第18話 エンペラーワイバーンの唐揚げ(3)
俺は撮影機材も放り出して階層ポータルまで走る。
階層ポータルはクリアした階層ごとに設置されていて、自分の通った事のある階層なら、転移によって別のポータルに一瞬で移動してくれる装置だ。
ダンジョン生成当時からあるそうだが、今だに仕組みは分かっていない。
あの幽霊から離れるためには転移で逃げるしかない!
ポータル前に着き。
起動ボタンを何度も連打する。
だが起動まで時間がかかるため、足踏みしながら待つ。
「ちょっと待って下さい! タヌキさん!」
後方から女性のような声が響く。
足音も聞こえる。
追ってきた!?
「許してください幽霊さん! 呪わないで! 俺には守らなきゃいけない家族がいるんです!!」
「呪いませんよ!? 私幽霊じゃありませんから!」
俺はその一言にピタリと足を止める。
そう言えばコメント欄が幽霊って言ってただけで……俺が直接は確かめてはいないよな。
声もはっきり聞こえるし、本当に幽霊か?
もしかしたら本当に人かも……
俺はポータル起動を一端止め。
恐る恐る、俺は声の主を待つ。
すると息を切らしながら、女の子が走りよってくる。
足もしっかりあるし、姿もはっきりとしてる。
うん、幽霊じゃないな。
驚いて損した。
歳は俺と同じくらい、黒髪ポニーテールの女の子。
その姿を見た瞬間、俺は心臓の鼓動が早くなる。
なん、で……
「あか、ね……?」
俺がそうぼそりと言うと女の子が首を傾げる。
「え……? いえ、私の名前は龍巳陽子ですが……茜とはどなたでしょうか?」
龍巳陽子と名乗った女性は周りに人がいるのかと、辺りをきょろきょろと見渡した。
俺は失言だと思い、慌てて訂正する。
「あ、すいません! 龍巳さんが知り合いにあまりに似てたので間違えてしまいました!」
俺は潔く頭を下げる。
「い、いえ大丈夫です。気にしていませんから顔を上げてください」
両手を振って全く気にしていないと龍巳さんはアピールする。
良かった……いい人そうだ。
俺達は一端ゆっくり話をする為セーフエリアに戻ってくる。
一応配信がどうなってるか確認したが、人が画面外に出ると自動で配信が切れる機能があったらしく。
配信は既に終了していた。
俺は配信に龍巳さんの顔が全国に配信されなくて、本当に良かったと、ほっと息をついた。
確認後、二人とも岩の上に座って向かい合う。
「う~んと、まずは自己紹介からで……初めまして俺は――」
俺はそこで言うのをやめる。
どれで名乗ればいいんだ?
タヌポンとして?
それとも葉賀橙矢としてか?
仮面付けてるし、一応タヌポンでの方がいいような……
「あの、初めましてではないですよ?」
「……何だって?」
俺がどう名乗るか考えていると龍巳さんがそう答えた。
会ったことがある?
「俺があなたにですか?」
こくりと龍巳さんが頷く。
「はい、その時は仮面を付けていませんでしたが」
俺の素顔を知ってる……
でも俺の知り合いでもないし。
一体どこで……
「あの? 失礼ですが、どこかで会ったことが?」
「はい、タヌキさんがレッドドラゴンを倒した時に私を助けていただきました」
「れ、レッドドラゴン!?」
もしかして……あの時、倒れてたパーティーの人!?
つまり今回の目的は……
俺はゆっくりと岩から立ち上がる。
「あの……タヌキさん?」
「すいませんでしたぁぁぁ!!!」
俺は頭を地面に擦り付け、土下座する。
「えっ!? た、タヌキさん!?」
「別に獲物を横取りするつもりなかったんです! ただピンチかと思って倒してしまっただけで! 許して下さい! お金以外のことなら何でもし――」
「あ、頭上げてくださいタヌキさん! 私が会いに来たのは、助けてもらったお礼を言いに来たんです!」
「え?」
俺は顔を上げる。
お礼を言いに?
