後処理
「うまくいったようね」
開口一番、王妃様はそう切り出した。
一日に立て続けに予定をずらしてもらっての謁見だ。
無駄な世間話をする余裕はないのだろう。
なら、こちらもイリスを拘束したことを話す。
「そう。そちらもうまくいったのね」
「やはり知っていたのですね」
「やはり、とは?」
天井から現れたソルトから書類を渡され、それを王妃様に見せる。
周囲はざわついたが、王妃様は表情一つ動かさなかった。
「なるほど。スライムを使って調べたのね」
「今回は必要なことだと思ったので、スライムの好きにさせました」
「そう。じゃあ、今後は許可がない限りは好き勝手させないでちょうだい」
「承知しました」
王妃様が頷いて、満足したみたいだ。それから俺の隣にいるシャルロッテに視線を移したので、俺は背筋を伸ばす。
さて、ちゃんと婚約者を紹介しますか。
「こちらが私の婚約者、シャルロッテです」
「お初にお目にかかります、王妃様。エーブル伯爵の娘、シャルロッテと申します」
「貴女が……。話は聞いているわ。神狼の巫女だと」
「王妃様、それは内密の話では?」
「大丈夫よ、ここにいるのは私と魔法契約している者だけだから」
周囲の人間に機密情報が漏れないように徹底しているんだな。
さらに話を聞けば、この部屋は厳重な魔法処理をしており、声が外に漏れない仕様らしい。スライムが侵入できたことについては、今度対応すると決めたみたいだが。
王都に入ってから護衛をつけるつもりだったと謝罪されて、シャルロッテは慌てていた。慌てる彼女も可愛いなと呑気に構えていたら、王妃様から注意された。
あなたも守る気があるなら、もう少し力を周囲に見せつけなさいと。
これからの学園生活のことを言っているのだと思う。
たしかに誘拐されたという話で、シャルロッテが嫌な目にあうかもしれない。
シャルなら一人でもどうにかしそうだけど、俺の方でも彼女を守るために、攻めの姿勢を見せておこう。そのために、まずは周囲に俺の力を少しだけ見せつけよう。
俺がやる気を見せていると、シャルに小声でやり過ぎに注意ですよ? と言われたので、ほどほどにしようと思う。
ロイ様が目立ちすぎても困りますから、と言ったのは聞き逃さなかった。
シャル、可愛い。この子を守るためなら、どんなことでもしよう。
俺が更なるやる気を見せて、シャルロッテが慌ててしまい、それを微笑ましそうに見る王妃様。
「本当に大丈夫かしら? オネットから優秀とは聞いていたけど、今はただの子どもにしか見えないわ……」
不安そうにする王妃様に、念のために今後の店の展望を報告しておく。
王妃様にはケアリーがもういるから、そろそろほかの貴族にも公開していいだろうと思ったので、相談も含めて話をしておきたかった。
だが、時間切れのようだ。後ろに控えていた侍女が耳打ちをして、王妃様からその話はまた今度と言われ、謁見は終わった。
謁見が無事に終わり、エーブル伯爵の別邸にシャルロッテを馬車で送り届けた。
シャルともっと話したかったが、今日はリリィを休ませるためにここでお別れだ。
馬車の中でも目をつぶっていたくらいだ。リリィはまだ本調子ではない。
馬車の中で休ませるために、視線だけでシャルと会話を試みた時間は楽しかった。また今度と俺は手を振り、もっと話したかったと残念そうに微笑んだシャルロッテ。
リリィはぼんやりとしていたので、俺たちのやりとりには気づいていないだろう。
入学のための試験が終われば、お茶をする機会くらいはあるだろう。
そのときを楽しみにして、俺も帰路についた。
帰り着くと、兄たちや別邸の使用人たちが心配していた。
そういえば、救出から謁見に直接行ったため、報告を後回しにしていたな。
俺は謝りながら報告をする。
「まったく。マルスから報告を受けていたからいいが、今後はちゃんと連絡しろ」
「ごめん、クレス兄さん」
「そうだぞ? 使用人たちだってハラハラしていたんだ。あとで労ってやれ」
「ありがとう、ジェロ兄さん。じゃあ、今夜はセラピーにもうひと働きしてもらおうかな? 使用人のみんなにマッサージのフルコースを味わってもらおう」
「おお!」
「やったわ!」
「ここの使用人でよかった……」
俺の言葉に使用人たちが喜ぶ。これで労えるなら安いもんだ。セラピーには申し訳ないけどね。
セラピーからは、ピッカピカに仕上げる! と元気な意思が伝わってきた。やる気に満ちてて助かるよ。
スライムボディにだらんと乗っているピュムの紹介もしないとなんだけど、今日は色々あって疲れたので先に休ませてもらおう。
明日からは試験の最終確認とロイヤル商会の店舗の見学。ピュムのためのおもちゃのことも伝えなきゃな。
やることは多いけど、なんとかなるさ。それじゃあ、みんなおやすみ。
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