制圧完了

 ピュムが無事なことが分かり、俺はようやく周囲を見る余裕が出てきた。

 男たちはギリギリ生きていた。今は先ほどまでの憎さはない。

 だから、あとは法の裁きに任せることにした。


 牢の鍵を開けてシャルロッテを助けたのは、リリィだ。俺がピュムの死を悲しんでいるときに、男たちの懐から鍵を探し出して牢の扉を開けたらしい。

 そのときに男たちの生死も確認したようだ。


 俺はピュムをなでて生きていることに感謝しつつ、シャルロッテを見る。

 成長してすごく美人になった。以前は肩までだった水色の髪もだいぶ伸びている。幼女から少女へと成長したシャルロッテが、とても眩しい存在に思えた。

 理知的な瞳、慈愛の微笑み。そして、妖精に守られる存在。

 こんな高根の花のような彼女が俺の婚約者なんだよなと改めて自覚したら、自身の成長のしてなさに恥ずかしくなってきた。


 シャルロッテに見惚れていると、彼女がピュムの変化に気がつく。妖精たちもその変化を喜んでいる。

 ピュムの身体が光り輝き、スライムの核が蕾のようになって表面に浮き上がる。


「ピュムちゃん、よかった……」


「融合が終わったようですね」

「おっ、元気になったか!」

「これでひと安心ね」


 光が蕾に集まり、蕾が大きく成長していく。一瞬強い光を放ち、蕾が消えるとそこにいたのは――


 全裸の妖精だった。


「マスター、もう大丈夫だよ! 泣かないでー!!」


「ちょ、ちょっと待って!? 服を着てくれー!」


「ロイ様、見てはダメです。リリィ?」


「はい、お嬢様」


 素早く俺の視界を塞ぐシャルロッテ。彼女はリリィに指示を出して、ピュムに服を着てもらうようだ。

 ピュムはよくわかっていないみたいだが、服は大事だ。裸で居られると困る。


「服?」


「はい、私たちのように衣服をまとってください。そのままでは表に出ることは許可出来ません」


「じゃあ、リリィさんの服を真似ればいいよね!」


 俺は視界を塞がれていたが、スライムらしく身体を変化させて服を着たらしい。

 リリィと同じ、メイド服だ。背中からはちゃんと羽が出ている。

 シャルロッテが小声で、専用の服を用意しないといけませんわねと呟いていた。

 ピュムが服を着たことで、ようやく感動の再会となる。そんな空気は、すでに霧散しているけれど……


 そんなことはお構いなしと、ピュムがお願いをする。


「マスター、もう一度私に名づけをお願い!」


「どういうこと? ああ、そういうことか」


 ピュムと繋がっていた魔力的な繋がりが切れかかっている。一度死にかけたことで、契約が切れたのだろう。

 俺は以前と同じ名前にしようとしたが、少しだけ変化を与えることにした。

 手をかざして、魔力を込めながら名づけをする。


「お前の名前はピュム・パアル。パアルには友人や友達、相棒といった意味がある。生まれ変わったんだから、これくらいはいいだろ?」


「ワタシの名前はピュム・パアル! マスターの友であり、相棒です!」


「ああ、これからもよろしくな。ピュム?」


「はい、マスター!」


 嬉しそうに笑顔を俺に向けるピュム。可愛かったのでなでてあげたよ。

 これで魔力が繋がった。王城にいるケアリーやほかのスライムたちが少しだけ心配だったんだ。

 元がピュムであるために魔力の繋がりが切れかかっていて、実は焦っていた。

 エスティが大人しくしているから問題はないだろうとは思ったけどね。


 さて、ここにもう用はない。商業ギルドへ向かったマルスたちが気になる。

 セラピーに意識を向けると、すべて捕縛して制圧済みだと意思が伝わってくる。

 俺は状況を確認して、こちらも終わったと伝える。




 ピュムはスライムボディとは分離しており、妖精の身体を持つようだ。

 妖精の羽もあり、飛ぶことも出来るのだが、移動はスライムボディに乗ってぽよんぽよんと飛び跳ねた方が楽しいらしい。


 そんなピュムを連れて、シャルロッテとリリィと共に商業ギルドに来た。

 フロアの一か所に不正を行っていたと思われる人たちが捕縛されている。

 その中にはイリスもいた。


 マルスとセラピーがそんな彼らを見張っている。


「マルス、怪我はないか?」


「大丈夫ですよ。イリス殿もセラピーが抑えてくれましたし、彼女は説得済みです」


「それでも縛られてるのは?」


「……私は罪を犯した。これは私自身への罰なのだ」


 イリスは商業ギルドに借金をしていたようだ。そして、ギルドの幹部たちを逃がすことで、借金をなかったことにしようとしたらしい。

 まあ、セラピーに抑えられて逃げられなかったみたいだけど。


 とりあえず、捕縛した人たちがうるさいから、まともな人と会話したいな。

 そんなことを考えていると、若いお姉さんが出てきた。話を聞くと、どうやら彼女がギルドの運営を、実質一人でしていたらしい。


「この度はギルドの浄化をおこなってくださり、誠にありがとうございます。これでようやくまともなギルドの運営が出来ます」


「そちらのことは任せるよ。ただ、今回の一件は国に報告させてもらうけどね」


「承知しました。彼らが出ていけば、私も仕事が出来ます。立て直しは簡単です」


「そっか。今後は仕事で関わると思う。ロイヤル商会のオーナーのロイだ。よろしく頼む」


「ロイヤル商会の方でしたか。こちらこそ、この縁を大事にしたいと思います」


 今回のことで彼女がギルド長となるという。挨拶はしておいて損はないだろう。

 ピュムのおもちゃの件やマッサージ店や飲食店のことで、これから先お世話になるだろうからね。


 さて、日が暮れる前に王城に行き、イリスのことも含めて後片付けをしないとな。

 今度はシャルロッテを一緒に連れて行かないと、王妃様がうるさそうだ。

 俺の大切な婚約者だってことをちゃんと紹介しないとね。

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