俺が倒したレッドドラゴンの肉を返せって言いに来たのではなく?
「お礼って……俺レッドドラゴンの肉取って……」
「倒した人が素材貰うのは当たり前です。なのに病院で目覚めたら、いつの間にか私達が倒したことになっていて。むしろ素材を無償で会社に提供していただいたみたいで、こちらの方が申し訳なかったです」
それは俺が素材買取しづらい状況だったから、押しつけだけで感謝されるようなことではない。
俺は首を横に振る。
「いや、でも……倒せたのは龍巳さん達がダメージを与えていたからで――」
「……すごく申し上げにくいのですが、私達のダメージは全く通っていなかったと、兄さ――ダンジョン協会の人から聞きました。なので倒したのは紛れもなく、あなたです」
そう龍巳さんは言い切った。
俺はほっと一息つく。
「恨まれているとばかり思っていたから、それを聞いて安心したよ」
「面白い人ですねタヌキさんって」
龍巳さんが太陽のように明るい笑顔をこちらに向ける。
……さっきからずっと気になっているんだが。
「何故俺をタヌキさんと言うんですか?」
「持っていた荷物の隙間からタヌキの仮面が見えたので、そう呼ばせてもらっていました。今はタヌポンさんとお呼びした方が良かったでしょうか?」
龍巳さんからの質問に、俺は首を横に振る。
呼び方は自由でいいと思うし、強制する理由もないしな。
「いえ、呼びやすい方でいいですよ」
「では今まで通りタヌキさんと……」
龍巳さんがそう言うと、くぅと可愛い音が聞こえる。
お腹を抑えて、顔を赤くする龍巳さん。
「す、すいません……」
「お昼の配信中ずっといたんですし、お腹が空くのは、仕方ないですよ。――もし良かったら、唐揚げ食べていきませんか?」
「え! よ、よろしいのですか!」
申し訳なさそうに龍巳さんが聞き返す。
「むしろ一緒に食べてくれませんか? ちょっと作りすぎてしまったので」
親方に差し入れするつもりで作ったけど数が多すぎるし。
残ったのを俺一人じゃ食いきれない。
それに、このまま返すのも忍びない。
龍巳さんは俺に一礼する。
「ありがとうございます。タヌキさん」
「いえいえ」
取り皿に唐揚げを乗せ、箸と一緒に龍巳さんに渡す。
俺も自分の分をとっていつでも食べれるように準備した。
二人とも両手を合わせる。
「それじゃあ、いただきます!」
「いただきます」
唐揚げに俺はかぶりつく。
俺と龍巳さんは顔をほころばせる。
「すごい美味しいです!」
「サクッとした衣に、中からジュワァと肉の油が弾ける! 醬油の定番な味はうまいのはもちろんのこと! カレーはピリリとスパイシーで肉のうまみを引き出し! 味噌はカレーと違い味にコクが出て、肉をより高みへと登らせる! ご飯が何杯でもいけそ――」
そこまで言ったところで我に返る。
いつもの癖で語りすぎた……
会ったばっかりの人の前でやるやつじゃない。
龍巳さんの方を見ると、朗らかに笑う。
「タヌキさん、配信以外でも食レポするんですね」
「いや、その……」
俺の頬が熱くなる。
やばい、すごい恥ずかしい……
多分今の俺、仮面してなかったら、顔が真っ赤なのバレてた。
「それだけ美味しいそうに食べられると、一緒に食べてるだけで楽しい気分になりますね。もっと聞いていたいです」
「本当勘弁してください……」
俺は仮面越しに手を置く。
まさか褒められると思っていなかったので、さらに顔が熱い。
この熱を紛らわせるために、俺は唐揚げを多く頬張る。
その時食べた唐揚げは、どことなく懐かしい感じがした。
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