犯罪ですが結婚します。
ピロシキまん
ある夏の日。
ミーンミンミンミーン____
ジャージャージャージャー_____
昨今の地球温暖化の影響で、かなり長い季節になった夏。
その夏の暑さを象徴するように、アブラゼミやクマゼミたちの鳴き声がこだまする。
「ふいー……。あっちぃな……」
額に滴る汗を拭いながら、青年は垂れ流しているテレビの局をポチポチと変えていく。
「なんかおもろいの____」
『なんと今だけ!17980円なんですよ!』
ポチ
『腰の痛みに悩んでいるなら、コレ!!』
ポチ
『コレを使ったら良くなったんですよねー!』
ポチ
『_____』
「……。だめだ。今の時間はテレビショッピングしかねぇ……」
それもそのはず。
青年が今暑さと闘っている時間は、午前11時。
17歳の高校2年生である青年は、今頃学校で未来への投資をしているはずなのだ。
「外かぁー。あんま行きたくねーんだけど……」
直射日光が遮られている家ですらこの温度。
これに照りつける太陽が加わると思うと、青年は外に出ることを躊躇ってしまう。
「んー。最近外には出てねぇからなぁ……」
あたりを見回しても、この異常な暑さから救ってくれる
「って言っても……。暑さは外と大して変わんねぇもんな。
俺の大好きなエアコンちゃんも取られちゃったし」
それは、つい先日のことだった。
いつものようにエアコンの効きが悪い自分の部屋から出てきては、リビングのすべての窓を閉め、ピピっとスイッチを押して爽やかな風で気持ちよく過ごそうと、いつもスイッチが置いてある場所に目をやる。
「……。あれ?どこいったんだ?」
しかし、そこにあったのはエアコンのスイッチではなく、一つのメモ書き。
何気なく手に取って見てみると、そこには小さな文字で長々と文章が綴られていたが、要約するとこうだった。
『あなたが学校に行かないのはエアコンが原因の一つだと考えたので、エアコンのスイッチは私が預かります。
母より』
「えぇ……。まじですか」
青年は困った。
まだまだ天気予報では夏の暑さが抜けないという予報なのに、それを凌ぐ手段が潰えてしまったのだ。
青年は考える。
両親の部屋に移動して涼もうと思ったが、念には念を入れたのか、ここのリモコンも見当たらない。
核家族世帯のため他の部屋もなく、アテが無くなってしまった。
幸い扇風機は許されていたようなので、結局その日のエアコンは諦めて、母親が帰ってくるまで熱風で我慢していた。
そして今日。
昨日は学校に行くから!と豪語していた彼だが、それは歴とした嘘。
こう言っておけばスイッチは置いてくれるだろうと踏んだ上での言い草だったが、甘かった。
先日と同様にリモコンのスイッチはほぼ回収されており、灼熱の中で過ごす羽目になっていたのである。
「マジでどーしよ……」
このままいけば、また母親が帰ってくるまで待つことになるが、それは昨日の体験から地獄であることが判明している。
かといって学校に行くとしても、この時間帯は授業中。
夏休み明けから半月ほど行ってない身としては、行った時のジロジロと見られる視線が嫌で気が乗らない。
「うーん____あ、そうだ」
灼熱か、視線か。
この両者を天秤にかけながら悩んでいた時、青年はふと思いついた。
「婆ちゃんちに行こう!」
青年の祖母の家は、今いる場所から自転車で30分ほど山に向かった場所にある。
そこは川も近いから避暑地のような気分を味わえるし、宝物であるエアコン様も、元気で動いていることだろう。
「しゃあ!行きますか!」
そうと決まれば話は早い。
本来は通学ように使う肩掛けのカバンに、着替えのシャツとズボン、川に入って濡れた時のための下着を2着ほど詰め、スマホを右、財布を左のポケットに入れた。
「うし!準備完了」
現代社会を生きていくために必要なものを取り揃え、玄関を開ける。
「つぁぁ……!あっちいなまじで」
灼熱地獄へと一歩を踏み出した彼への祝福のように、夏の日差しと熱風が襲いかかる。
その歓迎に負けることなく、青年は鍵を閉め自転車に跨り、祖母の家へとペダルを漕ぎ始める。
「20分で着いてやる」
これは、学校生活に飽きてしまった飽き性な青年と、幼き日を共に過ごした少しヤバめな少女との、ちょっとしたお話。
〜青年目線〜
学校ってのは、つくづく同じことの繰り返しだ。
登校して勉強して、時々体育があって、下校して。
そして学期に2回テストがある。
それをほぼ繰り返すだけ。
体育祭や文化祭はあるにはあるけど、それも一年の中の決まった時期にしか起きない。
