心眼

「これは面白いですね!」

「見てる側もどういう状況なのかがわかりやすくていいですわ」


「ふむふむ。戦略性を問われるゲームは大戦を模したアレッパスが至高のゲームだと思っていたが、こちらはシンプルでわかりやすい分、相手の手を先の先まで読む必要があるな……」


 入学式までの間に情報収集やおもちゃを作っておいて本当によかった……

 クラスにロイヤル商会の宣伝ということでチックタックを置かせてもらえることになったのも大きい。当然、魔法処理を施して盗難防止もしてある。そんな人はいないだろうけど、他のクラスの人はわからないからね。念のための処置だ。




 入学式では学園長のありがたい話を聞いて、各専門の講師を紹介されるだけで入学式自体はサラッと終わった。各科の学科長と保健の先生にあたる人や警備主任、催し物などの色々な申請担当の事務長の顔は必ず覚えておけということらしい。


 式が終わった後は学力別に分けられた教室へと向かう。1~4組までに分けられており、さらにその中から上級・中級・下級と細分化されている。

 俺とシャルロッテは1組の上級だ。


 向かった教室には俺たち二人を除いて、すでに全員が揃っていた。

 このクラスの人数は全員でも八名とかなり少ないように思えるが、成績が悪ければ1組の上級が存在しない年もあるらしい。


 人数が少ないことにホッとした。顔と名前を覚えるの苦手なんだよな。何かに夢中になって時間が経つと、俺は関係の薄い人から忘れてしまうんだ。八人ならなんとか覚えていられる気がする。


 すでに窓側などのいい席は取られてしまっているようだけど、教室の入り口側の席がちょうど二つ空いている。シャルロッテをエスコートして、二人でそこに座る。

 エスコートをしている姿が、注目を集めてしまうが気にしない。これくらいは貴族では当たり前なのだから。


 しばらくすると、教室にやや気だるそうに見える女性講師と真面目そうな男性講師が入ってきた。あれはなんだろ? タバコみたいに見えるけど、火はついていない。

 俺が女性講師の口元を注目していると、その講師にからかわれる。


「先生がいくら綺麗だからって見つめるのはよくないぞ~? それも婚約者持ちが」


「なっ! 違いますよ! その口にしてるものが気になっただけです」


「これか? 気になるお年頃だろうが、そんないいものじゃないぞ?」


「教えてはくれないんですね」


「女は秘密があった方が惹かれるだろう?」


「まあ、それはそうですが……」


「ロイ様っ!?」


 俺と女性講師の漫才なやりとりを本気にしたシャルロッテに驚かれてしまった。

 ちゃんと他意はないと、シャルロッテに向かって首は横に振っておく。


「さて、早速だが自己紹介をするぞー。先生の名前はバルだ。横にいる真面目そうでお堅いのは……」


「バル先生、余計なことは言わないでください。ダンテールだ。この教室の副担任という立場になった者だ」


「というわけで、お前たちにも自己紹介してもらうぞ~?」


 名簿帳のようなものをひらひらと振って取り出すが、中身を見る気はないようだ。

 バル先生にやる気はなさそうだな。ダンテール先生のがまともに見える。


 それにしても、自己紹介か。前は憂鬱だったが、今は緊張もしていない。

 どうやら順番も平民からみたいだ。大丈夫、今回はうまくやれる。いい機会だからロイヤル商会の宣伝はしっかりしようと思う。


「まずは、フェイからだ。印象に残る自己紹介を頼むぞー。」


「は、はい!」


 あれ? 今、名指しで呼んだ? 名簿帳を暗記してるのか?

 もしかして、意外と面倒見がいいのか?

 そのままバル先生は、相手の目を見て名前を呼んでいった。


「今期の1組上級には、平民は二人だけだ。互いに支え合うように。貴族連中はこのクラスに入れるだけの頭脳を持つ平民だということを忘れずに、彼らが困っていたら貴族らしくなるべく助けてやってやれ」


「……」


 落ち着いてダンテール先生を見ると、さっきとは印象がまったく違う。バル先生と比べると、貴族至上派閥に見えてくる。

 貴族こそが人であり、平民は奴隷である。極端ではあるが、そのように考えるのが貴族至上派閥だ。


 主義主張は人それぞれでもいいけど、他人に迷惑をかけるのだけはやめてほしい。考えていることがわからなくてもいいから、人の本質がわかればいいんだけどな。

 そんなことを考えながら右手に意識を向けていると、聖印のお知らせが頭に響く。


【技能:心眼を習得しました】


 お? スキルの名前と先ほどの考え事からして、相手のことが分かるのかな?

