第10話 きな粉スライムと黒糖スライムドリンク(3)

 キャットがナイフを交差させ、突っ込む。


「初手いっただき☆」


 ナイフをスライムに振るう。

 スライムは横一文字に両断された。


「余裕っしょ☆」


「それはどうかな?」


「へっ?」


 両断されたスライムは止まることなく、キャットに襲い掛かる。


「うっそ!?」


:スライムは核部分潰さないと無限に増えるよ

:うわぁ指摘おっそw

:どうせ見えてないだろうしね

:いつ気づくかな?


「大丈、夫……任せて。パワード、エンハンス!」


 コノハがキラリと光った。

 そのままコノハはスライム目掛けて勢いよく突進する。

 コノハのクチバシがスライムの核を正確に捉え、貫く。


 パキリ、という音が響くとスライムだったものが動きを止めた。


:何今の!?

:付与術のスキルだね

:一時的なバフやデバフを付与するスキル

:フクロウちゃん珍しいスキルのオンパレードだね

:付与術のスキル持ってる人、中々いないんだけどな?

:運が良すぎるw


「フクロウっち、マジサンキュ☆」


「う、ん」


「ほらほら二人とも油断しない、サンダ―ショット♪」


 キャットの脇すれすれに弾丸が横切る。

 射出された雷の弾丸は、スライムの核を正確に射抜く。


:えぇ~!?

:あのコンちゃんが当てた……だと……

:嵐の前触れか?

:槍が振るぞ!


「リスナーは私の事何だと思ってるのかな!?」


 コンが怒ってカメラに近づこうとした時。

 横からキャットが勢いよく抱き着いてくる。


「わお☆ コンぴっぴ、マジ仕事人的な☆」


「強い……さすが、だね?」


「えへへ、まぁ私にかかればこんなものだよ♪」


 おだてられたコンは嬉しそうに体をくねらせる。


:チョロイ……

:圧倒的チョロイン

:だが、それでいい!

:コンちゃんかわいい


 二体のスライムをあっという間に撃破し、和気あいあいとする少女たち。

 後ろからゆっくりとタヌポンが歩いてくる。


「すごいな、お前ら。初めての連携の割に、息ぴったりじゃん」


「あっ、結局仕事しなかったタヌポンだ☆」


「お兄ちゃんの出番なかったね♪」


 二人が腹を抱えてタヌポンを笑う。


「煽る、の……ひどい、二人……とも」


 ぼそりとフクロウが苦言を呈する。


:キャットちゃんの切り口エッグw

:天然毒吐きマシーンじゃん

:コンちゃんもお兄ちゃんいじる時だけ元気ね?

:コンちゃん実はブラコン説

:あり得る

:タヌポンは精神に10のダメージを受けたw

:あんまりからかってやるなってw


 タヌポンがゆっくりと二人の後方を指さす。


「――そうか、じゃあ後ろのスライム達も、当然二人が倒すんだよな?」


「「ふぇっ?」」


 二人が一斉に後ろを振り向くと、そこには十体に増えたスライム軍団がゆっくりと近づいてきていた。


「増えてる!?」


「この数は無理だよ!? フクロウちゃんも手伝――」


「因果、応報……私、手伝わない」


「「そんな!?」」


 タヌポンが腕組みをして首を傾ける。


「……で? こういう時何ていうんだっけ?」


「「ごめんなさい! 助けてタヌポン!」」


「了解、【スキル:鉄壁】発動」


 タヌポンがそう呟くと一瞬画面がぶれる。

 画面のブレが直ると、核だけが引き抜かれたスライムが、辺り一帯に散らばった光景が広がる。


「終わったぞ?」


「「はやっ!?」」


:出来上がったものがこちらになります。

:三分クッキングかよw

:いやだよこんな地獄絵図の三分クッキングw


 画面内でキャットが大はしゃぎする。


「やっば☆ タヌポン鬼つよ☆」


「さすが……だね」


:相変わらず仕事が速い

:強靭! 無敵! 最強!!

:やる時はやる男

:さすおに


「こういう時だけ俺の事褒めるんだよなぁ……まぁいいや。さっさとスライムの素材集めて、料理するぞ?」


「「「は~い」」」


:いや触ったら溶ける言うとったやん?

:素材取れないやんけw

:倒せば触れても大丈夫になる

:便利な生物だな?


 そこで一旦映像が途切れ、待機画面に変わる。



 □□□


 再び映像がつくとそこは二十層のセーフエリアだった。

 調理器具などをしっかりと設置し、いつでも料理可能な状態になっている。


「さてと♪ 準備も出来たということで今回の料理名をどうぞ♪」


「テロップ再びド~ン☆」


 キャットの軽快な声に合わせて、画面にテキストが表示される。


「きな粉スライムと黒糖スライムドリンクだ」


:なるほど?

:スイーツ回ですね!

:今回はヤバそうじゃないな

:いや、スライム泥みたいな味するぞ?

:やっぱりゲテモノじゃないか(歓喜)

:さて、泥味がどうなるか見ものだね。

:わくてか


「二品作るんだ☆」


「名前は……おいし、そ……」


「大丈夫なんだよねお兄ちゃん?」


「任せとけよ!」


 そう言うとタヌポンは親指を立てる。


「まずはスライムから取れた体部分、正式名称スライムボールの土や埃を水で洗い落とす」


「うちもやる☆」


 水場でスライムボールを綺麗にする。


「次に鍋でこのスライムボールを溶かしていく」


 タヌポンは二つの鍋をコンロにセットする。


「あれ? 二つするの?」


「そうそう、一個味を変えたくてな?」


 空の鍋にスライムボールをドサドサと入れていく。


「火にかけて、スライムボールが完全に溶けきるのを待つ」


 先程まで形を成していたスライムボールがドロドロに溶ける。


「溶けきったら、両方にこの二つを入れる」


 タヌポンの両手には二つの薬草が握られている。


:あっ、これは知ってる!

:毒消草と麻痺消草だね

:ダンジョンにかなり生えてるよな?

:それ使うん?


「そうだな、これ使えばスライムの泥味は完全になくなる」


「あっ、今回は教えてくれるんだ♪」


「この二つなら無くなることないからな……それに前回散々言われたし、な?」


:律儀w

:意外とお兄様気にしていらしたw

:お前ら謝っとけw

:すいやせんでした!

:情報あざっす!

:よっ! 太っ腹!


「調子いいな……」


 などと文句を言いながら、タヌポンは二つの薬草を磨り潰し、鍋の中に投入する。


「毒消草と麻痺消草を入れてから、もうひと煮立ちさせ、片方の鍋に黒糖を入れる」


 ポチャポチャと黒糖の塊を入れていく。


「いい、香り……」


「甘い匂いだぁ♪」


「それな~☆」


 グルグルと鍋をかき回す。


「黒糖が溶けきったら、火を止めて中身をボウルに流し込む。後は適温になるまで冷や――」


「冷やすね☆ オッケ~☆ ブリザード☆」


 そう言うと目の前にあったボールが凍り付く。


:おいw

:火と水の混合魔術を気軽に使うんじゃないよw

:場の空気が冷えましたね

:ブリザードだけにw

:うまくない……


 タヌポンが軽くボールをノックすると固い音が響いた。


「何してんの!?」


「え? これ冷やすって言ったから使ってみた☆ この方が早く冷えるっしょ☆」


「加減して!?」


「湯煎で、少しずつ……溶かそう」


 その後タヌポン達は、ボールで必死に湯煎し、プルプルになるまで頑張って戻していた。

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