【１話から見直し中】スライムテイマーの異世界改革 ～スライムは意外となんでもできますよ？ ご存じでない！？～

兄たちとの鍛錬

　昨夜は眠れるか不安だったけど、そこはやはり四歳児。

　あっという間に眠れたよ。寝起きもバッチリで気分も体調もいい。

　父上（お父様呼びはやめた）が今、鍛錬担当の冒険者と話し合っている。

　この世界での冒険者とは何でも屋さんらしい。

　危険な仕事もあるが、大抵の冒険者は安全な仕事を選ぶ傾向にあるようだ。

　その冒険者たちが父上の注文の多さにウンザリした顔をしている。

「要はあれだろ、旦那？　体力がないから注意しておけってことだろ？」

「……うむ。端的に言えばそうなる」

「任せなって。アタシだって、寝込んでた子供に無理させるつもりはないよ」

「それに魔法の担当は私ですから、安心してください」

「そうか、そうだな。では、報酬は上乗せするので、あとは頼んだ」

　父上の交渉が長くなりそうだったので、自主的に準備運動をしていた。

　兄たちはこれから疲れるんだから無駄に動くなと言っているのだが、運動するならやはり準備運動は大事だろう。

　話もまとまって冒険者たちがこちらに来た。いよいよ鍛錬開始のようだ。

　交渉の間もチラチラとこちらを見ていたが、とてもいい笑顔をしている。

　軽く自己紹介をして、先ほどの準備運動について兄たちに説明してくれる。

「やる気がありそうで助かるね。お前たち、この子がさっきまでしてた動きは決して無駄じゃないよ」

「どういうことですか、アビー師匠？」

「クレス、あれは身体を動かすことで筋肉を慣らしているんだ。急な実戦以外では、ああやって筋肉をほぐしておいた方が怪我をしにくいんだよ」

「そうなのか、アビー師匠？　俺には無駄に疲れるだけにしか思えないんだが……」

「次回に試して比べてみるといいよ、ジェロ。今回はロイの限界を確認したいから、とりあえず屋敷の周りを走るぞ。ロイは無理だと思ったら、休むんだ。いいね？」

「はい、アビーさん！」

「師匠と呼べ、ロイ。では、いくぞ！」

　アビー師匠が先導して、屋敷の外周を走り始める。

　俺は自分の体力を見極めるためなので、かなりゆっくりと走っている。

　アビー師匠と兄たちはすぐに見えなくなってしまったが、俺の後ろを走ってくれる冒険者がもうひとりいるので寂しくない。

　俺の走り方、呼吸法を見てその冒険者は感心しているようだ。

「ちゃんと自分の限界を調べるという目的をしっかりと理解してるいい走り方です。それに、呼吸の仕方も工夫していますね」

「はっはっ、ふっふっ。ありがとうございます」

「その調子で走ってくださいね。あなたには私がついてますので安心してください」

「わかりました、ニーナ師匠」

「ふふっ、可愛い弟子ができました」

　その後もゆっくりとしたペースで走り続けた。

　だが、やはり四歳児。寝込んでいたのも加わって、体力の限界がかなり早い。

　限界だと判断して走るのをやめようとしたとき、聖印からお知らせが来た。

【技能：体力上昇を習得しました】

【技能：回復力上昇を習得しました】

　お？　さっきまでの疲れが引いていく。

　体力が上昇したのに合わせて、体力も回復しているのかな？

　俺の荒かった呼吸が落ち着いたのを見て、ニーナ師匠が声をかけてくれる。

「大丈夫ですか、ロイ君？　もう限界なんじゃないですか？」

「大丈夫です、まだ走れそうです。ふっふっ、はっはっ」

「無理はしないでくださいね？　場合によっては、私の判断で止めますよ？」

「はい、ニーナ師匠」

　俺が走っているところに、アビー師匠と兄たちが追いついた。

　兄たちはすでにフラフラで、呼吸も足取りも不安定だ。

　そんな兄たちと比べてまだ平気そうな俺を見て、アビー師匠が驚いていた。

「ゆっくり走ってたみたいだけど、まだ元気なのかい？」

「はい、アビー師匠。でも、ここまでにします」

「ん？　まだ余裕そうに見えるけど、どうしたんだい？」

「このまま走ると、際限なく走らされそうなんで……」

「よくわかってますね、ロイ君。その調子だと、アビーがずっと走ってしまいます。賢い判断です」

「……ニーナ。アタシもそこまで鬼じゃないよ、まったく」

　冗談のつもりで言ったんだけど、マジで走り続けそうだよこの人。

　返事に変な間があったし、視線も逸らしてるし……。

　ここで兄たちは一旦、休憩時間のようだ。

　兄たちが休憩している間に、俺はニーナ師匠とマンツーマンで魔法の鍛錬だ。

「魔法を使うためには、まず身体の中にある魔力を見つけなければなりません」

「魔力、ですか？　どのようにして探せばいいですか？」

「そうですねえ……。今回は一番早くわかりやすい方法をとりましょうか。ロイ君、手を出してください」

「ん？　はい、こうですか？」

「えいっ」

　可愛いかけ声とともに、手を握られる。

　ニーナ師匠の手の柔らかさにちょっとドキッとした。

　手を繋いでいると、温かい何かが手のひらから腕を伝って全身を巡る。

　すると、聖印が反応を示す。

【技能：魔力感知を習得しました】

【技能：魔力探知を習得しました】

【技能：魔力操作を習得しました】

　一度に三つも技能を手に入れてしまった。

　聖印のおかげで感覚的にだが、身体の中にある魔力を感じられる。

　これが魔力なのかと思いながら、ニーナ師匠に魔力を送り返してみる。

　俺が魔力を送り返したことにニーナ師匠は驚いてくれた。

