11 パドックではペットの放し飼いは禁止

 フウカの肩にしがみついているフクロウが片目を開けている。


 えっ、警察?

 どこ?


 あ。

 フウカが手を挙げて大きく振った。

「こっち、こっち! こっちだって!」


 見ると、黒ずくめの背広集団が、パドック脇に大幅拡張された女性専用カフェの入口に集結している。

「知り合いか?」


 しかし、ジンもランもどこ吹く風。

「先生、いつものこと」

「ん?」

「フウカの恋人。刑事。知らなかった?」

「へえ」

「それもかなり自慢の彼氏」

「あそこに?」

「いるみたい」


 しかし、背広団の中に、手を振り返す者はない。

「仕事中だもんね」

 フウカは自分に言い聞かせて、

「デジちゃん、ちょっと行って、聞いてきて」と、フクロウに言う。


 デジロウと呼ばれたフクロウは渋っていたが、結局、大きく羽を広げた。

 さすがに目立つ。

 フウカにとって、この迫力も自慢なのだ。


 パドックの近くでペットの「放し飼い」は禁止。

 しかし、所詮はロボット。

 馬の目に入らぬように、地面を歩いていくという気遣いはない。

 案の定、競馬場の警備員が数名、血相を変えて駆け付けてきた。



「フウカのデジロウ。あれ、どこで買った? いくらした? めちゃくちゃ賢いよね。全部言わなくても、言わんとすることを理解して自分で行動する」

 ジンが褒めそやす。

「今だって、聞いてもないのに、ボクらが関心ありそうなことを教えてくれる。自分で判断して。普通のペットロボットじゃ、ああはいかない」

 しかし、フウカはため息をついた。


「元気ないね」

 フウカはちらりとランに目をやり、

「まあね」

「成績? ダメっぽい?」

「え、あ、そこ? ダメってこともないんだけど」


 卒業に黄信号がつくほどではないが、春学期の成績が伸びず、就職先に苦慮しているのかもしれない。

「そのことで、教授に……」

「そんなこと忘れて、今に集中」

「あんたはいいけどね」


 ジンは成績優秀。

 ランにいたっては、全学一千名の中から最優績者表彰を受けている猛者である。



 派手な羽音を響かせ、腕を振り回す警備員の頭上を掠めて、デジロウが戻ってきた。

 やはりロボット。本物なら、こんな大きな羽音はたてまい。



「ノーウェの聞き込みをするそうだ。これから散会して、始めるらしい」

 ジンもランもフウカも、ギョッとした顔を見せた。

「ノーウェの……」

 もちろんミリッサも。

「……ん?」


「どうしたの? みんな変な顔して」

 サークルのメンバーがもう一人増えた。

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