商業クラブ

 申請に向かっている最中にシャルロッテにクラブはどうするのかと聞かれた。


「入りたいと思えるのがなかったんだよねえ。クラブは自分で作ってみようかなって思ってるよ。商業クラブなんてどうかな? お金を稼ぐことを学ぶクラブ」


「お金を稼ぐ、ですか?」


「うん。僕ら貴族は自ら働くわけじゃないけど、何かを提案して、人を動かすことを覚える必要があるでしょ? もちろん平民の人も考えることは違うけど、やることは一緒だよ? どうすれば効率よく仕事ができるか、貴族と平民の違いでどんな商品が受け入れられるかを探すんだ」


「それは素敵ですわね! それぞれの実績作りにも向いてます!」


「そうだね、うまくいけば実績につながる」


 この学園では卒業までに何かしらの実績が求められる。実績があれば優秀な学生と認められ、社交界にとても有利に働く。

 ただ、基本は複数人でひとつの実績を挙げることが多い。複数人で研究して、結果の発表となることが多いためだ。


 卒業と言えば、一番上の兄のクレスは魔法の操作力を実績として学園をすでに卒業しており、今は領主科の専門コースに通っている。

 二年ほど次代の領主たちとコネを作りつつ、派閥を形成するのだ。

 次男のジェロは兄が領地に帰るまでは、王都の騎士団で鍛えることになっている。筋がいいらしく、それでいて従者の真似事も出来る器用な騎士として有名らしい。


 二人の兄の婚約者たちは待たされる形にはなるが、すぐに結婚が出来るように動き始めているみたいだ。

 まあ、仲睦まじい姿は見ているので、問題はないだろうと思っている。

 領地に帰れば、即結婚だ。お祝いにケーキを作ってあげたいな。あと二年しかないけど、間に合うかな?




 チックタックの盗難防止の魔法処理申請と、テイムした魔物たちを連れ歩く許可をもらう申請書を書いている間に、ゴロッソ先輩が事務室に顔を出した。


「ロイ君、彼女の処遇は叔母が決めることになったよ」


「ゴロッソ先輩の叔母、さまですか?」


「ああ、君もよく知っている王妃コレット様だよ」


「え? ゴロッソ先輩って血縁者だったんですか?」


「私に王家の血は混じってないよ。母の姉が王妃コレット様なんだよ」


「だから、俺のことも知ってたんですね」


「ああ、だから婚約者殿のことも聞いている。あまり長くは学園にいないが、頼りにしてくれていいよ」


「よろしくお願いします、ゴロッソ先輩」

「私からもよろしくお願いします」


「それで? 今は何をしていたんだい?」


 ここに来た用事を話して、ついでにクラブのことも伝えた。

 美食クラブには入れそうにないからね。

 そう話すと、なんだそんなことかとため息を吐くゴロッソ先輩。


「別に複数のクラブに入っていても構わないんだよ? 会長みたいな役職を兼任している人だって珍しくもない。その分、実績は作りやすくなるからね」


「そうなんですか!? じゃあ、あまりそちらには顔は出せないかもしれませんが、お世話になろうと思います」


「ああ、よかった。叔母からは『早くあの店を開けるように手伝いなさい』と、脅迫されていたんだ。これで少しは開店が早くなるかな?」


「ああ、そのことでしたら、あのブラックカウの肉があればなんとかなりますよ? あれがあれば、うちの看板メニューに出来ると思います」


「食べているときは不満そうにしていたけど、どうしたんだい?」


「あれはあの料理人の調理方法が悪かっただけです。あの肉が手に入り次第、ウチの料理人に練習させて、美味しく食べられるようにします。楽しみにしててください」


「そうか、そうか。じゃあ、そのことも伝えておこう。いい土産話が出来た。ああ、ついでにクラブ作成の件も申請しておくといいよ。この時期は毎年クラブが乱立してしまうために、申請に時間がかかるからね」


「ありがとうございます。新クラブも申請しておきます」




 教室に帰ると、静まり返っていた。なんだ? 

