3 プロローグ 参の一 今の姿のワシを
世は太平。
年寄りの自殺が増えたからといって、人が何人か絞め殺されたからといって、それがどうした。
ワシはそう思うのだが。
今、北陸路のとある集落の屋敷にいる。
ワシは山中に住んでおったが、ここ数十年は、ワシをワシと認めることができる老婆とともに住まいをいたしておった。
娘ごが二人、屋敷にやってきた。
老婆が死に、人の住まぬ屋敷はたちまち廃れる。
廃屋となった、こんな荒れ果てた家にどんな用があるのか。
獣か妖しか住んでおらぬというのに。
二人して、屋敷内をうろついておる。
屈託なくはしゃいだ声を出して歩き回っているが、一体何を探しているのやら。
なんじゃ?
うち一人がしゃがみ、ワシを手招きするではないか。
見えるのか。
ワシを。
今の姿のワシを。
む。
見覚えがあるような。
この娘ごが幼子だったころ……。
うむう……。
面影があるような……。
まあよい。
ワシもそろそろ飽きてきたころ。
ひとたび、人の世に慣れれば、もはや戻れぬ。
こやつらに着いていくのも一興やもしれぬ。
むろん、悟られず、人知れずに。
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