グラビアアイドルとかそういうのに疎いもんで

「すいません、グラビアアイドルとかそういうのに疎いもんで」


「いいんですよ、最近になってようやく名前が知られるようになった新人ですから……」


 そうなのか、でもせっかく有名になり始めたのに、美鳥さんはあまり嬉しそうな顔をしてない。

 そういえばクラスメイトが『体調不良で活動休止している』とかも話してたよな、確かに調子悪そうだから関係あるのかも。

 だけど初めて会った人にそこまで聞くのは失礼だよなぁ。


「HATO…… じゃなくて、美鳥さんはどうしてこの地域に来たんですか? この辺って都会ではないし、観光になる場所って訳でもないですし」


 俺が返事に困っているのを察して、千和が話題を代えてくれた。


「……昔、となり町に祖父母の家があったんです、小さな頃よく遊びに来ていて、しばらくこの地域に来てなかったので久しぶりに来てみたくなったんです、そしてふと昔食べたこのお団子屋さんを思い出して、食べたくなって来ました ……確かあの頃は優しそうなおばあ様と、ちょっとチャラチャラした男の人が居たような気が……」


 そうだったのか…… 美鳥さんが食べた味を再現出来ているかは分からないが、思い出してまた来てくれるなんて嬉しいな、ばあちゃんも喜んでいると思う。


 しかし親父…… チャラチャラした男って間違いなく親父だよな、昔の写真で見た事はあるが本当にチャラチャラしてた。

 清楚で落ち着きのあるような服装の母さんと親父がツーショットで写っているのを見て、よく結婚できたなと思ったのを覚えている。

 二人いわく『離れられないくらい相性がピッタリ』だったらしいが…… そんな事はどうでもいいか。


「でも肝心のお店の場所がうろ覚えで、道に迷いながら辿り着いたので…… ご迷惑をおかけしました」


「いえ、そこまでしてうちの団子を食べたいと思ってくれて祖母と両親も喜びますよ」


「ふふっ、本当に久しぶりに食べたのにあの頃の記憶が蘇るくらい美味しかったです、あの…… 失礼かもしれないですけど、私よりも若いのに何故二人でお店を?」


「ああ、それは……」


 俺は今の店の状況を軽く説明した。

 店主の両親が世界一周旅行に行き、修行として店をやらせてもらってるという事、そんな俺のサポートを幼馴染の千和がしてくれている、という事を。


「はぁー、高校生なんですか、それなのに二人とも凄いですね、私なんて二十二歳なのに将来の事すら…… うふふっ、でも幼馴染、ですか、てっきり夫婦かと思っちゃいました」


「えぇっ!? えへへっ、夫婦だなんてぇ、えへへっ、えへへ……」


 千和がまたおかしくなってる! 


「でも二人にとって今は…… 青春、なんですかね? うふふっ」


 

 その後、体調が良くなった美鳥さんは何度もお礼を言いながら帰っていった。


 これから思い出の場所をゆっくり巡りながら予約したホテルに一泊して家に帰るらしい。

 また倒れたら困るからあまり無理はしないとは言っていたが少し心配だな。


「……で、どうしたんだ?」


「えへへっ」


 美鳥さんが帰ってからやたらとくっついてくる…… 夫婦と言われたのが余程嬉しかったらしい。

 店も昼で閉店にしちゃったし、特にやる事がないから別にいいんだけど。


  ふと思ったのだが、そういえばこうして千和と何もせずに二人きりでのんびりと過ごす時間ってかなり久しぶりだな。

 いつも一緒にいるけど両親がいるし、仕事中だったり、あとは…… おだんごを食べさせたり。


 まあ、こういう時間も悪くない。

 きっと親父達も二人きりでのんびり過ごしてるんだろうな。


 千和の頭を撫でつつそんな事を考えていたが、午前中は色々と大変だったので疲れていたのか、いつの間にか二人ともリビングで眠ってしまっていた。









 




 んんっ…… あったかい…… それに柔らかいけど、苦しい…… でも落ち着く香りがする……


「んっ……」


 モチモチ…… スベスベ…… 


「ふふっ、可愛い……」


 んっ? 良い感触だ…… これは良い団子になるぞ


「もう…… 寝てても変わらないんだから……」


「うぅーん…… あっ…… 千和? 何で…… あれっ?」


「おはよう、お団子作る夢でも見てた? ふふっ」


 目が覚めると部屋が薄暗くなっていて、千和の顔が目の前にあった。

 後頭部にはモチモチとした肌のような感触が…… って、膝枕!?