 みんな、そんなに真剣になってどうしたんだ? あれは、ステラとカール?

 二人がボードを睨みあって、周囲は固唾を飲んで見守っている状態だ。


「くっ、もう打てる手がない。負けました……」


「っ!? やりました、マリィ! カールさんに勝てました!」


「よくやりましたわ、ステラ! 褒めてあげるわ!」


「まさか、私がここまで動きを制御されるとはね。称賛ものだよ。アレッパスも是非やってみてほしいよ」


「あー、あれは見せてもらったことはあるんですけど……、ルールが覚えきれませんでした。なので、無理です」


「なんだって!? まあ、無理もないか。大戦を模倣してるから、複雑すぎるしな」


「何をしていたんだ?」


「あ、ロイ!」

「聞いてよ、誰が一番強いかって話になって!」

「総当たり戦をやって」

「私のステラが一番になったのですよ!」

「ま、マリィ。は、恥ずかしいよ……」

「見事なものだったから、私は誇っていいと思うよ」


「そんなことをやってたのか。申請は終わったから、魔法処理をしたら今後も好きに使っていいよ。あ、ついでに新しくクラブを作ったから入らないか?」


『クラブを作った?』


「あー、そこから説明しないとだよな……」


 チックタックなどの申請しに行ったときに、新クラブの創設の申請もついてに受理してもらった話をして、クラブの活動内容を話す。

 みんな、概ね受け入れてくれるようだ。


「ロイさん、自分は入りますよ! そこで卒業のための実績を目標に、商売について学ぼうと思います!」


「そうだね。私も人を動かすということは苦手な方だから、学べるなら学びたい」


「俺は美食クラブに入るつもりだったけど、そっちにも入るよ」


「僕もきっと何か学びになると思うから入るよ。それに、面白そうだ!」


「私も自分にできる稼ぐ手段を探すために入ります!」


「ステラが入るなら、私も入るわ。私だけ入らないのもおかしいでしょ?」


「みんな、ありがとう。これからもよろしく頼むよ」

「ふふっ、私を忘れていませんよね、ロイ様?」


「ああ、シャルももちろん一緒だよ」


 こうして、新クラブ『商業クラブ』は結成された。

 このクラブのせいで、みんなが目が回るほど忙しくなる話はまた今度。




 もう日が傾いてきた頃、フェイとステラは寂しそうだった。

 彼らは寮住まいらしい。

 また明日も会えるというのに、よほど今日が楽しかったみたいだ。


「皆さんは帰ってしまうんですね……」


「ああ、君らは寮だったか」


「また明日会えるんだから、そんな顔をしないの、ステラ」


「マリィ……。寮に帰ったら、私……」


「なに、いじめられてるの?」


「ううん、違うの。逆なの。よくしすぎてもらってるの。でも、お人形のように毎回着せ替えられるのには耐えられないの……」


『着せ替えられる?』


「寮のお姉さまたちに『綺麗な新入生が入ってきたわ!』って言われて、入学式の日までずっと、ずーっと、毎日毎日着せ替えられる日々だったのよね。つらかったわ。慣れない化粧も施されて、入学式の今日は誰かいい男でも捕まえて来なさい!って、言われてるの。あのお姉さまたちのもとに帰るのが憂鬱だわ……」


『あ~……』


「フェイ?」


「は、はい! な、なんでしょう、マロッティ、さま?」


「ちゃんと敬称が使えて結構。ステラに手を出したら、許しませんことよ?」


「は、はい!」


『……』


 みんな同じ考えなんだろうな。お前が頑張れと。ステラは顔を真っ赤にしている。まあ、フェイは顔は悪くないし、育ちもよく、頭の回転も早く、勉強もできる。優良物件という奴だ。

 それでも認められないのがお友達というものだ。だから、マロッティは強めに釘を刺したんだろうなあ。


 頑張れ、フェイ。きっと将来は明るいはずだよ。

 お嫁さん候補が出来てよかったじゃないか。姑と言える存在が恐ろしいのを除けばだけど……

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