 バル先生を見ると、綺麗な色をした光の玉が胸のあたりに見える。でも、なんだか光り方がやや弱々しいのが気になる。

 ダンテール先生は汚れているように見えるな。やはり貴族至上派閥なんだと思う。


 すごいな【心眼】。その人物の善悪がわかるみたいだ。出来るなら、人物だけじゃなく、物体にも使えるといいな。それもプロフィールを表示する感じで。


【更新:心眼に機能を追加しました】


 ん? 今まで聞いたことがないお知らせが来たな。もしかして……?

 名簿帳に視線を向けると、中身の詳細が見える。


≪名簿帳:材質は魔法紙。白紙に戻すために利用される。以下に中身を記す≫


【フェイ:平民】

【ステラ:平民】

【イザーク・テンパール:男爵】

【カール・レイシャード:子爵】

【ポリム・アレイスター:子爵】

【マロッティ・グレンジャー:伯爵】

【シャルロッテ・エーブル:伯爵】

【ロイ・コルディヤ:辺境伯】


 へえ、物体の材質に中身も見ることも出来るのか。

 名簿帳だけでこれだけの機能が得られたんだ、これは便利だな。

 更新って言ってたから、聖印が俺の考えを読み取ってアップグレードしたのかな?


 心眼について考えていると、自己紹介の順番が回ってきた。


「それじゃあ、最後だ。ロイ、バシッと貴族らしく決めてくれよー」


 なんて無茶ぶりしやがる。また緊張がぶり返してきた。大丈夫だ、ここで失敗するわけにはいかない。婚約者のシャルロッテも見ている。宣伝を主体に自分を紹介するだけだ。大丈夫、出来る。


 軽く深呼吸して、余裕を見せるようにゆっくりとしゃべる。


「辺境伯の三男、ロイ・コルディヤです。ロイヤル商会のオーナーをしており、今日は展示品として商品を持ち込んでいます、ぜひ遊んでみてください。許可が下りれば教室に常時置いておくつもりです。みなさん、よろしくお願いします」


 ロイヤル商会のオーナーという点で周囲がざわっとした気がする。

 やはり王妃様の宣伝効果が強いな。マッサージ店の二号店も早く動かしたい。

 そうだ、人材を集めていることも周知させておこう。


「現在、マッサージ店の二号店のための人材を募集中です。研修はコルディヤ領にて行います。興味があれば、知人や先輩を誘って参加してください。簡易の面接は俺が行いますが、最終的には祖母や王妃様の調査で決まります」


 またざわつかせてしまった。やはり王妃様というワードが驚きなんだろう。まあ、よっぽどひどい人じゃない限りは王妃様はスルーしそうだけどね。


「あー、自己紹介というより宣伝だったな。まあ、いい。このあとは講堂で先輩たちからのクラブの勧誘があるぞ。好きに入って、見分を広めてみろ。ああ、ロイみたいのだと自分でクラブを作る方が向いてるか? そちらも申請が通れば可能だぞ」


 へえ、クラブ勧誘ね。前世でいう大学のサークル勧誘みたいなものか?

 自分で作ることも出来るみたいだし、入りたいと思うのがなかったら自分で作ってみるのも面白いかもしれないな。


「これで夢の美食クラブに入れる!」

「私は裁縫かなー?」

「うーん、入りたいと思うのがあるといいんだが……」


「ロイ様はどこかに入る予定はあるんですか?」


「さっき、ちらっと聞こえた美食クラブには興味があるかなあ」


「ふふっ、ロイ様は美味しいものには目がないですもんね」


 シャルロッテやクラスメイトとのんびり話しながら、美食クラブに期待して講堂に向かって移動した。

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