第4話 コボルトのアヒージョ(2)
「こ、来ないでよ! サンダーショット! サンダーショット! サンダーショット!!」
雷撃がいくつも飛んでいくがそのどれもが全くと言っていいほど当たらない。
「狭い通路でなんでそんな器用に外せるんだよ!? まじめにやってくれ!?」
「こっちは真面目にやってるんだってば!」
そう言っている間にもコボルトたちはドンドンと迫ってくる。
:あれ?
:もしかしてこれやばい?
:俺らのせいでコンちゃんピンチ!?
:お兄さんヘルプ!
:助けてタヌポン♪
:見せてもらおうタヌポンの実力とやらを
「あぁもう都合がいいなお前ら!? コン! お前下がってろ、俺がやる!」
「――! わ、分かった……」
コンを後ろに下がらせ、タヌポンがファイティングポーズで構えた。
:ついに兄登場!
:さてさてどれだけの実力者なんでしょうか
:わくてか!
リスナーもタヌポンの戦いを見ようと誰も瞬きなどせず映像を凝視していた。
誰も目を離していない状況。
――だというのに不可思議な映像が流れる。
今まで映像にノイズなど一切なかった配信に一瞬ぶれが生じた。
すぐに映像のブレは元に戻ったのだが……
――戻った瞬間。
タヌポンの目の前にいたのはコボルトではなく。
辺り一帯に広がる血だまりだった。
:……は?
:えっ?
:何起こった!?
:見えなかった
:まじで?
:ありえないって!
「えっ、ちょ!? さ、さっきの映像をスーパースロー掛けて再生して!」
音声認識機能が反応し、ピコン♪ という音ともに先程の映像が流れる。
タヌポンが地面を蹴り、コボルトの前まで超高速で移動する。
駆けた勢いを殺さず、拳を頭に振り下ろす。
コボルトの頭だけが吹っ飛ぶ。
奥の壁に当たるとコボルトの頭はトマトを握り潰したように弾けた。
その後、胴体だけのコボルトに回し蹴り。
もう一体のコボルトごと、壁まで吹っ飛ばす。
コボルトはそのまま壁のシミとなった。
映像が終わり、コメント欄もコンも無言になる。
血だまりにゆっくりとタヌポンが近づくと……、
「あ~あ、食材ダメにしちまった……」
「いや、そういう問題!?」
:開口一番のコメントそれかよw
:一番初めにする心配が食材の事って……
:お兄さんぶっ飛びすぎ(笑)
タヌポンが発するとコメント欄とコンがフリーズ状態から戻ってきた。
:というかあの強さ何?
:化物?
:探索者ってみんなあーなの?
:そんなわけあるか!
:いったい何のスキル使ったらあんな動きできんだよ
:こんな動き出来るのS級クラスの探索者だろ
:最強の義兄様
カメラから離れ、タヌポンがコンに詰め寄る。
「それより、コン! 何で使えないのをメイン武器にした!? 訓練所の卒業時に武器選べたはずだろ!?」
「だって拳銃が一番かっこよかったんだもん! 射撃術のスキルちゃんとあるもん!!」
「あってあれなの相当だからな!?」
タヌポンとコンがあーだこーだと騒いでいて、コメント欄を全く見ていない。
その間にもコメント欄は続々と書き込まれていく。
:ガチの兄妹喧嘩してて草
:話変わるけど、あれ倒したの、タヌポンじゃない?
:あれ?
:レッドドラゴンの事だよ
:あぁ、あの強さならありえる
:スレでの予想にあったな?
:ネタ枠の兄のソロ討伐説がまさか現実になるとは……
:でも、確かあれって一回否定されたくない?
:とある会社が倒したって、言ってたからな
:あぁ、スダモね
:スダモ?
:スターダストモンスターズ株式会社
:略してスダモだね
:スダモの社員か?
:いや、スダモだったら、龍巳陽子ちゃん使うだろ?
