第17話 エンペラーワイバーンの唐揚げ(2)

 ドラゴンダンジョン九十層セーフエリア。

 九十層ともなると、到達できる人も少なく。

 あまり人の手が加わっていない印象の場所だ。


 初回配信と同じ場所と同じ画角で配信が始まる。


「どうも、メインチャンネルではお久しぶりのタヌポンです!」


:ま~じ久しぶりだわ

:コラボばっか出やがって

:コンちゃんだせや!

:フクロウちゃんも!

:キャット様!

:狸鍋にすっぞ、おら~


「は~い、いつもの狸いじめですね。……なんか慣れてしまった自分がちょっと怖い」


:ようこそこちら側へ

:その先は地獄だぞw

:ドM道、極めたら、よきひかな

:五七五でまとめんなw


「俺にどんだけあだ名増やす気だ!? もう、話が脱線しそうだから早速タイトルコール!」


 デンという効果音の後、テロップが表示される。


「エンペラーワイバーン料理してみた!」


:最近大人しいと思ったらこれだよ!

:まだ、大物取ってきやがったな

:すまん、誰か解説

:八十層ボスモンスター

:オッケ把握

:レッドドラゴンよりは取りやすいなぁ(白目)

:つうか今回なんでこれ?


 タヌポンは親指立てる。


「久しぶりに肉が食いたいから! 以上!」


:シンプルw

:だけど分かる。

:たまに肉は無性に食いたくなるよな

:だが、モンスターの肉まで食おうとは思わんよw

:それはそう


「金ないんだから仕方ないだろ!? フリーターが肉とか魚に手を出すのかなり勇気いるんだぞ!?」


:切実w

:悲しい……

:【¥500】もやし代にどうぞ

:草

:肉食わせるきないやんけw

:こいつ煽り寄るw


「500円分のもやしを買えと!? でも投げ銭ありがとね!?」


:お礼ちゃんと言えて偉い

:育ちよさそう

:もう確実にタヌポンいじられキャラだよな

:分かる……

:何言っても許してくれそう

:それな♪


「は~い、これ以上すると雑談配信になるので、もう勝手に進めま~す」


 タヌポンはまな板を木箱の上にセットし、その上にしっかりと解体された、赤身肉をのせる。


:これがエンペラーワイバーンの肉

:見た目鶏肉っぽいな?

:ワイバーンの姿がそれっぽいしな

:ここだけだろワイバーンを鶏扱い何てw

:確かにw


「まぁ、ドラゴン系のモンスターの味は確かに鶏に近いな。だから今日作るのは、鶏肉料理の定番! 唐揚げだ!」


:出たわね!

:いいね!

:そうじゃなくっちゃ!

:つまみと酒持って待機

:もう確実にうまい!


「好評で良かった。じゃあ早速作っていこう!」


 エンペラーワイバーンの肉にいつもの黒いスパイスを揉みこみ。

 肉を一口大になるように切っていく。


「今回は、味を三種類作っていこうか」


:えっ!

:そんなに種類あるの!?

:塩からあげくらいしか思いつかないんだが……


 三つのボウルそれぞれにエンペラーワイバーン肉を入れる


 全てのボウルに料理酒、事前にすりおろしたニンニクとショウガを投入していく。


「そしてこっから、味に変化をつける」


 タヌポンはまな板の上に、醬油の瓶、カレー粉の瓶、味噌のタッパーを取り出す。


:ふぁ?

:カレー味と味噌味!?

:うまそうでは!?

:シンプルに言って最高


 ボウルごとに、醬油、カレー粉、味噌をそれぞれ入れる。

 全てのボウルを揉みこみ、味をなじませていく。


:本当料理する時静かになるよね?