「すごいです！　飲み込みが早いです。もう魔力操作も身につけましたか」

「はい。まだ手探りですが、なんとか自分の意思で魔力を動かせそうです」

「魔力が動かせるのであれば、次の段階に進みましょう」

「次の段階ですか？」

「魔力循環と魔力放出です。魔力放出はそのままの意味ですが、魔力循環はとっても大切なことですから、ちゃーんと聞いてくださいね？」

「わかりました」

　ニーナ師匠の説明を要約すると、魔力を体内で循環させることでスムーズに魔法が使えるようになるらしい。

　魔力循環に慣れることで魔法の発動が早くなり、咄嗟の対応力が上がるみたいだ。

　そして、魔法はイメージも大切で想像力を磨くことも大事だと教わる。

　水であれば手触りや味、火であれば熱量や明るさ、土なら強度や形など、風は目に見えないために難しい部類になるようだ。

　さっそく教わった魔力循環を試してみる。

　循環だから、とにかく魔力を全身に巡らせればいいのかな？

　目を閉じて集中する。

　魔力が心臓を通して全身の血管を流れるイメージで魔力を動かす。

　心臓から腕、手のひらに。また心臓に戻って、次は足に運ぶ。

　つま先まで魔力を運んで、心臓に戻す。これを全身に巡るように何度も繰り返す。

　繰り返してはいるが、なかなか魔力の循環速度が速くならない。

【技能：魔力循環を習得しました】

　速度が出ないことに苛立ちを感じていたら、聖印が反応してくれた。

　これで速度が出せるかもしれない。

　聖印のおかげで、魔力循環がスムーズになった。

　だけど、このまま聖印に頼りっぱなしもよくないと思うので工夫してみる。

　流す魔力を少し多くして、魔力を運ぶ管の内部が広げる。

　魔力を強く流すのに力が入り、額に汗が浮かぶ。

　体感五分も経っていないだろうけど、自分の世界に入りこんでいたようだ。

　目を開くと、ニーナ師匠がニッコリと笑ってはしゃいでいた。

「すごいすごい！　君は逸材ですね！」

「え？」

「初めての魔力操作、魔力循環でそこまで魔力を動かせる人はいないのです！」

「そうなんですか？」

「どんな想像をして魔力を動かしたのですか？　私にも教えてください？」

「ええっと……」

　俺は慌てて思考を整理して、人体を巡る血管の説明をする。

　その流れる管の内部を広げるように魔力を多めに流してみたと説明する。

　ふむふむと頷きながら、ニーナ師匠が俺の説明をしっかりと聞いてくれる。

　説明し終わってから気づいたが、一般的な四歳児が持つ知識ではないだろう。

　話を聞き終わったニーナ師匠は黙り込み、実際に試しているようだ。

　少し待っていると、息を長く吐いたニーナ師匠がこちらを見る。

「ロイ君って、もしかして天才？　私の魔力循環が早くなったよ」

「そんなことはないと思います。気づきさえすれば、誰でも思いつきますよ」

「この分なら魔力放出は簡単な説明だけで大丈夫そうだね」

「え？　そうなんですか？」

「うん。じゃあ、君のお兄さんたちの休憩が終わったから、残りは自分でね！」

「はい。すみっこで兄たちの様子を見ています」

「魔力放出は身体の一部に魔力を集めて放出！　たったそれだけ！　頑張ってね！」

「わかりました」

　ニーナ師匠はそれだけ伝えると、休憩が終わった兄たちのもとに移動した。

　魔力放出は簡単みたいだけど、危ないことはしたくないから今はやめておくか。

　兄たちの魔法の鍛錬を見ながら、魔力循環を行う。

　クレスは空中に氷のつぶてを作って、それを的に向かってぶつけている。

　ニーナ師匠の指導に従って、教わっては調整しながら実践しているようだ。

　ジェロはアビー師匠と木剣で実戦的な稽古をしながら魔法を使っている。

　地面を隆起や陥没させたりと地味に見える魔法を扱うジェロに驚く。

　派手な魔法を好みそうな性格の割に、とても芸が細かい魔法を使うな……。

　二人の魔法を見ながら、どんな魔法を使ってみたいかを考える。

　日本だと妄想で終わるけど、この想像が鍛錬になるのだ。

　これがものすごく楽しい。あー、早く魔法使ってみたいなー。

　それから昼食の時間となり、鍛錬は終わりの時間となった。

　姿勢を正して師匠たちに礼をして、鍛錬中の反省点を話しながら庭で昼食だ。

　師匠たちは俺のいい点を簡潔にまとめて、兄たちにも活かせる部分を説明する。

　兄たちは感心したように俺を見る目が変わる。

　あっ、これは勉強にもなにかコツがあると気づいたな。

　あとで質問攻めにされるかもしれない……。

　それから、ニーナ師匠は「魔力放出が危ないものとちゃんと理解して、我慢したのは偉い！」と褒めてくれたのは嬉しかった。

　我慢したおかげもあって、アビーとニーナ、二人の師匠に認めてもらえたようだ。

　兄たちが自分たちの時はこうだったと教えてくれ、昼食中の話は弾んだ。

　次回までに俺の鍛錬方針も師匠たちが考えておくと話していた。

　すでに案はある程度決まっているみたいだが、二人は教えてくれない。

　楽しみにしていろとアビー師匠が笑っているのが不安だ。

　賑やかな昼食を終え、俺たちは湯あみをして、兄たちは勉強をするという。

　どうやら俺にドヤ顔を向けられて負けたのが余程悔しかったらしい。

　俺？　俺は四歳児なので少しお昼寝です。

　湯あみでポカポカした身体で、運動したあとのこの眠気には抗えないよ。

　勉強の質問？　眠いから後回しにしてよ……。