3 プロローグ 参 今の姿のワシを

 世は太平。

 年寄りの自殺が増えたからといって、人が幾人か絞め殺されたからといって、それがどうした。

 ワシはそう思うのだが。


 今、北陸路のとある集落の屋敷。

 ワシをワシと認めることができる老婆とともに住まいをいたしておった。

 老婆が死んで幾十日。

 人の住まぬ屋敷はたちまち廃れる。

 空腹と退屈がこんなワシにも忍び寄ってくる。



 そんな折。


 きしむ戸を開けた者がいる。

 そろりと入ってきた娘子二人。


 荒れ果てた家にどんな用があるのか。

 獣か妖しか住んでおらぬ廃屋に。


 大きいの、細っこいの、二人して、屋敷内をうろついておる。

 はしゃいだ声を出して。

 居間から台所、奥の間、離れへと、一体何を探しているのやら。



 む。

 なんじゃ?


 大きい方の娘っ子が、手招きするではないか。

 しゃがんで、おいで、と。


 ワシを?

 見える、のか?

 ワシを?

 この姿のワシを。


 ふん。

 ここは逃げるにしかず。


 むむ。

 いや、待て。


 見覚えがあるような。

 この娘子……。



 益体もない。

 退散じゃ。



 ここまでは追ってこれまい。


 それにしても……。

 うむう……。

 面影があるような……。

 幼子だったころ……。



 まあよいわ。

 ワシもそろそろ飽きてきたころ。


 ひとたび、人の世に慣れれば、もはや戻れぬ。

 こやつらに着いていくのも一興やもしれぬ。

 むろん、悟られず、人知れず。


 物好きかもしれぬがの。

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