部活に入ってたらそんな感想は無くなるのかもしれないけど、人間関係が複雑になるから好きじゃない。
その点、小学校と高校の最初は少し違った。
何から何まで新しいことの発見で、人間関係なんてすぐに壊れてすぐに戻る。
高校に至っては新しく生み出さないと生きていけないしな。
勉強だって、先生によってテストする時間が全く違うし、教科が増えて新鮮味があった。
でも、それも1年そこらが経てば終わる。
それ以降は友達が固まってくるし、先生の学級運営とか授業の内容とかも繰り返されてるんだなと気づいてきてしまう。
こうなると新鮮味も何もない生活に早変わりだ。
だから俺は高校を休んだ。
場所を変えただけで結局は同じ日々に耐えられなくなってしまったから。
父さんや母さんにはもちろん俺の思っていることなんて伝えてないし、こんなことを話したところで共感されないことなんてわかりきってる。
俺だって迷惑をかけていることは分かっているから、これから間隔を空けてゆっくりと克服していこうと思っていた矢先。
母さんの方が行動に出た。
リビングのエアコンのスイッチ、両親の愛の巣のエアコンのスイッチを回収してしまったのだ。
流石に驚いたしその日は地獄だったけど、まぁ半月もいたらな……と納得している自分もいた。
流石にもう潮時だなーと思って「明日から行くから!」と豪語したのは良いものの、身体は言うことを聞いてくれなかった。
いやほんとに。
嘘じゃないんだよー?
どーにかこの灼熱の暑さを逃れる方法は無いか考えてると、俺はばあちゃん家の存在を思い出した。
あそこならエアコンはあるし、川の近くだから少しは涼を感じられる。
そうと決まれば早く行くしかねぇ!と思い、俺は今ばあちゃん家に向かってチャリをガン漕ぎしている最中だ。
「ぜぇ……、ぜぇ……。やっぱ行かなくて良かったかも……」
なんせこの直射日光とアスファルトからの照り返しというダブルパンチだ。
漕ぎ始めて20分ちょっとが経った頃、住宅よりも田んぼがかなり増え始めた。
「もう少しか……」
ここまで来てるってことは、ばあちゃん家はもうすぐだ。
大きな川に跨る橋を渡り、右に曲がる。
「ついに来たぞ!これを越えれば……!」
俺の目の前にドン!とそびえるのは、地元じゃ心臓破りの坂だと言われる激坂だ。
ばあちゃんはこの坂を超えた地域、鏡野にある。
「ふぅーーー」
ゆっくりと深呼吸して……、
「GO!!」
俺は一気にペダルを踏み、坂の手前まででスピードをつけていく。
「ぃよし!このまま一気に!」
十分な加速を得たと感じて、そのままギアチェンジ。
軽いギアにしてスピードを切らさずに進む。
「うおぉぉぉぉ!!!」
かなり進んできたところだが、まだまだ坂の終わりは見えない。
ヤバい。
もう加速分の勢いが無くなっちまった。
「くっ……!ふん!ふんっ!」
だんだんとペダルが重くなってくる。
それでも俺はかなりの力をかけてペダルを踏み、ゆっくりゆっくりと自転車を進めていく。
「ぐっ……。もうちょっと、だ!!」
ようやく見えた、坂の終わり。
残った力を振り絞り、目の前に広がる平坦へと突っ込むように、前傾姿勢でペダルを踏んだ。
「ふんっ!!!ブハッッッッ!!!
やった……。ようやく抜けた_____うわぁぁ!!
坂を抜けた安堵感で、俺はつい体の力を抜いてしまった。
学校を休んでいない日だったら、それでも平行感覚を保てていただろうな。
だけど、俺は自分の身体がいかに貧弱になっていたかに気づいていなかった。
ガシャァァァン!!
力が抜けたことによってハンドルがぐらつき、地面とファーストキスをかましてしまった。
「ってて……。道路とは初めてしたよ……。ってあっつ!!」
身体の力が抜けたままうつ伏せでいたら、いつのまにか黒焦げになっちまうとこだったぜ。
すぐにチャリと自分の体勢を立て直して立ち上がり、今度はチャリを押しながら鏡野に向かう。
と言っても鏡野はすぐそこ。
俺は激坂の頂上から下りながら、目の前に広がる一面の田畑と大きな川を眺めていた。
「一年ぶり、か……。今年のお盆は風邪で行けなかったからなぁ」
やっぱりここは、いつ来ても新鮮だと感じる。
「え?あれって……、
坂を下りきった後左に曲がって少し歩く。
そうすると、田舎特有のどでかい家が目に入って来る。
それが俺のばあちゃん家だ。
流石にこの炎天下だから、遠目に見る限りでは人は居ないみたいだけど……
ん?誰かがこっちに走ってくる……?
