殺人ペンギン要塞

 宿泊費は経費で落ちるとはいえ、二人で一部屋にした。

 夕食はビュッフェ形式だった。僕は怪異か人間以外食べられないタイプの怪人で、普通の食事はあまり糧にならない。それに怪人になってから人間用の食事に食欲が湧かない。昔はソフトクリームとか甘いものが普通に好きだったけれど。妹とダブルソーダの取り合いで殴り合ったこともあった。二人で分けるという発想がお互いに無かったんだ。あのときはお互いに若くて馬鹿だったから。

 大神さんは僕とは違う。人も怪異も食べないタイプの神らしいので普通に食事を取る。僕は大神さんの食事を眺めていた。

「大神さん、他にも寿司いくらでもあるのにサーモンばかり食べるんですね」

 前も回転寿司に行ったとき、サーモンとラーメンだけ食べていた気がする。

「ああ。好きなんだ。鮭が」

 大神さんはずっと昔から生きている神だが、寿司は箸で食べる。というか何でも箸で食べる。パスタとかも。

「しかし君は私が食べているところを見ているだけで面白いのか」

 大神さんの言うことはごもっともだ。

「テレビより面白くないですが、飽きないですよ」

 人間用の食事を食えない身になったが、他人(この場合は他神か)が食べている様子を見るのは目の保養になる。何というかこう、エロいな。若い女に見える生物の食事風景は。

 食事が終わり、部屋で横になっているとペンギンが襲ってきた。敵地なので襲撃も当然のことだろう。敵はドアを開錠して入ってきた。一体だけのようだった。

 ペンギンの頭部が乗っかった人間に見える。怪人だろうか。

「くくっ、我は殺人ペンギン星人四天王の」

 自己紹介の途中だったが首を手刀で切断した。四天王とか言い出していたけれど、そんなに硬い身体ではなかった。切断した頭部から食らう。味は先程のペンギンたちよりも豚よりの肉質だった。脳の味はペンギンと大して変わりはない。しかしコイツら異星人ということだが、見た目が地球上に存在するペンギンに似すぎていないか?

 ドアから出て廊下を確認する。本当にこれ一体だけだった。

「ホテルの関係者にインタビューしますか」

 鍵を開けて入ってきたということはホテル関係者の可能性が高い。そもそもホテルの外見からして明らかにペンギンと関係がありそうだ。敵地でゆっくりし過ぎたのかもしれない。

「手荒な真似はするなよ」

 大神さんは人間に優しかった。僕は人間社会の基準で考えると、残酷で異常になっていた。人間としての倫理観も怪しくなっているのでダメそうならダメと言ってくれる大神さんは有り難い存在だ。

「そこのお姉さん?ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「何でしょうか?」

 廊下をうろついているときに見つけたホテルの従業員のお姉さんに尋ねてみた。

 首根を掴んで壁に優しく叩きつける。打撲くらいで済むラインの暴力。

 大神さん的にこれくらいは許せるらしい。まあこのお姉さん、血の匂いや怪異の匂いがプンプンするし。それは僕より鼻の効く大神さんも分かっていることだろう。ちなみにもし大神さんの目がないなら手足へし折ってから話聞くからこれでも穏便な対応をしているつもりだ。

「ペンギン星人だっけ?それについて知っていることを教えて欲しいな」

 もう片方の手から炎を出して相手の顔に近づける。焼きはしない。

 お姉さんは僕の脅しで全身からあらゆる液体を垂れ流しながら知りたいことを教えてくれた。

 どうやらペンギンたちは五年前にネオ熱海にやってきて、ホテル経営をしているようだった。このホテルの従業員はペンギンが市内で拉致した人間だそうだ。ネオ熱海の人間はペンギンを恐れ、ペンギンに目を付けられないように腰を低くして生きているらしい。暗殺刑事を二三人投入すればどうにかできそうな連中に?まあ恐怖は人の考えを狭くするからね。

 そしてこのお姉さんはペンギンに殺された観光客の死体の廃棄を担当しているそうだ。死体はこのホテルの地下室に搬入されてその後はどうなるか知らない、と。

 さて、このお姉さんの処遇どうするか。まだまだペンギン居そうだし、食べておくかな。大神さんはまともにやり合うのは一回が限界くらいにヘロヘロだし、僕が矢面に立たないといけないし。

「なるほど。じゃあ君、もういいよ」

 僕の掌に口が開く。元々ある口と合わせて三つの口で少しずつ食べるか。

「止めて……食べないでください……」

 お姉さんは命乞いの言葉を吐く。まな板の鯉という奴だな。情状酌量の余地はあるかもしれないけど。殺しても良いんじゃないかな。

「やめろ紅世。この人は脅されていたんだぞ」

 大神さんはお姉さんの命を助けるつもりのようだ。でもこの人、軽くて殺人幇助、重くて外患援助だと思うけど。死刑になる可能性があるなら食べておきたい。

「……まあ大神さんが止めろと言うなら」

 お姉さんの尿で僕の靴汚れたし、服の袖にゲロかかったんだけれど……許してやるか。お姉さんだけが悪いわけじゃないし。あとのことはペンギンを殲滅後、静岡県警の連中に判断してもらおう。

「地下室に行ってみますか」

「ああ」

 

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