第9話 きな粉スライムと黒糖スライムドリンク(2)
ドラゴンダンジョン11層エリア。
ダンジョンの光景とは思えない草原が画面いっぱいに広がる。
このエリアでは比較的弱いスライムがよく出現し、故に初心者向けのエリアだ。
そこに動物の仮面をつけた集団がカメラの前に集まる。
「コンコンコン、あなたの心にノックノック♪ ゲーム配信者のコンです♪」
:キター!
:待ってました!
:一週間ぶりだな
:コンちゃん可愛いよ!
「リスナーのみんなありがとう♪ 今回は前回の配信に引き続いて、ダンジョンコラボ配信だよ♪」
:よっしゃー!
:ってことはタヌポン来るな
:間違いない
:シスコンだからなぁ……
:義兄様はよw
「だってさ、お兄ちゃん♪」
「はいはい、今回も無理矢理出演させられた、タヌポンさんですよぉっと……あとシスコンじゃねえから!」
:草
:好きなくせに~
:男のツンデレは重要ないぞw
:コラボ配信ばっかり出やがって
:誰かこのメインチャンネル出さない狸を連れてけ
:シベリア送りだw
:メインチャンネルはよあげろ
:逃げるな!
:配信から逃げるなこの卑怯者!
「そこまで言われなきゃいけないですかね!?」
「はいはい、タヌポンいじりはこのくらいで、次のコラボ相手二人の紹介に行っくよ♪」
コンが促すと猫の仮面をしたピンク髪の少女がカメラに映る。
「オシャレでテンション爆上げ☆ 美容系配信者のキャットビューティーだよ☆ よろ~☆」
:キャットちゃんキタコレ!
:キャット様~!!
:ふつくしい……
:昇天してる奴いて草
「そして、声だけの出演ってことで承諾してくれた。カメラ担当の、本読みフクロウさんです♪」
「よろ、しく……」
カメラ外から手が出てきてブンブンと振る。
:いい声だ……
:フクロウちゃんの声、すごく落ち着くわ……
:これでいつもの三人そろったな
:悲報、男が一人混じってる
:許せん
:誰かあいつを狸鍋にしてやれ
:消すか
:百合に挟まる男〇ね
:百合豚さんおるw
「どんどんヘイトだけがたまってく……いつか俺刺される?」
「大丈、夫……私が、守って……あげる、から」
「ありがとう、フクロウちゃん」
:おい、そこ変われ狸
:俺も言ってもらいてぇ
:タヌポン女性陣に囲まれすぎでわ?
:クソ!
:このニートめ!
「ふっふっふ……」
:な、何が可笑しい!
「今俺を無職といったな?」
:そ、それがどうした!
「先週から俺は、無職じゃなくフリーターになった! もうニートとも穀潰しとは言わせないぞ!」
:な、なに~!?
:バカな!?
:あのタヌポンが!?
:ノリいいな、このコメ欄w
:乗るなリスナー戻れ!
:そっちじゃねぇよw
キャットが不思議そうに首を傾げる。
「ニートとフリーターって、そんな変わんなくない☆」
「ごふっ!?」
キャットの一言に、タヌポンが膝から崩れ落ちる。
:あっ、またタヌポンが倒れた
:クリティカルヒット
:今度はキャットちゃんからw
:もうやめてあげてw
:お兄様のライフはゼロよ!
「ま、まぁ……正職になるまでだしぃ? クソ~! いつか正職になってやるからな!?」
「わ~すごい☆ 頑張ってねタヌポン☆ 応援してるよ☆」
:この子悪意なく言ってるっぽいな……
:陽キャ女子感
:陰の我々にはつらい……
:当たり前よ!
:キャット様はカリスマなんだから!
:頑張っての部分切り抜いて、目覚ましにしよ♪
:応援してるよもいいわね♪
:キャットちゃんのガチ勢おるなぁ
タヌポンはフラフラと立ち上がる。
「と、とりあえず今回のテーマいってみようか」
「オッケ~☆ テロップ、ド~ン☆」
キャットがそう言うと画面にテロップが表示される。
「「「「スライムを料理してみた」」」」
:スライムか~
:またもゲテモノ
:美少女、スライム……閃いた!
:通報した
:でもどうせうまくなるんでしょ?