「悠くぅーーーーーーん!!!久しぶりぃぃぃ!!!」
ショートの茶髪に白のノースリーブシャツ、ベージュの短パン。
おまけにデカい。(何がとは言わん)
そんなthe・夏が似合う美少女みたいな子が、俺の名前をどでけぇ声で叫びながらこちらに向かってくる。
えっと……??
誰ですかね……?
てっきり他の人と見間違えてるんじゃないかと思ったが、はっきりと俺の名前を叫んでたし間違いは無いだろう。
となると誰だ?
頭の中でこんな爽やか美少女がいた記憶を探したけど、思い出すのはあの黒髪ロングのうるさい奴。
顔は可愛いって人気なのに、口うるさくて嫌なんだよな。
って違う違う。
こうしている間にも少女はこちらに猪突猛進で突っ込んできていて、結局俺は何も思いつかないまま、キラキラした目でこちらを見ている少女に捕まった。
「ねぇ!ねぇねぇねぇ!悠君だよね?!ね?!」
肩をガシッと掴まれながらグングンと揺らされ、俺は質問に答える暇がない。
「ちょ、ちょっと揺らすのやめ」
「うわー!久しぶりだよね悠君!8年ぶりかな?鏡野もとっても懐かしくて楽しいよね!ね!」
「ちょっ……ちょっと待」
「悠君はどこに行ってるの?てゆーかここにいる?もしや別の場所?!」
だめだ。
この子俺の話を聞いてくれねぇ!
バシバシと俺の話を遮って喋る彼女に、俺は一旦待ったをかける。
「ストーップ!一旦喋るの禁止!」
「ぁ……。ご、ごめん!ついはしゃいじゃって……はっ!」
唐突に手で口を塞ぐ彼女。
「ごめん。何してんの?」
「…………」
「あー……。もしかして、喋るの禁止って言ったから?」
コクコクと首を振る彼女。
いや別に一切喋るなってことじゃ無いんだけど……。
「俺の話を聞いてって意味だよ。別に一切喋るなってことじゃないから。とりあえず手で口を隠すのやめようか」
「……。ほんとに?」
「ほんとに」
俺はそこまで傲岸不遜な性格じゃないぞ。
「……」
ジィーーーー。
なんでずっとそのままなんだよ!
早く外してくれ!話しにくいじゃねぇか!
「いやマジでほんとだから。俺の話を聞いて欲しかったの」
ここまで言ってようやく信じてもらえたのか、ようやく彼女は手を外してじっと俺を見た。
「話ってなに?あ!もしかして私と悠くんの」
「まず!いきなりでごめんなんだけど。君、誰?
俺の記憶を探ってみてもこんな可愛い人、俺は会ったこと無いんだけど」
ようやく言いたかったことを言えた俺だが、その事を聞いた彼女は一瞬えっ?て顔をした後、ボフッと音が鳴るように顔を赤くした。
「ど、どーした?」
「まさか……。まさか悠くんに可愛いって言ってもらえるなんて……!
「えっと……。俺そんな酷い奴だったの?」
どうやら彼女は俺と以前会ってるようで、その時の俺は彼女に対して「可愛い」の一言すら言わなかったみたいだ。
何してんのそん時のおれ。
こういうのは先に恩を売っとかないといけないんだぞ!
過去の俺の失態に文句を言いながら、聞き心地が良い彼女の声に、俺は微かに引っかかる。
なーんかこの声、聞いた事があるような無いような……。
それに、さっき8年前って言ってたよな……?
…………あ、まさか!!!
「どうしたの悠君?名探偵ばりの深刻な顔して」
「も、もしかして
限られた情報の中から弾き出した俺の結論を聞き、彼女、いや夏鈴はプッと吹き出すように笑った。
「そんなに驚く事なのー?8年前からそんなに変わってなくない?」
「いや、だいぶ……。というか全く違うんだけど」
あの時の夏鈴はなんというか、今と真逆のタイプだったはずだ。
髪は長かったし、今みたいに夏が似合うような活発な感じじゃ無くてずっと図書室にこもって本を読んでるような感じだった(気がする。)
それと体つきも____ゲフンゲフン。
チラチラと夏鈴のいろんなところを見ていると、彼女はニヤニヤとしながら俺の体を突っついてくる。
「あらあらー?私があの時の夏鈴だって分かって、欲情してる?」
「えーっと……。はい。正直に言ってデカすぎで
バシィィィィ!!!
