第3話 コボルトのアヒージョ(1)
ドラゴンダンジョン一層。
周りはレンガ造りになった閉鎖空間で薄暗い……ということもなく、不思議と明るい。
そこに狐の面を被り、金髪をサイドテールにした少女がカメラの前に立っている。
「コンコンコン、あなたの心にノックノック♪ ゲーム配信者のコンです♪」
:うおぉぉぉコンちゃぁぁぁん!!
:今日もかわいいねぇ
:推しが今日もかわいい……
:あれ? 今日ゲーム配信じゃないんだ
:背景いつもと違うね
:企業案件?
「ごめんねぇ、企業案件じゃないんだぁ。今日はね? 私がついに! ついにだよ? 探索者ライセンス取ったからダンジョンに来ています」
:まじか!?
:ライセンスの発行って十五歳からだっけ?
:前から取りたいって言ってたの叶ってよかったね
「ありがとうみんな♪ そして今回は初のダンジョン配信ってことでスペシャルゲストを呼んでいます」
:だれだれ?
:ゲーム仲間の本読みフクロウさんかな
:いや、キャットビューティーさんじゃない?
:あぁ、三人とも仲いいしね
「いいね♪ いつかフクちゃんとネコちゃんも呼びたいなぁ♪ ……と脱線しすぎちゃったね? ということでみんなも期待してることだし、ゲストさん来ちゃってください♪」
画面外からタヌキの仮面をした男性がゆっくりとこちらに入ってくる。
:は? 男?
:コンちゃんに男だとぉぉぉ!
:許さぁぁぁん!!
:いや、ちょっと待て、俺この人見たことあるぞ!
:音割れ焼肉の人だ!
:レッドドラゴンを料理したあの!?
:まじで!?
:なんでコンチャンネルに来てくれたの!?
「え~と、皆さんこんにちは……タヌポンです。その……男が来ちゃってすみません」
:姿勢ひっくw
:我々と同じ、陰の者の気配
:ようやくコメント欄読めるようになった男
:コメント欄読めないって?
:この人前回の配信コメント欄の見方分からず
:そのまま配信してた人なんだよ
:ガチの初心者やんw
:なおこの人、コンちゃんの百倍の登録者数の模様
:やっばw
:つよつよ配信者
コンがタヌポンの肩をポンと軽く叩く。
「タヌポンさんしっかりしてくださいよ……はい! ということでゲストはタヌポンさんに来ていただきました。皆さん拍手♪」
「よ、よろしくお願いします」
:まじでこの人どうやって呼んだんだ?
:コンちゃん可愛いさに釣られたか?
:俺なら絶対行く
:いや、だとしてもどうやって連絡とったんだよ?
:他の配信者にも無反応ってはなしだよ?
コンが顎に手を当てる。
「えっと、この人配信がまるっきり初心者なんですよ。いわゆる機械音痴で、私が教えて配信を勧めて始めた人なんです」
「その、どう操作していいか分からないし。何か、ダイレクトメール? とか言うのが、いっぱい来てて、どうしていいか分からず。とりあえず放置という形にさせていただきました。今後も多分反応できないと思うのでここで謝っておきます」
ペコリとタヌポンは頭を下げた。
:ならしゃあない
:むしろ初心者でここまでやれたのすごい
:了解
:承知
「――というわけなんで、コラボは私限定なの♪ 皆さんよかったら私のチャンネルも登録お願いしま~す♪」
「宣伝が露骨すぎないか?」
:つまり?
:タヌポンのコラボはここでしか見れないのか
:登録しました
:配信勧めたってことはリア友?
:機械音痴ならリアルで合ってないと無理だよな
:男友達?
:彼氏?
:コンちゃんに彼氏は絶対認めんぞぉぉぉ
「あはは♪ 彼氏だって♪ ないない♪」
「兄妹だからな俺たち」
「そうなの♪ リアルお兄ちゃん」
:まじで?
:美少女の妹がいるとか羨まし案件
:コンちゃんのお兄ちゃん発言キタコレ!!