:はいはい
:いつものいつもの
「ウェーイ☆ この企画マジやば☆ タヌポン頭大丈夫☆」
「ナチュラルに毒を吐くな!? 心配しなくても大丈夫だって……むしろ君達向けのメニューだ」
「うちら向け? やっば、タヌポンマジ優し☆ テンション爆上がりだわ♪」
タヌポンの背中をバンバンと叩き、キャットはケラケラと笑う。
:陰キャ男子に絡む、陽キャ女子の絵面
:オタクに優しいギャルって、こと?
:優しい……か?
:ナチュラル毒吐きはいいのか?
:むしろそれがいい!
:草
:ドMニキは帰ってもろてw
タヌポンが歩き出す。
「調理するにもスライム倒さなきゃだろ? さっさと探そうぜ?」
「ま、待ってよお兄ちゃん!?」
「ゴーゴー☆」
「大丈、夫……かな?」
四人はダンジョンの奥へと潜った。
しばらく歩くとポヨンポヨンっと、柔らかいものが複数回弾む音が聞こえてくる。
カメラが音の正体を捉える。
そこには液状の球体が意思を持つ、ゼラチン質のモンスター。
スライムだ。
:まじでスライムw
:序盤の雑魚キャラ
:倒すの簡単そう
:意外と侮れないんだよなぁ……
:そうなの?
:物理攻撃が効きにくいし
:触れたらD級が使う装備くらい簡単に溶ける
:ひえっ……
「まぁ今コメント欄にあった通りだ。じゃああと頑張れよ」
「「「えっ!?」」」
三人の少女が声を揃えて驚愕する。
「お兄ちゃん戦ってくれるんじゃないの!?」
「それじゃお前らのためにならないだろ? とりあえず二人の実力もみたいし、危なくなったら俺が助けるから安心してトライしてこい」
:俺が助けるの安心感よ
:さすおに
:この人コボルト一撃粉砕したしな
:ゴリラ
:注意(タンクです)
:こんなタンクがいてたまるかw
:いつも通りの最強のお兄様
「わぁ☆ タヌポン意外とスパルタ☆」
「出来ないのか? 無理にとは言わないぞ?」
タヌポンがそう言うと晴れやかにキャットが笑う。
「かしこま☆ バイブス上げてくし☆」
キャットは腰から二本のナイフを取り出す。
「期待には、答え……る。サモン:コノハ」
画面外から一匹の梟が飛来する。
「召喚術か、珍しいスキルだな」
「あたり……引いた。アイアン、フクロウの……コノハ……よろ、しく」
「かわいい♪」
「鬼かわ☆」
:有識者説明プリーズ
:はいよ
:召喚術はモンスターを召喚できるスキルだ
:数や出てくる種類は術者次第らしい
:しかもアイアンフクロウじゃね?
:バードダンジョン61層のモンスターだな
:つっよw
:術者によって力も変わるから一概にも言えないけど
「さすがフクロウっち☆ うちも負けてらんないね☆ エンチャント☆ フレイム、ウォーター☆」
キャットがそう呟くと両手に持ったナイフから、火炎と流水がとめどなく溢れる。
「……二属性魔術スキル持ちって、マジで言ってる?」
「わぁ☆ タヌポン顔色悪いけど大丈夫☆」
「はっきり言って想像以上……お前ら本当にD級か? 俺いらないんじゃない?」
:有説プ
:魔術スキルにある技の1つだね
:エンチャント、文字通り武器や防具に属性を付与する
:二つも魔術スキル持ってるのヤバいけどね?
:初期スキルはランダムで三つ選ばれる
:その内一個魔術スキルあれば強いって言われてるのに
:複数持ちはヤバいわよ!?
:何この最強初心者達?
「みんなすごいね♪ これは私の新武器お披露目するしかないよね♪」
コンが肩に担いだケースから銃を取り出す。
雷の模様をあしらった対物ライフルがキラリと光る。
コンはスコープを覗きこんだ姿勢で構えた。
:まだ懲りてないのか?
:でも武器変わったね
:SRは、かなり扱いピーキーなんだけど……
:また兄貴に当てるのが落ちだろ?
「そんなこと言ってられるのも今のうちだからね♪ 行くよ、二人とも♪」
「もち☆」
「了、解!」
二人と従魔一匹が戦闘態勢をとる。
「さぁて、お手並み拝見だな」
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