5 プロローグ 四 今まで味わったことのない感覚

 オレは、ヒキをくわえ、道沿いの側溝に身を落ち着けた。

 底は砂や落ち葉に湿り気があって心地よい。

 ここでこやつを。


 と、数人連れのハイカーがやってきた。

 やれ、お楽しみの刻だというに。

 しかし、こちらに気づきはしまい。


 が、ヒキめ、ここぞとばかりに暴れだしよった。


 ちっ。

 若衆に気づかれてしもうた。



 くっ。

 カメラまで構えて近づいてくる。

 ヒトの目に映る姿をしておったのがまずかったか。

 オレは見世物じゃないぞ。


 クソッ。


 鼻先にカメラを構えられては、こやつを飲み込むこともできやせぬ。

 無念だが、まあ、また捕えればよい。

 ここはひとまず退散。



 忌々しい。


 オレはくわえたヒキを離し、若者たちの足元に飛び出した。

 驚かせてやろうぞ。

 藪の方へ逃げればよいものを、娘の足に噛みつかんばかりの勢いで。



 あっ!

 が、尻尾をつかまれた!


 あああっ!


 逆さ吊りにされたかと思うと、たちまち首元を掴まれた。

 砂利を満載したトラックが勢いよく通り過ぎていった。


 あっ、痛っ。

 跳ね飛ばされた石が誰かに当たったようだ。



 えっ!


 オレを掴んだのは娘。

 その娘の顔が近づいてきて、オレの目をじっと見つめている。


 こやつ!



 わっ!


 頭部に唇を付けられた。

「巳さん、危ないでしょ。道路に飛び出したら」


 確かに。

 運が悪ければトラックに轢かれていたやもしれぬ。

 その後に待つ運命は道に横たわる干物だ。


「わあ、アンジェリナ、蛇、触れるんだ!」

「さあ、さっきのカエル、まだそこら辺にいるでしょ。ごめんね、お食事の邪魔をして」

 と、そっと藪の中に逃がしてくれた。



 オレは、アンジェリナという名を覚えた。

 そして、胸に今まで味わったことのない感覚が生まれた。

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