第3話 選定の剣と聖剣

 翌朝。ノアは四方を鋼鉄で囲った洞窟のような廊下をレティシアと一緒に歩いている。

 (これほどの金属を神の力無しに加工できる魔術。やはりすごいな。)

 レティシアにとっては当たり前のことでもノアにとっては未知そのもの。

神聖痕のない金属錬成などノアの生きた時代にはなかったからだ。


 洞窟のような廊下を進むと2つの金属とガラスの扉が待ち構えていた。

 (金属だけでなく、硝子の加工まで……。2000年以上の歳月でここまで行けるのか……。)

 純粋な人の技術のみでここまでいけてることにノアは驚く。

もちろんガラスの錬成や加工にも神聖な力が必要であるため。

 「ノアちゃん。ここで生体検査と聖霊測定、選定の義をやるから、ここを通ってね。」

 レティシアは彼女が立っている扉の隣にある扉を指さす。

 (どうやら住民と外から来た人ではいろいろと違うのだろう。前の時も検問所がこんな感じだったな。)

 「わかりました。その前に……。少し御手洗にいってもいいですか?。」

 「あ……あぁ。ごめんね。気づいてあげられなくて……。」

 「いいですよ。それじゃぁ……。」

 「あんまり遅くならないでね〜。」

 「はーい。」

 ノアはレティシアから離れて、併設されてる御手洗場に行った。

 「ふぅ……。これで大丈夫だろう。リリス。アスタロト。」

 二又に別れたノアの影から1人の黒いメイド服の少女と一匹の黒い狼が現れた。

 「召喚に預かり参上しました。勇者様。」

 「再び合間見えたことに感謝する。主。」

 黒いメイド服を身にまとった14歳ぐらいの少女。

ガマリエル級魔剣使いの半人半魔である。

 「勇者様。一つお伺いしてもよろしいでしょうか?。」

 「なんだ?。」

 「いかにしてそんなお可愛い姿に。」

 「あぁこれは。肉体の再錬成に失敗して少女の姿になっている。だが大丈夫だ。力は問題なく使える。」

 「左様にございますか。」

 「して主よ。我らを呼んだのはいかにして?。」

 そう問うのは黒い狼。

ガシェクラー級魔剣使いの魔造生物、ローフェンリルのアスタロト。

彼は異界から召喚されし勇者によって造られた魔造生物。

神殺しの神獣フェンリルの模造であり、かつてはそこら辺に野生化したローフェンリルが魔物の長として人々を脅かしていた。

 その縁で勇者ノアと出会うことになり、聖霊契約を結ぶことで冥界の樹の堕天使として今もノアの元に仕えている。

 「僕……私はまだこの身体に慣れていない。だからお前達にこの世界の情報を収集してほしい。」

 「……。確かに。我々のいた時代とはいささか衛生状態も良い。」

 「それで勇者様はどうするつもりで。」

 「私はこれから契約を結んだある少女と一緒に、普通の少女としてこの世界を知ろうと思う。」

 「誠に失礼ながら、勇者様が普通の少女として生活するのは無理なのでは?。」

 「我も同意する。」

 「う、うるさい。そういうことだから、頼んだぞお前たち。」

 「承知しました。」

 「全ては主の御心のままに。」

 リリスとアスタロトはノアの影へと潜っていった。

  

  2人と別れたノアは、金属とガラスでできた扉を抜けて金属の洞窟を進む。

現在のノアは白いノースリーブのワンピースを纏ったか弱い少女として周りに認識されている。

 (こんな少女が勇者だとは誰も思うまいて。)

 そんなことを考えながら道を進むとまた金属でできた扉。

その扉の先には少し開けた部屋。

入るとプシューと霧状のものを吹きかけられた。

 (聖霊雲。これも作れるようになったのか。)

 聖霊雲。かつて魔族を退き、大気を浄化するのに使われた神聖術。

それが検問で使われるくらいには量産されるようになったことにノアは驚いている。

 (いやはや。未来の技術恐るべし。)

続いて丸い魔法陣の上に行き、ノアは立ち止まる。

するとしたから数回ほど床から天井に向かって、光の円がノアを通過する。

 (これはあれか。一部の王城でしか使われなかった身体検査の魔法。)

ノアの時代には一部にしか使われなかったが、これも安定して使えるようになっている。


 生体検査を終えたノアは再び金属の洞窟を進む。

道の先にはまたも金属の扉。

扉を抜けた先の部屋には、一つの台座に刺された一本の剣が刺さっていた。

 (選定の剣。【マーリン】。)

 選定の剣ことマーリン。

かつては国が勇者を見つけ出すさいに使った神から与えられし聖剣。

 [久しいのう。勇者ノアよ。]

 (そうだな……。またお前に会えて嬉しいよ。マーリン……。)

 呆れた声でノアはマーリンの呼び掛けに答える。

2人の会話は念話と通じたやり取りのため。

周りにはバレない。

 (それで。あんたどうしてこんなところに。)

 [それは少し長い長い話になるが。聞くか?。]

 (いや、いい。さっさと始めよう。)

 ノアは選定の剣を握る。

久しぶりの感覚に少し戸惑うも意識を集中させる。

 (そう。深く。心の中から。)

 ノアの深層へと意識を落とす。

選定の剣が選定の剣と言われる由縁。

それは握った者の心を読み解き、その者にふさわしい聖剣を神から託される。

そして勇者として世界を救う。

 (最初はそうだったな……。)

 懐かしさに思いをはせながら、ノアは聖霊深層を深く、深く、進んでいく。

 [ノアよ。そろそろ聖霊深層が100を超える。戻ってきていいぞ。]

 (あぁ……。すまない。)

 マーリンに呼び戻されてノアは現実世界へと帰還する。

これが選定の義。

 [してお前の聖剣だが……。元々あるあの聖剣はどうする?。]

 (あれはもしもの時に使う。だから普段使いできる聖剣を頼む。)

 [普段使いする聖剣なんてのはお前くらいだぞ。]

 マーリンは冗談を交えながらノアの使う聖剣を選定する。

 [今のお主の力ならこれがいいだろう。]

 (ダアト級の聖剣。【プルトーネ】か。)

 杖の形をした聖剣。

選定の剣が示す聖剣の形は心の形。

 [お前はもとより、前に出て剣を握る勇者ではなかろうに……。]

 (ありがとう。マーリン。)

 [して勇者ノアよ。あの子はどうする?。]

 (あの子……。)

 [お前が現界したあとすぐに聖霊契約を結んだ少女よ。]

 (レティシアか……。)

 [気づいているのだろう。あの子は。]

 (あぁ。わかっている。)

 ノアとかつて一緒に旅をして、世界を救い、最後には置いて行った幼なじみの聖女。

レティシアにはその遺影を微かに感じていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

聖霊勇者学院の魔剣勇者 アイズカノン @iscanon

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