校舎一階

 私は震える身体を鞭打って、校舎の外を確認しようと窓に近づいた。


「ひっ……」


 外には無数の死体が蠢いていた。屍人―ゾンビ―だ。


 私は一瞬で心が折れそうになったけれど、今のところは校舎内に居なさそうなのが救いだ。

 そう自分に言い聞かせて、そう思い込むことで心を落ち着かせる。


 とりあえず、これで私は二重のクローズドサークルにはまったわけだ。

 この学校と、世界そのもの。スマホもネットもつながらない、情報が一切遮断された完全なものだ。


「……ふぅ」


 動け、私。

 己を鼓舞して、探索を開始する。


 ゾンビがいる時点で敵がいるのは確定したと見ていいだろう。


 諦めるのは、まだあとでもいい。


 校舎はとても静かで、それが怖さを引き立てている。


 内装も、まさに今使われていた状態から人が消えたような感じで、校庭では生徒の代わりにゾンビが騒いでいる。意味が解らない。


 私はとりあえず、実体がある敵に対抗する手段を手に入れることにする。


 おそらくだけど、ここは単なるバイオハザードな世界というわけではないだろう。

 私をここに連れて来た何かのように、様々なタイプがいるはずだ。

 まだ姿を現していないだけで。


 という訳で、私は家庭科室に入った。


 鍵は普通に開いていて、難なく入ることができた。いや閉めとけよ閉めなくていいけど。


「えっと……どこだろう」


 私はとりあえず包丁を探していた。多分ないよりはマシである。


 適当に引き出しを開けまくっていると、あった。


 私は細身の果物ナイフっぽいものと、大ぶりの二本を抜き出して、ぞうきんで刃をくるんで鞄に突っ込んだ。地味に重い。


 あと欲しいものと言えば、ガムテープと長い棒状のもの。

 包丁とくっつけて長物にしてリーチが欲しかった。


 私は家庭科室を出て、それらが置いてありそうな教室を探す。


 なんとなくで右を見てみた。


「わっ!?」


 人体模型が置いてあった。というか居た。


 別にそれ自体は怖くもなんともないのだけど、入るときは居なかったから少し驚いてしまった。


 コイツが居るということは、つまりそういうことで。私は左向け左をして全力ダッシュした。


 ちらっと後ろを見てみた。


「はっや!?」


 人体模型が猛スピードで走ってきていた。怖い以上にシュールな絵面だ。いや、怖いくらいにシュール。


 逃げるのは無理だと判断した私は、大きい方の包丁を取り出し逆手持ちして、タイミングを計り体を勢いよく捻った。今更ながら包丁要らなくねと思った。


 手にものすごい衝撃が走ったが堪えて、さらに力を加えておまけにタックルをする。ダメ押しに蹴ってあげた。


 臓器(模型)が飛び散り、包丁は隙間にぶっささっていた。包丁要らなくねともう一度思った。

 速く走って来たからその分ぶつかった時の威力も大きくなる。多分私が急に止まったりした方が効率よかった。今更だけど。


「腕痛い」


 こうなるから。人体模型が超反応で抱き着いて来たとかなったら更に嫌だから良しとしておく。


 私は包丁を回収して、近くの教室に入った。相も変わらず鍵は開いていた。


 掃除用具箱を開けて箒を一本拝借し、教壇にあったガムテープで包丁の柄とぐるぐる巻きにしてあげる。簡易的な槍だ。重い。

 多分スコップというか、シャベルがあったら持ち替える。丈夫さが少し不安。一次大戦の兵士が使ってた武器の方が信頼感あるのは言うまでもない。


 まぁ、こちらは武器を手に入れたのだ。実体がある敵ならある程度は捌けるだろう。


 実体があれば。


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私がこの世界から抜け出すまで 夜桜月乃 @tkn_yzkr

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