第5話 コボルトのアヒージョ(3)
場所は変わって一層のセーフエリア。
お昼時ということもあって辺りに人はいない。
水場など野営の設備が充実しており、料理配信するのにとてもいい環境だ。
そこに、ぐったりした様子のタヌポン、対照的に滅茶苦茶元気なコンが、料理道具を広げ、カメラ前に待機している。
「……はい、ということで無事食糧ゲットと……解体処理したので、料理していきたいと……思います」
「元気ないねお兄ちゃん、大丈夫?」
「誰のせいだと!?」
:お兄さん本当お疲れ様
:サンドバック状態だったよねw
:サンドバック兄
:羽交い絞めにされてたコボルトも可哀想だったよ
:途中でダラーンとしてたよねw
:でもコンちゃんかわいいのでオッケーです
「何もオッケーではないからな!?」
「はいはい、いいから今日の料理発表してお兄ちゃん♪」
「ほんと調子いいな……え~とテロップは……これか」
デンッという音ともにテキストが表示される。
「コボルトのアヒージョだ」
「アヒージョ? 具材にアヒルはいないよ?」
「鉄板のボケをありがとな妹よ。アヒージョはオリーブオイルとニンニクで煮込んだ料理の事だ」
:勉強になります先生!
:アヒージョ割と簡単だから俺もたまに作るな
:キャンプとかでよく見るやつだ!
「ニンニクかぁ……口臭やばそう」
「そう言うと思って、ちゃんと口臭ケア用品持ってきたから安心しろ。消臭スプレーもあるぞ」
「わ~い♪ ありがとうお兄ちゃん♪」
「はいはい」
:かわいい
:コンちゃんのお兄ちゃんとありがとうは心に響く!
:誰か気遣ってくれてる兄をねぎらってあげて……
:ニンニク料理選ぶ時点で気遣いできてなくね?
:コンちゃん女の子よ?
:兄はギルティ
:異議なし
「なんでだよ!?」
「私のチャンネルだから、お兄ちゃんかなりアウェイだね♪」
「……もう、コンの配信でるのやめようかな……とりあえず、調理始めます」
タヌポンが始めに手に取ったのはコボルトの肉。
すじが多い肉で、赤身肉というより白身肉といった方がいいくらい、白色の方が目立つ。
あまり身はなさそうだ。
:これ料理すんのか……
:マジで食べられるのかこれ?
:不安だなぁ
「工程は多いけど、覚えれば簡単だ」
まず、水を沸騰させた鍋にコボルトの肉を入れ。
一分ほど煮立たせる。
かなりのアクが出てくるので、中身をザルに上げて。
煮出した水を捨てる。
「えぇ~!? 勿体ない!」
「仕方ないんだよ。こうしないと生臭さとジャリジャリした食感が取れないんだから」
タヌポンがさっき使った鍋とは別の物を取り出す。
「それは?」
「圧力鍋だ。これで茹でる時間を短縮できる」
「へぇ~そんなのうちにあったんだ」
「前に会社のビンゴ大会で当たってな? 今でも重宝してるんだ」
「あぁ! お兄ちゃんがクビになった会社の♪」
「ごふっ!?」
:お兄さんが膝から崩れ落ちたぞ!?
:クリティカルヒットw
:コンちゃん容赦ねぇ……
:つまりタヌポンは我々の同胞か
:一般通過ニートさん!
「ニートじゃ、ない……配信は、してる、から……」
フラフラと立ち上がり、圧力鍋にコボルトの肉を入れていく
:満身創痍じゃないかw
:大丈夫か?
:クビはつれぇよな
:転職頑張れ!
「コメント欄があったけぇ」
「良かったねお兄ちゃん♪」
「誰のせいでショック受けたと思ってんの!?」
喋ってる間にコボルトの肉を鍋に詰め終わったようだ。
「それじゃあ、持ってきた米のとぎ汁と、これを鍋に入れる」
タヌポンの片手には前回使った黒色のスパイスが握られている。
:出たw
:謎スパイスw
:これだけま~じでわからん
:教えてタヌポン♪
「悪いけどこれだけはマジで教えられないんだよな。売り切れとかダンジョンから取れなくなるの困るし。何より配信の競合増えるのも嫌だ。絶対俺の動画なんて、誰も見なくなる」
:えぇ~
:けち
:知識独占は大罪だぞ~
:このニート!