「もう!思っててもここじゃ言わないのが普通だよ!!」
「へいへい」
俺、平手打ちされる必要あったか?
「それで?なんで夏鈴はここにいんの?君は8年前に……」
彼女は9年前にここに来て、その1年後には居なくなってる。
親の都合か何かで転校して来て、親の都合でまた転校していった。
だから夏鈴との思い出は1年そこらしか無い。
そんな彼女が、なんでまた
その疑問に答えるように、彼女は大きな胸を張って堂々と宣言した。
「ふふーん。私、家出したきたんだ!!」
「……。よし、交番に行こうか」
「あだだだだ!!ちょっと悠ちゃんストップ!ストーップ!」
稼げる手段は限られている高校生という身分。
まだまだ親の元で育ててもらわないと生きていくのが厳しいというのに、彼女は悪びれる様子は無い。
まるで悪い事じゃないです!と言い張っているみたいだ。
だけど、次に彼女から飛び出した言葉に、俺は固まってしまった。
「私!
「…………は?ど、どーゆーこと?」
苗字が変わった?
結婚か?でも夏鈴は同い年だよな。
あ、でも彼女の誕生日って……。
本来は一番予想外であるはずことを考えついた俺の心を読むように、彼女は自分の
「そー。私、
oh……。
こういう時に俺は、どんな反応をすれば良いんだ?
おめでとう?
早いな?
学校はどうしたんだ?
色んなことを思いつくけど、あんまりしっくりこない。
なんというか、現実味が無い感じ。
8年前に会っていた少女が、今になって俺に会いに来て結婚報告をしてる。
こんな状況は、エロ漫画のNTRものでよくあるやつだ。
現実じゃあり得ないと思っていた。
でも、それが今、俺の目の前で起きている。
ただ一つ違うのは、俺が彼女のことをなんとも思ってないってことだ。
彼女の方は分からんが、少なくとも結婚という永遠の愛を誓った以上、よっぽどの痴女じゃない限りそれを破る、なんて行為はしないだろう。
「へぇ。相手は誰なんだ?同級生か?」
だから俺は、あくまでも普通に受け止めて話を続けることにした。
しかし、彼女と結婚できるなんて、(今になってみればだけど)クソほど羨ましいな。
とかほざいているが、完全に今の俺は下半身に支配されている。
こんなことを感じさせないようにしてる奴が結婚できるんだろうなぁ……。
「ううん。一つ下。だけどとっても優しくて、私が変わるきっかけを作ってくれた人なんだー」
えっと、結婚って18からだよね?
一個下ってことは俺と同じ。今年で17の代のはずだ。
法律的にアウトだけど、彼女の好きが溢れてるオーラを見て俺は何も言わないことにした。
世の中には言わない方が得なこともあるもんだぜ。
でも誰だろうな?
ここに居たときは俺以外と話してるってのはあんま見たことないし、多分転校した後で出会った人が鏡野と関係がある人なんだろうなぁ。
そんなことをぼーっと考えていると、夏鈴はこちらを見てニコリと微笑んだ。
「ねぇねぇ悠くん。おばあちゃん家に行かない?悠くんものすごい汗かいてるよ?」
「え?」
彼女との話で盛り上がってしまった結果、俺はとんでもない汗をかいていることに気がついていなかった。
それに気づいた瞬間、視界がフラフラとし始め、身体に力が入らなくなる。
あっ。これ熱中症だ……。
なんとか体勢を保とうとするけど、身体の力が入らないから思うように動けず、俺は再びその場に倒れ込んでしまう。
「あっ!?悠くん!?大丈夫?!悠くん___
やべぇ……。夏鈴の声が聞こえなくなってきてる___
夏鈴の肩に抱かれながらゆっくり歩き始めるところを感じながら、俺は意識を手放した____
リーンリンリンリン
んぁ……。虫の鳴き声、か……。
腐っても9月の秋口だ。
秋の風物詩の鈴虫たちが鳴く音が、俺の耳にうるさくないくらいに入ってくる。
あぁーー。心地いいな。
すごく柔らかい何かに包まれているようだなぁーー。
不意に香ってくる蚊取り線香の匂いと、ばあちゃん家にある畳の匂い。
多分だけど、ここばあちゃん家だな。
一番あそこから近いのはばあちゃん家だし。
なんかフローラルな香りもするなぁ……。
ん?フローラル?
