余録:三上山の大百足退治

 千年と少し昔、三上山に大百足が居た。この大百足は山を七巻きするほどの大百足だった。野山の生き物だけでなく人を喰い、果てには琵琶湖に住む龍神の一族すらも脅かしていた。

 この大百足の前に藤原秀郷フジワラノヒデサトという武士が立ちはだかった。

「三本だ」

 秀郷は指を三つ立てて、大百足に見せた。

「何が三本だ?」

 大百足は秀郷に問いかけた。

「三本の矢で貴様は打ち倒されると言っている」

「はっ。そんなわけがあるまい」

「貴様の死はこの宇宙が誕生した瞬間に定められたことなのだ。そして千年の後に蘇ることも」

 秀郷は弓に矢を番えた。

 矢は放たれた。音の壁を越え、亜光速で飛翔した。

 大百足は身動ぎすらできず射抜かれた。

 秀郷は弓の名手であり、人並み外れて目が良かった。そして頭もそれを活かすことができるだけ良かった。原子の動きを観測し、未来の動きを予測することなど息を吸うように行えた。

 秀郷射った矢の原子核は大百足の原子核と衝突し、極小の核融合反応を起こした。大百足の甲殻は一時的に太陽の如き熱量に焼かれた。

 だが大百足の命は太陽で焼かれた程度では失われなかった。

「やはり一撃では殺せぬ。全ては予め決められた通りなのか」

 大百足はこの世に存在して初めて恐怖を覚えた。喰う側から喰らわれる側に初めてなったのだ。秀郷にとって大百足はただの的だった。

 秀郷は最初に宣言した通り、三本の矢で大百足を打ち倒した。

 このとき射出された矢により引き起こされた核融合反応で三上山の表面は削られたという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

殺人ペンギン残党VS凝縮された極小サイズの地獄 遲?幕邏咎哩 @zx3dxxx

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