまで言わせる人物なんですか!?」


 龍巳さんが驚愕する。


 俺にも嫌いな相手の一人二人はいるさ。

 あいつは特にだけど。


 親方は腕組みして頷く。


「……まぁ宇佐美の嬢ちゃんは、坊主には特に当たりきつかったしな」


 親方が目線を逸らしながら、そう答えた。


 本当だよ。

 あいつはいつだってそうだ。


 俺が防御力高いのをいいことにサンドバッグのように、サブマシンガンで俺の頭を何度も撃つし。

 食事にステータスダウンポーションを混ぜる。

 何かするにも毎度文句ばかりつけてくるのだ。


 思い出しただけでイライラしてきた。


 確かにムカつく奴……だけど。


「あいつの薬を作る腕だけは確かだ。売ったら一本百万は下らない」


「百万!? それをあの時使ったのですか!?」


 龍巳さんがその値段の高さに驚愕する。

 普通なら、躊躇するだろうけど。


「人の命には代えられないしね……どうせ俺売る気なかったし、だったら使い時はここかなって」


 パーティー解散の日。

 最後に置き土産のようにそのポーションを手渡し。

 ――こう言ったのだ。


 貧乏人にはもったいない代物ですわ♪

 売れ残りあげるから、ありがたく受け取りなさい鈍亀♪


 売ってお金にすれば、少しはその貧乏顔がまともになるんじゃないかしら♪


 あっ、そしたらワタクシに一生感謝しなさいね♪


 ――とムカつく事を言われたので、俺はこの時絶対に売るものかと心に決めてた。


 売らないのなら、人命救助に使った方がましだと、俺はあの時、使うのを少しも躊躇わなかったな。


「結果的に助かったが、絶対にあいつには感謝したくない」


「あはは……」


 俺の話を聞いた龍巳さんは苦笑いになる。

 親方は難しい顔でこう言った。


「だが、どうするんだ坊主。ポーションもねぇ、妨害もある、不味い状況なのは代わりねぇぞ」


「そうなんですよねぇ……」


「「う~ん」」


 二人で頭を抱える。

 考えてもいい考えは思い浮かばない。

 なら……


 俺は龍巳さんの方を見る。


「龍巳さん、とりあえず俺のステータス見てくれる? もしかしたら、それで何かいいアイディアでるかもしれないし」


「えっ、見せてもらってもいいんですか?」


「構わないよ。そうでないと作戦立てにくいだろうし」


 俺はスマホのダンジョンアプリを起動させる。


 ダンジョンアプリは、ライセンスと連動して使える。

 探索者専用のアプリ。


 探索者同士のやり取りや、探索者だけのSNS、討伐記録の確認など、様々な機能がこのアプリ一つあれば、全て片付く優れもの。


 そしてこのアプリの一番すごい所は、専用の機械にライセンスを読み取らなくても、自分の現在のステータスを確認ができる事だ。


 俺は自分のステータス表示をタップし、画面に表示させる。


「はい、これが今の俺のステータス」


 親方と龍巳さんが目を見開く。


「……え? これ……」


「――おいおい、前より化け物になってんな」


 ステータスは以下の通りだ。


 △△△


〈葉賀 橙矢〉


 ATK:S

 DEF:S

 INT:E

 DEX:S


〈スキル〉


【鉄壁:S】【挑発:S】【弱点看破:S】

【罪なる者:弐】


 ▽▽▽


 ステータス値とスキル熟練度は最低がEで、最高がSで表記される。


 ATKが攻撃力。

 DEFが防御力。

 INTが魔力。

 DEXが身体能力。


 となっている。

 一つのスキルだけ表記が例外だけどね。


 龍巳さんがスマホ指さしながら、声を震わせる。


「これ、基礎ステータス……ですよね? なら装備したらもっと――」


「坊主は武器が使えない……スキルの効果でな」


 親方は罪なる者のスキルを見て悲しい顔をする。


「俺のスキル、罪なる者の効果でね? 常時、表示されてる基礎ステータスの段階を二段階引き上げる。代わりに、武器の装備不能、デバフ効果二倍ってデメリットがあるんだ」


「だから武器を使っていなかったんですね」


 納得したような表情で龍巳さんがスキルの罪なる者を指さす。


「これって、どういう経緯で取得したものなんですか? スキル取得条件とか教えてもらうことって――」


「ちょっと待て嬢ちゃん、それは!!」


「え?」


 俺は龍巳さんに笑いかける。


「……聞きたいですか?」


 龍巳さんが俺の笑顔を見ると、段々と顔が青ざめていく。


 俺は気にせずそのまま話し続けた。


「ダンジョン内、しかも目の前で大切な人が死ぬ光景を見ること。それが取得条件です」


「あ……その……ご、ごめんなさ……い」


 龍巳さんが怯えたように謝りながらこちらを見る。

 どうしてそんな怯えているのだろう?


 前にも似たような反応を見た事あるな。

 確か瑠璃に会社クビになったの伝えた時も、瑠璃がこんな表情をしてた気がする。


 もしかして、不味いことを聞いたと思ったのかな?


「昔のことなんで、俺は気にしてないですよ?」


「いや、でも、その……」


 龍巳さんが言い淀んで、こちらを見ようとしない。


 一体どうしたんだろうか?


 すると親方が俺の肩をつかむ。

 辛そうな表情で親方が俺を見つめる。


「お前鏡一回見て来い……ひどい顔してるぞ」


「何言って――」


 俺は近くにあった鏡で自分の表情を確認する。


 引きつった笑顔で、とても笑えているとはいいがたい。

 まるで感情がごちゃごちゃになったような、歪な表情。


 自分では笑えてるつもりだったけど、全く笑えてなかったんだな。

 瑠璃の前でもこんな表情してたのか……


 ……確かにこれはひどいな。


 俺は席を立つ。


「すいません、ちょっと席外します」


「だ、大丈夫……ですか?」


 龍巳さんが心配そうにこちらを見た。

 その表情が過去の映像と被り、脳内にフラッシュバックする。

 俺は急いで顔を隠す。


「――ありがとうございます。龍巳さん」


 それだけ言うと足早に部屋から立ち去る。

 少しでもこの表情を見られないようにするために……

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