「うぉっ! ゴメ…… えっ?」


 千和さん、何でズボンを…… 確か寝る前は動きやすそうなズボンを履いていたような気がするんだけど。


「本当に無意識だったんだ、桃くんったら、寝ている私の……」


「えっ?」


「ううん、何でもない、桃くんだもんね? ふふふっ」


 そう言いながら千和は俺の頭を撫でる。

 何だか甘やかされている子供みたいで恥ずかしくなり千和から目を反らすように頭を動かすと……


「……千和?」


「んー、だってで濡れちゃって」


 ふーん…… 確かにがするかも。


「そんなに気になるなら…… 桃くんが拭いてくれる?」


 なるほどねー。

 

 よいしょっと…… 


 じゃあ拭いてあげよっかなぁ……





『ピンポーン』



 んっ? インターホンが鳴った、誰だろう……


「俺が出るからちょっと待ってて」


「うん、待ってる……」


 さっさと出ないと千和が汗かいて熱を出しちゃうからな。


 そしてインターホンに付いているモニターを見てみると…… えっ? 美鳥さん?


「千和、美鳥さんだ、何か忘れ物でもしたのかもしれない」


 一応千和に声をかけておくと、リビングの方からゴソゴソと音がし始めた。

 それを確認してから玄関のドアを開けると、申し訳なさそうな顔をした美鳥さんが立っていた。


「あの…… すみません、ちょっとお話が……」


「はい、どうかしました?」


「実は…… ホテルの予約の日付を間違えてまして明日の予約だったんです、それですぐに他で宿泊できる所を探してたんですが、なかなか泊まれる所が見つからなくて…… そうしている内にちょっと体調が悪くなってきまして、この辺で知り合いもいないので…… 訪ねさせてもらいました」


 確かに顔色が悪い…… そういう事なら仕方ないかと思っていたら千和も話を聞いていたみたいで、俺の横に来て服の裾を軽く引っ張ってきた。

 千和の言いたい事は何となく分かるし、俺もそう思ったので


「美鳥さんが良ければ家で休んでいきませんか? 泊まっていくならそれでもいいですし…… あっ、千和も居るんで俺と二人きりとかはないんで大丈夫ですよ」


 一応芸能人だ、何らかの問題になっても困るだろう。

 すると美鳥さんは目元に涙を浮かべながら


「本当にすみません! 迷惑かけたばっかりなのにまた迷惑かけて…… ありがとうございます! ありがとうございます!」


 何度も頭を下げてくる美鳥さん。

 俺達は気にしなくていいし体調が悪いんだからと言って止めさせ、リビングに案内した。


「はぁー、助かりました、最悪ラブホテルに一人で泊まろうかとも考えたんですが、目撃されて変な噂を立てられたら事務所に迷惑がかかってしまう、なんて考えてたら決断出来なくて、気が付いたらここに来てました…… 電気が点いてないからいないかと思いましたが」


「あ、あははっ、気が付いたら二人とも寝ちゃってて……」


 それでの千和をふきふきしてあげようとしてた所だった、とは言えない。


「そ、そうなんですか…… 二人でお昼寝……」


 ちょっと、何か変な事を想像してます? 美鳥さんが思ってるような事じゃないですからね? 多分……


 すると台所の方から千和の声が聞こえてきて


「桃くーん、私、晩ご飯作るから美鳥さんに飲み物出してあげてー」


「ああ、今取りに行くー」


 台所に行くと千和が温かいお茶を用意してくれていて、それを受け取ろうと近付くと、千和は俺の手を握ってきた。


「おあずけ…… だね、でもまた夜に汗かいちゃうかも」


「そうか、じゃあ拭いてあげないとな」


「うん…… お願い」


 指を絡めながらお願いしてきた千和と約束しリビングへと戻る。


「あ、わざわざありがとうございます、はぁぁ、良いお家ですね…… 何だか昔行った祖父母の家みたいで落ち着きます」


「ははっ、ただの古い家ですよ」


「そんな事ないですよ、私は都会のマンション暮らしなんですけど、あまり落ち着かなくて…… だから良いじゃないですか、それに…… 温かいですし」


 美鳥さんはそう言って受け取った湯呑みを見つめ、寂しそうに笑った。


 都会…… どの程度の場所かはプライバシーもあるし詳しく聞けないからハッキリとは分からないが、確かに人が多くて建物ばかりで自然が少ないと落ち着かないのかも。

 ここら辺は田舎ってほどじゃないけどあまり栄えてない。

 ただ自然も多いし近所の人達も良い人ばかり、落ち着かなさっていうのは感じた事はないし…… 美鳥さんは色々と苦労してるんだろうな。 


 何か事情がありそうなので深堀りはせずに会話していると、台所から良い香りがしてきた。


 おっ、今日は千和特製のカレーだな? 


 そう思っていると、隣から大きなお腹の鳴る音が聞こえてきた。


「へっ!? わ、私、あっ、す、すみません!! うぅっ、恥ずかしいです…… 嘘、なんで? 最近は……」


「あははっ、千和のカレーは美味しいですから楽しみにしてて下さいよ」


「そ、そうですか…… やっぱりただの幼馴染じゃないですよね……」


「何か言いました?」


「な、何でもないです! た、楽しみですね!」


 よく分からないが、少しは元気が出たようなので安心した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る