呪い
美食クラブで問題が起こったため、すべての歓迎会が中止になった。
一度教室に戻り、全員が合流したことで情報交換をしようとしたが、誰かのお腹が鳴いたため、食堂で話そうということになった。
「美食クラブで問題があったんだろ? 何があったんだい?」
「ええっと、アレイスターでいいのかな? たぶんまだ話さない方がいいと思うから、具体的な話は避けるけど、絡まれたから対処しただけだよ」
「ポリムでいいよ、僕もロイって呼ぶから。ふーん、話せないなら仕方ないね。美食クラブは庭園だっけ? 僕は奏楽クラブを見に行ったんだ。場所はホールだったよ。普段はダンスなどの夜会で使われる場所みたいで、すごく広かったよ」
「途中までは一緒でしたけど、あれは広すぎて、逆に寂しく感じてしまいましたわ」
「グレンジャー、それは言わないでくれよ。僕もあれはちょっとないなーって思ってしまったんだからさ……」
「もう、面倒だからみんな名前呼びね! どうせ成績落とさない限りはこの先ずっと一緒なんだから。平民のあなた達も状況次第では敬語が必要になるけど、普段は敬称なしね! 結束力を高めていきましょ!」
「は、はい!」
「わかりました、マロッティさん」
「うーん、もう一押しね。ステラならマリィと呼んでくれていいわ。仲のいい人にはそう呼ばせているから」
「わ、わかったわ。え、えっと、マリィ、さん……」
「うんうん、この初々しさが堪らないわ! 私がもらっちゃおうかしら?」
「も、もらう?」
「あら? 平民はそういうつもりで学園に入ってくるのではなくて?」
そこからマロッティが話した内容は、平民が学園に入るのは自身が優秀だと貴族に自分を売り込むためだということだ。
そのため、勝負事では基本的に接待はしないで、自身の力を相手に見せつけるのが大事で遠慮をする必要はないらしい。
「し、知らなかった。ただコネを作るために入ったようなものだったから……」
「フェイ、君は商会の三男坊と言っていたね。なら、君にはちょうどいい相手がいるじゃないか」
「カール、さん。ロイさんのロイヤル商会は、さすがにいくらなんでも自分には敷居が高すぎると思います……」
「そんなことはないよ、フェイ。俺が優秀と思えば、雇うことは視野に入れるよ?」
「ほ、ホントですか!?」
「なっ、私の言った通りだろ?」
「まあ、優秀さを見せてもらわないとだけどね」
男性陣でも話が進んでいれば、女性陣でも話が進んでいる。
「シャルロッテ、私は愛称で呼んではダメかしら?」
「シャル以外であればどうぞ。そちらはロイ様だけに許しているので」
「うーん。じゃあ、ロッテで! 私のことはマリィでね?」
「ええ、よろしくお願いします。マリィ」
「ほら、ステラも!」
「あ、あたしもいいんですか!?」
「もちろんいいですよ、ステラ」
「ろ、ロッテ、さん……」
「にしても、ステラとロッテの髪は綺麗よね? 私はちょっと癖が強いから……」
「私はロイ様のエスティがいますし、ソルトからもらった整髪料で整えています」
「あたしは木の実を使った櫛で髪を梳いてるだけですね」
「二人ともずるいわ! ロッテのは婚約者であるロイのおかげが強いけど、ステラのは簡単に真似できそうね!」
「も、森で採取しないとなんですよ。それにあまり量も取れませんし……」
「へえ、その話。興味あるね」
「ろ、ロイ君!?」
髪を梳かすだけでこんな綺麗なストレートヘアーになるのか、素晴らしい植物だ。うん、シャルロッテのためにもぜひ欲しい。
なんなら栽培して、数を増やすのもいいだろう。それがいいな!