:確かに……
:龍巳ちゃんの所属してるのそこだっけ?
:誰?
:知らない……
:S級の探索者で現役女子高校生
:ルックスも人気も今一番の探索者
:マジかわいいよね龍巳ちゃん
:コンちゃんもかわいいだろぉぉん!?(巻舌)
:月とスッポンだろw
:あ゛?
:あ゛ん?
:喧嘩すんなよw
「とにかく! 今はとりあえず配信を進めるぞ」
「オッケー」
:やっとカメラ位置まで戻ってきたw
:待ちくたびれた
喧嘩が終わり、カメラの所までようやく戻ってくる二人。
「え~と、食材がダメになってしまったので次の獲物探すのでしばらく待って……」
「あおぉぉぉん!!!」
「何!?」
タヌポンとコンが銃を構えた状態で振り返る。
そこには、コボルトが一体、こちらに向かってきていた。
「……獲物探す手間が省けたな」
「よ~し、今度こ……」
「コンは下がってろ」
「ちょっと!」
コンが前に出ようとしたのを手で制止する。
タヌポンは一歩前へ出て、両手を広げた状態で構える。
「【スキル:鉄壁】発動」
タヌポンがそう発するとタヌポンの体に黄色いオーラのような物が見える。
:鉄壁のスキルか
:鉄壁って?
:体覆うバリアみたいなの一定時間発動できるスキル
:ていうことはこの人タンクか
:職業とかもあんのか……
:RPGっぽいな
:レベルアップとかもあんのかな?
:ないよw
:あくまでスキル構成で決めた役割の事
:スキルとステータスだけだしな
:レベルと職業の概念はないんだよな……
;何でねえんだよw
「次、【スキル:挑発】発動」
コボルトがいきなり目を血走らせてタヌポンの方へ向かっていく。
:挑発って何?
:教えて博士♪
:モンスターの注意を自分に集めるスキルじゃよ
:挑発と鉄壁ってまんまタンク職やんw
:なお、コボルトの頭を軽く吹っ飛ばせます
:タンクとは?
:戦車かなw
:誰がうまいこと言えと
コボルトがタヌポンに襲い掛かる。
だが、カキンと何かを弾く音が響く。
タヌポンの腕をコボルトがガジガジと噛んでいる状態のようだ。
そのままタヌポンはコボルトを羽交い絞めにして、コンの方を向く。
「このまま抑えてるからそのまま撃て! ゼロ距離なら外さないだろ」
「で、でもそれじゃあお兄ちゃんが……」
「安心しろ俺の事は気にするな。俺ごと撃――」
何の躊躇もなくコンは引き金を引いた。
バンッという音と共に電撃放たれたが……
当たったのはコボルトの頭ではなく、タヌポンの頭にだった。
:お、おにいさぁぁぁん!
:よ、容赦ねぇ……
:宣言通りヘッドショットw
幸い仮面部分への被弾は避けたので、タヌポンの素顔が見られることはなかった。
だが、仮面越しの瞳がギロリと睨む。
「……おい」
:こっわw
:ホラー映画かよ……
:というかスキルあるとはいえ無傷なのか……
:さすがつよつよお兄ちゃん
コンちゃんが顔をそらして、タヌポンの方を見ない。
「いや、その……ちゃんと狙ったんだよ?」
「……言い切る前に撃ったのは?」
「一度は言ってみたいセリフをお兄ちゃんが先に言いそうだったから……つい♪」
「ついじゃねぇよ!?」
:草
:確かに俺も言いたい
:俺に構うな! 俺ごと撃て!!
:言ってみてぇ
「いいからさっさと当てろ! 俺が攻撃すると弾けんだからコンがやるしかないんだよ!!」
「だ、大丈夫……今度は当てるから」
その後、タヌポンが羽交い絞めにした状態での射撃が行われた。
だが、コボルトに当たったのは五十回撃った後のことだ。
外れた攻撃が誰に当たっていたのかは……言うまでもないだろう。
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