:お兄ちゃん助かる
:なるほどだからこんなに早くコラボできたのか
「さて、紹介も済んだことだし。タイトルコールいってみよう♪」
「了解」
デンッという音ともにポップなロゴとBGMが流れる。
「「コボルトをダンジョンで料理してみた~」」
:ほぉ、コボルトですか
:食えんのあれ!?
:教えて有識者さん♪
:説明しよう!
:コボルトは初心者向けのモンスター
:そしてとても狩りやすい
:大体一層から十層くらいに生息してる
:探索者なら一度は必ず見るな
:ただ肉は生臭いし
:砂利かじってる時みたいな食感らしい
:モンスターの肉基本硬いからなw
「はいは~い♪ 私もそう思いま~す♪ 本当に食べられるの?」
「調理次第で全然いける。淡白な肉だから結構アレンジ効くんだ。今回はコンもいるし、モンスター料理初心者向けのメニューだ。レッドドラゴンは……初回でやる内容じゃなかったな……」
「美味しかったねレッドドラゴン♪」
:本当に初回からぶっ飛びすぎだった……
:それな!
:コンちゃんも食ったんかいw
:俺も食ってみてぇぇぇ
「じゃあ早速料理……と行きたいところですが、肝心のコボルトを倒してないので、これから二人で倒しに行こうと、思います♪」
ガッツポーズでカメラに視線を向けるコン
タヌポンは初耳だとばかりに驚く。
「えっ……コンも戦うのか? 聞いてないんだけど?」
「だって今言ったもん♪ それにみんなも戦ってるところみたいよね?」
:コンちゃんの勇姿を是非とも!
:見たい見たい♪
:タヌポンの実力も気になる
:お手並み拝見と行こうか!
「えぇ……大丈夫かなぁ……」
「ほらほら、レッツゴー♪」
コンに背中を押されてタヌポンはダンジョンの奥へと進んでいく。
五分ほど、歩くとタヌポンはコンを手で制止し、物陰に隠れる。
:早速エンカウントか
:初めてモンスター見たけどマジでCGみたい
:ゲームと迫力が段違いだな
物陰から覗き込むと二足歩行の犬、コボルトが辺りを警戒する姿を確認できた。
「いるな……数は、二体。こっちに気づいてないな」
「奇襲チャンスってわけね。お兄ちゃん私にやらして」
コンは腰のホルスターから拳銃を取り出した。
:銃?
:モンスターに効くの?
:というか所持するの犯罪じゃない?
:普通の銃じゃなくて魔銃な?
:ダンジョン以外だと使えないからセーフ。
:魔力を弾丸に込めて撃ち込む武器だよ
:魔力の概念あんの!?
:ついでにスキルとかステータスもある
:それもダンジョン内限定だけどねw
:杖じゃなく銃とは中々マニアックな……
:いいセンスだねコンちゃん
「コンは魔術系のスキルあるのか。だけど本当に撃てるのか?」
「任せてよ♪ ヘッドショット決めてあげる♪」
:武器のチョイスがコンちゃんらしい
:けど……
:拳銃……あっ!
:うん?
:コメントがいきなり減ったな?
:まぁ、見てれば分かるよ……
銃口をコボルトに向けるとバチバチという音が鳴る。
だんだんと銃口に電気を帯びた球体が出来上がっていき、野球ボールくらいのサイズまで膨れ上がる。
「それじゃあ行くよ! サンダーショット!!」
トリガーを絞るとパンッ! という音ともに雷撃がコボルトに迫る。
「……えっ?」
……はずだった。
雷撃はあらぬ方向に飛んでいき、壁にぶつかって霧散する。
銃を構えたままコンはカメラに背を向ける。
一切こちらを見ようとしない。
よく見ると耳が真っ赤になって、照れている事が分かる。
:あぁ……
:やっぱりかぁ……
:コンちゃんゲームでもエイムクソ下手なのに……
:リアルでもそうみたいね
:黙ってた理由これか……納得したわ
「ちょっ!? それを先に言えよリスナー!?」
:だって……
:面白そうだったし♪
:反省はしている
:だが後悔はしていない
「お前らなぁ!?」
「がるぅぅぅ!!!」
タヌポンがカメラに向かって叫んでいる間に、コボルトたちがこちらに向かってこようとしていた。
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