ステラの髪を見ていると、シャルロッテに咳払いと共に軽く耳を引っ張られる。
「ロイ様、あまり女性をジロジロと見るのは失礼ですよ?」
「うっ、ごめん。シャル、ステラ。ちょっとその植物の効果が気になって、今度話を聞かせてほしい。数が少ないなら栽培してみるのもいいかもしれないからね」
「あたしたち、平民が困らないようにしてくれるのであれば助かります。一応、祝い事などで着飾る時には重宝する植物なので……」
「ああ、荒らさないよ。むしろ、みんなに行きわたるように育ててみるさ」
「それなら安心ですね」
「ロイさん、自分もお手伝いできると思います! その植物のことは知ってます!」
「フェイ。じゃあ、さっそくお願いするよ。どういう木の身で植物なのかを調べたいからね。森を荒らすんじゃないぞ?」
「はい!」
学園の施設や森の植物の話などをして、食堂で昼食をとった。
また教室に戻ると、バル先生が気だるそうに待っていた。
「おー、戻ってきたか。学園側でさっきの問題に対処しているから、今日はもう何もすることないぞー? まあ、交流を深めるために雑談でもするか?」
「そうなんですか? じゃあ、ウチの商会の商品を持ってきてるから、これで遊んでもらおうかな? みんな、感想を聞かせてくれる?」
「自己紹介の時から気になってました!」
「まだ数が出回っていないんだろ?」
「あたしでも出来るでしょうか?」
「帰りに盗難防止の魔法処理をする許可の申請にも行くから、これからは授業中以外は好きな時に遊べるよ。申請が通れば、テイムしてるスライムも連れてくる予定だ」
「私もエスティを連れてきたいです。帰りに申請しに行きましょうね、ロイ様?」
「ハイハイ、イチャイチャしてないで、早くロイヤル商会の商品を見せてよね」
「す、すまない」
「ご、ごめんなさい」
マロッティに呆れた眼で急かされる。アドラに教室に置かれているロッカーから、チックタックを取り出してもらう。
俺はお礼を言って受け取り、まずは三×三マスのボードを一枚とコマを取り出す。
「これだけなの?」
「最初はルールの説明のためにわかりやすく一枚から、ルールをわかってもらえたら、縦横を三倍にするよ」
まずは基本のルールをボードとコマを使いながら説明する。みんなすぐに理解してくれたようなので、ボードを増やしてこちらも同じように教える。
最初はこんなのがそんなに面白いのかという疑問の顔をしていたので、とりあえずやってみろと場を譲る。
「よし、イザークと僕でやってみるかい? いいかい、カール?」
「ああ、私は戦略を立てさせてもらう」
「もう一つあるのよね? ステラ、私とやりましょう?」
「は、はい!」
「フェイは俺たちと一緒に見学だな」
「わかりました、ここから面白いという商品を学びます!」
こうして、イザークとポリム、マロッティとステラが対戦することになった。まずは様子見のカールは観戦してから、戦略を立てるつもりのようだ。
イザークはかなりの早指しのようだ。それに対して、ポリムはかなり熟考してからコマを置いている。
ふむふむ、この二人を見ていると対局時計はやっぱ必要だな。設計図を考えている途中だから、フェイに投げてみるのも面白いかもしれない。
マロッティは迷いながらコマを置いているが、ステラが勝利に誘導しているように見える。本人の性格の問題だな、これは。無意識に相手に勝ちを譲ろうとしている。マロッティもすぐに気づくだろうな。
カールはそんな二つの戦いを見て、頭を悩ませているな。フェイはフェイで真剣に勝負の行く末を見守っている。シャルロッテはニコニコとしている。
ところで、バル先生はなぜ教室に……
「私がいちゃ邪魔か、ロイ?」
「そんなことはないですけど、仕事はしなくていいのかなと」
「見回りしてたんだよ、今が仕事中ってわけだ」
「サボってるわけですね……」
「まあ、そうとも言えるな」
ダメだ、この人。面倒見はいいみたいだけど、仕事はしたくないみたいだ。
たまに口元の白い筒を手で弄ぶだけで、何もする気がないように見える。
あれはいったい何なんだろうな? もしかして、薬とかなのか?
「先生のそれは、もしかして薬だったりするんですか?」
「どうしてそう思う?」
「肯定してくれるんですか?」
「気が向いたらな~」
バル先生はヘラヘラと笑って誤魔化した。何かの病気なのかな?
よし、申し訳ないけど、気になるから【心眼】で見てみるか。
≪バル・アーガス:心臓に【虚弱の呪い】があります。現在は、薬で強制的に心臓を活性化させている状態です≫
まさかの【呪い】が見えてしまった。あれは心臓を活性化させる薬なんだ。
バル先生の命はあとどれくらい持つのだろうか。解決策はないのかな?
【心眼】でもっと詳しく見てみればわかるかな?
≪【祝福】で【虚弱の呪い】打ち消すことが可能です≫
なるほど、【心眼】はこういう使い方も出来るのか。バル先生に気づかれないように【祝福】で打ち消しておくか。聖印に魔力を送って【祝福】を祈るように捧げる。バル先生が健康でいられますように、っと。
「早くよくなるといいですね~」
「ああ、そうだ、な!?」
「どうかしたんですか?」
「い、いや、なんでもない……。お前ら、あんまり長居せずに早く帰れよー」
「はーい」
「わかりました」
「ま、負けたー!」
「ステラ、手を抜いてるでしょ! そういうのは相手に失礼なんですのよ!」
「ロイ様、バル先生に何かしたのですか?」
「いや、何もしてないよ?」
「もう……、いつか話してくださいね? 必ずですからね?」
「ああ、わかったよ」
バル先生が出て行った扉を見て、なぜあの呪いがかけられたのかと考えてみたが、それは本人の口から聞くしかないなと諦めた。
それよりも今は、申請のために片方のチックタックを借りなきゃな。
「申請に行くから、どちらかゲームを借りていいかな?」
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