第3話「三体のゾンビ」

金髪ゾンビと黒髪ゾンビ、彼らとキースは知り合いらしい。

ゾンビは脳を破壊しない限り死ぬことは無いという。彼ら以外にも侵入してきた

ゾンビがいるが、彼らは揃ってキースによって心臓を破壊されて本物の屍に

なっている。

二匹のゾンビは自力で拘束を解いて再び行動を開始した。


「―」

「―」


言葉にならない呻き声で会話をしているようだ。傷口に構わず彼らは

歩き出す。最悪だ。彼らが動き出したのと同時に館内を探索していた

ユニは鉢合わせてしまった。

彼女は無策では無い。事前に打ち合わせをしている。

少し前、キースは恐らく彼らがユニを追いかけると踏んで作戦を練った。


「適度に距離を取りながら、ここに来い」

「厨房だけど…」


キースは食器棚を開いた。片付けられているのは皿などの食器以外にも

ナイフやフォーク。加えて調理道具が用意されている。


「俺が奴らの心臓を突く。お前はただ走ってくれば良い」

「お、おぉう…頑張るよ」


と言う事だ。時折、ゾンビたちとの距離を確認しながら逃げる。順調。

ついに厨房へ辿り着いた。


「ゴール!」


部屋の中に転がり込んだユニ。必死過ぎる。彼女の声を聞き、身を潜める

キースは片手にナイフを握る。ユニの背後に迫って来たゾンビ。黒髪のゾンビの

心臓に的を絞り、物陰から出たキースはナイフを投げる。彼に気付いた直後に

そのゾンビは心臓を貫かれて倒れた。


「自我が無いとは言え、根付いた仲間意識は消えないようだな」


チェーンソーが火を噴く。ここからはキースと金髪のゾンビの戦いになる。自我が

失われ、ゾンビの戦い方は荒っぽい。相手の裏を考えず、馬鹿正直に突っ込むだけ。

それではキースに傷一つ負わせることなど出来ないだろうが、彼は油断しない。

腐敗が進み、そして改造をされたゾンビたちの身体能力の高さは生者以上だ。


「だとしても当たらなければ意味は無いな」


振り下ろされたチェーンソーが床に突き刺さった。持ち上がらない。キースが足で

押さえている。背後から心臓だけを的確に突き刺した。

それぞれからナイフを抜き取る。ドクドクと流れ出る血が止まるまで時間が

掛かるらしい。


「ユニ、裁縫の経験は」

「裁縫?得意とは言わないけど、出来るよ」


そう答えると裁縫道具を投げ渡された。キースは一人、椅子に座り指示を出した。


「黒髪ゾンビがローウェルで、金髪ゾンビがジェイル。その糸と針で傷を縫って

やってくれ」

「縫ってやれ!?」

「やり方は変わらねえよ。適当に縫ってやれ」


軽く言っているが、ユニはそんな軽く考えられない。ここに人外と人間の

認識の差があるのだろうか。縫うのは仕方なく受け入れるとして素手では

触りたくないと言い張って、ユニはゴム手袋を受け取った。傷口を縫う。

やり方は布と布を繋ぎ合わせるように。針による痛みで体がビクつくことも

呻き声を上げることも無い。だが不意に声がした。


「ちんたら時間かけなくて良いんだぜ」

「ひょわっ!?」


閉じていた目が突然開いた。金髪のゾンビの異様な首の回転範囲にもユニは

驚いた。


「ジェイルさん!」

「そうそう、俺の名前はジェイル。ほら、お嬢ちゃん。さっさと縫い合わせて

くれねえか」

「はっ!そ、そうだった!早く終わらせますね」


胸に出来た傷を縫い終わるとジェイルは起き上がる。その動きはやはり人間味が

無い。ゾンビの独特な起き方。続いてユニはローウェルというゾンビの傷を

縫う。彼もまたジェイルのように一人でに目を覚まして、言葉を発する。


「おや、生者の御嬢さん。まさか俺の血に素手で触ったりしていないだろうね」


ジェイルよりも淑やかな口調の男だ。


「あ、はい。素手で触ってません」

「それは良かった。そしてありがとう。こんな腐った体を縫ってくれるなんて

君は優しいね」

「そんな。優しいだなんて」


糸切狭で糸を切った。胸から起き上がり、頭が持ち上がった。


「久しぶりだな、ジェイル、ローウェル。記憶はどうだ?」

「あぁー…ここ最近の記憶がすっかーんと抜けてんな。ローウェルは」

「俺もだ。というか、何故生者がこんな場所にいるんだ。彼女は人間だろ」


ローウェルは目先の疑問をキースにぶつけた。改めて互いに自己紹介をする。


「俺、ジェイル。こっち、親友のローウェル。俺たち、見た目通りのゾンビな。

ヨロシク嬢ちゃん」


ジェイルは軽い調子の青年ゾンビだ。こうしてゾンビと言葉を交わすことが

出来るとは、二人を見るユニの目はキラキラしていた。


「そんな暴れてたのか!怖がらせてごめんな~」

「ううん、もう気にして無いよ」


ゾンビたちの容姿は生前のまま残っている。ジェイルは何かしらの罪を犯して、

ずっと牢獄に繋がれていたのだろう。ローウェルは看守だったのかもしれない。

先に二人に情報を提供してくれた女ゾンビは修道女だったのか。


「聖職者がゾンビに…」

「彼女も呼んだ」


気付けば扉の影から顔を覗かせている修道女ゾンビ。彼女はヒラリーという

名前らしい。ゾンビトリオが揃ったところでゾンビたちの事を聞いた。


「全員あんな感じだと思うぜ。俺たちは当事者だし、自覚はねえけど」

「心臓のこれを壊せば、俺たちのように自我を取り戻すだろう。ヒラリー、

お前は特殊なゾンビだから俺たちより影響を受けていないのかもしれない」


特殊とは彼女の前職の話。生前の話。彼女は神に仕え、祈りを捧げる

修道女。だというのに、彼女はこうしてゾンビになっている。自我を忘れ、

彷徨っているゾンビたちには支配人がいるようだ。その支配人こそが

ユニが魔都に迷い込む原因を創り出した黒幕なのでは、とキースは

推測を立てた。


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ユニのアンデッド 花道優曇華 @snow1comer

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