:コンちゃん達いないから静かだわ

:何か静かですね

:詠唱やめろw

:希望の花~

:やめろてw


 タヌポンはコメントを見ず。

 そのまま黙々と肉を溶き卵にくぐらせ、片栗粉、小麦粉をまぶす。


「それじゃあ、油で揚げるか!」


 160℃に温めた油にまぶした肉を投入する。

 瞬間、ジュワァと言う揚がる音が画面から響く。


:音割れしてない

:音割れ確認よし!

:ちゃんと最初の失敗を学んでるw

:やっとかタヌポンがトレンド入りしたw

:やっとかタヌポンは草

:更新しないのと音割れの件二つの意味だろうなw


「更新頻度は本当ごめんね!?」


 タヌポンは謝りつつ、手を動かす。

 一分ほどあげたら、バットに肉を戻し、肉を休める。


「肉を休ませてる間、暇だな……そうだ!」


 肉を休めてる間に、タヌポンが後ろでゴソゴソと荷物から一枚の紙を取り出す。


 それは武器屋雷神の広告チラシだった。


「えっと、確か……これ読み取って映して、だったかな?」


 ピコンっという音が響くと、タヌポンの手元のチラシが画面に表示される。


「コンが使ってる武器屋が、大変良かったので宣伝を、値段も手頃、性能は一級品なので、みなさん良かったら足を運んで下さい」


:すっげぇステマw

:コンちゃんの武器ここのなんだ

:ていうか著作権的に大丈夫なのか?

:店に許可とった?

:なんか嫌な予感

:下手したら垢バン案件w


「え!? そうなの!? ちょ、映ってるの消して!」


 ピコンと言う音とともに画面がブラックアウトする。


:www

:チラシどころか画面まで消してどうすんねんw

:やっぱタヌポンだわw

:焦りすぎ


「画面真っ暗!? チラシだけ消してカメラ映して!」


 画面が明るくなり、元の画面に戻った。


 ――いや、タヌポンの後ろに誰かいる。


 物陰に隠れ、姿はよく見えないのだが、確実に人影がそこにあるのだ。


 ……だがそれはおかしい。


 ここは九十層、攻略した者しかこれない領域。

 それなのに人影がある事自体おかしいのだ。


 人影に気づかないタヌポンは、汗を拭うような動作をする。


「ふ~、危なかった……じゃあ、気を取り直して料理再開しようか?」


:いや後ろ後ろ!?

:気づけタヌポン!

:つうか何でこんな所に人いんだよ!?

:幽、霊……?

:一気にホラー展開!?

:モンスター料理よりヤバいわよ!?


 料理に集中して、タヌポンはそんなコメントに気づいていないようだ。


 いくらこちらから呼びかけても反応がない。


「休ませた唐揚げをお玉で叩き。もう一度油で揚げる。こうすることで、冷めても美味しい唐揚げになるんだ」


:へぇ~ためになるなぁ……(白目)

:言ってる場合か!?

:いいか加減コメント見ろや!

:この初心者配信者は本当にもう!


 全くコメントを見ないタヌポンは、唐揚げを二度揚げし、バットの上に乗せる。


「油がしっかり落ちきったら、皿に盛りつけて――」


 白い皿に三種類の唐揚げを乗せて、カメラに移す。


「エンペラーワイバーンの唐揚げ完成だ!」


:いやうまそうだけども!?

:酒飲んでる場合じゃねぇ!

:気づけぇぇぇ!!

:それより後ろ!

:お願いだから見て!?


「うん? コメント欄が騒がしいけど、後ろに何かある――」


 ようやくコメントに気づいたタヌポンと人影の目が合う。


「……うわぁぁぁ!?」


 タヌポンは叫びながら画面外にタヌポンが走り去る。

 画面が突然切り替わり、配信が終了しました。

 ――という画面になる。


:またこのパターン!?

:今回のレベル違うだろ!

:えっ、マジで大丈夫なの?

:タヌポン無事でいて!

:料理配信見に来たのにホラーじゃんほら


 この日、有名配信者の背後に幽霊が!

 という見出しでネットニュースを騒がせることとなった。

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