一年前のばあちゃん家じゃそんな匂いはしなかったことを不思議に感じ、俺はゆっくりと目を開けた。
「あ。悠ちゃんおはよー。気分はどう?」
「うん。良くなったけど……。これはどういう状況なのかな?」
俺が開目一番に入ってきたのは、こっちを覗きこんでほっぺをペタペタと触る夏鈴だった。
覗き込んでるってことは……。この後頭部に伝わる柔らかな感触はまさか!!
FUTOMOMOだぁーー!!
俺は心の中で大興奮していた。
なんたって18のJKの太ももだぞ?
同世代でこんなことしてくれる奴なんて、彼氏じゃなければ味わえない至福だ。
「んー?悠くんが倒れちゃったから頑張っておばあちゃん家まで連れていって、身体を冷やしてたら寝ちゃったからそのままにしといたんだー」
「えっと、それはつまり……、俺は数時間夏鈴の太ももの上で寝てたと」
「そーだよー。あんまりキツくなかったからまだいけるけど、どうする?」
「そ、それはもちろん____」
もっとして欲しいです!と言いかけたが、俺は身体を起こした。
して欲しい気持ちは山々だが、俺は彼女の旦那じゃないし、こんなとこを旦那に見られたら確実に殺られる。
一時の至福か、自分の命か。
二つを天秤にかけるまでも無く、選ばれたのは後者でした。
「……いや。ありがとうな夏鈴。もう大丈夫」
「……そう。なら良かった」
少し機嫌が悪そうに見えた夏鈴だったけど、なにか俺が悪いことしたんだろうか。
もしや寝てる時になにかやらかしたのか……!?
さすがにここまでしてもらった彼女に悪いと思い、俺はなにかやってしまったのか聞くことにした。
「なぁ夏鈴。俺、なんか寝てる時にしちゃったか?それならごめん。ここまでしてくれたのに申し訳ない」
「……いや?特にはしてないよ。時々私の太ももをフニフニしてたけど」
「いやそれはまじでゴメンナサイ」
「ははっ。大丈夫だって。悠くんももう17なんだし。
……まだ分かんないの?」
おっと?まだなんかやらかしたのか?
「えっと……。何が?」
「はぁ。話の途中だったじゃん。私の旦那さんは誰なのって話」
あぁーー。そういえばそんなことを言ってた気がするなぁ。
「悠くんはまだ分かんないのかなーって思って」
「いやー……。夏鈴の同級生で、優しくて自分を変えてくれた人だろ?
こっちにいた時はお前、俺以外と話してた雰囲気無いから、別の場所で出会った人だろうなーとは思ってんだけど、それだと誰とか全く分かんねぇわ」
俺の予想は、普通の人間なら当たり前に考えつくことだ。
だけど彼女の答えは違うようで、俺の答えを聞いた後デカいため息が聞こえた。
「はぁーーーー。やっぱり悠くんは鈍感だね。
いいよ。答えを教えてあげる」
「お、おう」
さっきまで明るい雰囲気だったのが一変。
シンとした静かな雰囲気になったことを感じ、俺はつい息を呑む。
「悠くん。私はね、両親が転勤族だから色んな場所に行っては移動を繰り返してたの。
少しの期間で別の場所に行っちゃうから、小さい頃はすっごく寂しかった。
だから私は、ある時から寂しい思いをしないように皆と仲良くしないようになったんだ」
まぁ、そりゃあそうだろうな。
俺みたいな新鮮さを求め続ける異常者じゃない限り、普通の人なら新しい人間関係を求めようとはしなくなる。
「でもそんな時。あの人はそんな私を変えてくれた。
新しい人といっぱい仲良くなれるなんて、いつまでも新鮮なままじゃんかってね」
へぇー。俺以外にもそんな奴が……。
え?
ちょ、ちょっと待てよ。
その台詞、なんか
「だから私は、ここまで前向きになれた。
その恩返しと、もうあなたから離れることが無いようにって決めてここにきたの。
だから、私と結婚してください。
彼女は微笑みながら、ポケットから取り出した銀の指輪を、呆気に取られている俺の薬指に嵌めた。
「…………えぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!」
拝啓お母さん。
犯罪ですが、僕にお嫁さんができました。
じゃねぇぇよ!!!
どーゆう状況だこれぇぇぇぇ!!!!
「これからよろしくね。
そう話す彼女の顔は、実に妖艶だった。
犯罪ですが結婚します。 ピロシキまん @hikaru3kka
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