:ごふぁっ!?
:流れ弾受けてる人いる……
「ちなみに私は妹特権で聞いてるんだぁ♪ リスナーさんごめんね♪」
カメラに向かってコンはピースサインを出す。
:いいなぁ……
:妹に甘いなこの兄
:シスコン?
:最強の兄も妹には弱いのかぁ
:投げ銭したら、教えてくれない?
「……教えません! あとシスコンじゃねぇ!?」
「――今、間があったね。お金に目がくらんだ?」
「ノーコメント」
全ての材料を入れ終わり、三十分程煮込む。
待っている間、コンがゲームの話で繋ぎ、時間をつぶす。
そして三十分があっという間に経過した。
鍋からザルに移し肉を取り出すと、美味しそうに茹で上がった肉が映し出される。
この映像だけ見るとコボルトの肉とは誰も思わないだろう。
「さて、ようやくアヒージョに出来るな」
「ようやくだね♪」
クーラーボックスから皮を既に剥いてあるジャガイモ、人参、玉ねぎを取り出す。
具材を小口切りにして、塩胡椒を振る。
次にオリーブオイル、ニンニク、鷹の爪を鍋に入れ。
弱火にかける。
ニンニクがうっすらと色が変わり始めたら、火の通りにくい順に鍋に入れ、煮立たせる。
全体に火が通ったら、器に盛り付け。
パセリを散らしたら……、
「コボルトのアヒージョ完成だ!」
「美味しそう♪」
:普通にうまそう!
:コボルトか……これが!?
:言わなきゃ分かんないだろこれ
:写真映えしそう♪
「それじゃあ早速いただきますか」
「いっただっきます♪」
タヌポンとコンが面をずらし、コボルトの肉を一口食べる。
「コリコリした食感で超美味しぃ~♪」
「肉を煮込んだ事で柔らかく、味も淡白な分、他の食材の味が染みて、ニンニクの風味が食欲を搔き立て、一緒に煮込んだ野菜特有の甘さが口いっぱいに広がる! そして、これを……」
タヌポンがクーラーボックスから食パンを取り出した。
アヒージョの具材をパンに乗っけて挟んだ。
「サンドイッチみたいにするの、めっちゃうまいんだよな」
「あぁ!! お兄ちゃんずるい!! 私にも頂戴!」
コンもタヌポンからパンをもらいサンドイッチにした。
二人は同時にかぶりつき、ずれた仮面越しのほおが緩んだ。
「何これヤッバイ!」
「パンの甘さが加わえ、アヒージョの油が程よく染み込み、さらにうまい! コリコリとした肉の食感も相まって無限に食えるぞ!!」
そこから二人は無言で食べ進めた。
アヒージョがそれほどうまかったのだろう。
コメント欄は特にそんな二人を気にした様子もなくコメントしている。
:酒のつまみにさせてもらってます
:俺も今ダッシュでコンビニからつまみ買ってきた。
:昼間から酒かよw
:だが、それがいい!
:食わずにはいられない!
:俺はこの配信でご飯を三杯はいけます
:僕はコンちゃん見てれば……
:おまわりさんこいつです
二人が食べ終わるとマスクを戻してカメラに向き直る。
「さて、コラボ配信いかがだったでしょうか? 良かったら俺のチャンネルも登録よろしくお願いしますね」
:楽しかった!
:ダンジョン配信興味出てきた
:ゲーム配信もいいけどこう言うのもいいよね♪
:コンちゃんが今日もかわいかった
:コンちゃんが楽しければ、オールオッケーです
:また、コラボ配信してほしい
「私も美味しい物食べられたから、毎日コラボでもいいかも♪」
「勘弁してくれよ……じゃあ、今日の配信はこれまで」
「みんな、おつコンコン♪」
「えっ!? 俺もそういうあいさつしたほ――」
タヌポンの言葉を遮り、配信終了しましたという画面が表示される。
余談だが、この配信がコンチャンネル始まって以来一番の再生数を記録したらしい。
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