第15話

『美少女だらけの学園なんて最高じゃないですか!!今すぐ転校の手続きをしましょう!!』

「誰がするか。居心地が悪いったらありゃしないだろ」


 何故男の俺が女子高のような場所に通わないといけないのか。


 それにあそこは妙に人の視線が突き刺さってどうも変な感じがする。


 あり得ない話だが、魔法少女イヒトの正体がこうして休日にゲームをしてる男子高校生だとバレてしまえばそれこそ一貫の終わりなのだ。


「だから二度と行くか」

『ですがあの先生を名乗る美女から逃げられるとはとても思えませんが。それこそ本格的に【停止】の魔法を使わないと』

「クッ!!つくづく英雄とやらは厄介だ」


 現在俺は魔王となり、討伐しに来た勇者を返り討ちにするゲームをプレイしていた。


 もういっそこのゲームのような魔王ならぬ魔王少女にでもなってしまおうか。


 そんなバカなことを考えていると、ふとあの日の言葉を俺は思い出す。


「月……円……」


 そう、魔法少女の給料についてだ。


「……別に贅沢は言わないが、俺って結構社会貢献してるよな?」

『勿論です。魔物を倒せば倒すほど世界は平和になるんですから』

「そうか、だよな」

『そんなあなたにお勧めのものがありますよ』


 そう言ってステッキは俺のスマホを差し出す。


 何故パスワードが開いているのか、どうやって操作したのか。


 それらを一度無視し、中身を確認する。


「これは、魔法少女か?」

『はい、ただし世間的な呼び名は変わっています。彼女らを人々は野良の魔法少女、通称魔女と呼んでいます』


 魔女、流石に俺も聞いたことのある言葉だった。


「確か魔法で犯罪を起こす奴らのことだろ?」

『よくご存知でしたね』

「まぁな。それよりコイツらがどうかしたのか?」

『ここまで来て分からないとは鈍感ですね』


 そう言ってステッキは一人の魔女に体を近付ける。


『この子です』

「こいつは……」

『気付きましたか、その通りです』


 魔女『レティシア』、その賞金額は他の魔女に比べ頭1つ抜けて高い。


 それを指しながらステッキは真剣な声のトーンで語り出す。


『僕のドストライクなんですよ』

「そうか、来世に期待してな」

『というわけで魔女狩りといきましょう!!世に蔓延る悪い美少女を矯正し、魔女ハーレムを作るのです!!』


 相変わらずの変態具合に嫌気がさすが、発想自体は悪くはなかった。


 魔女、あれらを捕まえればあれだけの金額が手に入るのか。


「まぁそう簡単に見つかるなら協会も苦労してないだろ。それにわざわざ探すのも面倒だ」


 結局楽な稼ぎ方などこの世に存在しないのだ。


 そんなことを考えていると、突然携帯がなり始める。


『イヒト当ての電話ですね』

「結局俺じゃないか」


 そう言って俺は携帯を取る。


「誰だ」

「?電話番号間違えたのかな」

「あ」


 やらかしてと気付いた。


 そういえば今の俺は魔法少女ではなくカレンだ。


 クソステッキはちゃんとイヒトあてと言っていたのにミスったな。


「あーそのなんだ。えっと、俺はイヒトの兄だ」


 咄嗟に嘘をつく。


 他にももっといい言い訳があっただろうに。


 そう後悔しつつも電話越しの相手は納得したような様子を見せる。


「なるほど、では彼女に伝言でも頼もうかな」

「待て、その前にお前は誰だ」

「あぁ、そういえば自己紹介がまだだったね」


 電話越しに不敵な微笑みが聞こえる。


「初めまして、僕は魔女の一人レティシアだ」


 大きく心臓が跳ね上がる。


 魔女、今魔女と言ったのか?


「驚くのも無理はないよ。僕がどういう存在が知っているのだろう?」

「ああ」

「そう、僕はとても美少女なんだ」

「突然知らない話を持ち出すのはやめろ」

「おや」


 そう言って魔女は愉快そうに笑う。


「で、指名手配犯が何のようだ」

「用事があるのはイヒトになのだが、まぁいいか。彼女には是非魔女会に参加して欲しいと思っていてね」

「魔女会?」

『所謂魔女同士の会合のようなものでしょう』

「そんなものに何故イヒトを呼び出す」

「何故って、彼女は野良をやってるのだろう?なら仲間みたいなものじゃないか」


 お前ら犯罪集団と一緒にするな。


 そう言ってやりたいが、むしろ俺は考える。


 これはチャンスなのではないかと。


「お前らの考えていることなどよく分からんが、伝言くらいはしてやる。その魔女会とやらはいつどこでするんだ」

「いつって、今だけど?」


 次の瞬間、視界が歪む。


「せっかくなので、お兄様に参加してもらうことにする。歓迎するよ」


 薄暗い部屋、存在するのは一つのテーブルと五つの席のみ。


 ドアも窓も何一つない、明かりさえ存在しない部屋に俺はいた。


「……」

「やぁ初めましてお兄様。改めまして、魔女レティシアだ」


 そう言って恭しく挨拶する魔女、それは先程見た手配書と全くの一緒だった。


「どういう……つもりだ……」


 変身するか?


 いや無理だ、変身したとて勝てない。


 そう断言できる程の圧迫感に襲われる。


「なに、どうやら彼女はあまり自分のことを話さないと聞く。ならばお兄様の方に話を聞いてみようかとね」


 レティシアは席の一つに座る。


 残りの席には二人の少女、おそらく同じく魔女。


 残りの二席は空白となっていた。


「座って?」

「……」

「座れ」


 少しばかり震える身体で席に着く。


 魔法少女となり様々な敵と戦った。


 人間なんて簡単に捻りつぶるような化け物を何度も倒した。


 それでも、初めて命を握られる感覚はこれが初めてだった。


「まず聞きたい、何故彼女は協会に所属しないのか」

「イヒトは……人助けをするなんてガラじゃないからだ」

「そうかい?僕にはむしろ嬉々として動いているように見えたが」

「は、はぁ?何を言って」

「しー」


 レティシアは氷よりも冷たい笑みを浮かべる。


「質問は後からだ」

「……」

「その言葉を飲み込むとして、何故彼女らと共闘をしてる?」

「……アイツらには命を助けられたようなものだ。恩返しではないが、義理を返さなきゃ今後喉に魚の骨を抱えたまま生きて行かなきゃいけなくなる」


 他にも契約の内容があるのだが、そこはわざと言葉にはしなかった。


「命を助けられたか。彼女達にイヒトを助ける力があるように見えないが、お兄様が言うのならそうなのだろう」

「結局、何がしたいんだ」

「何って、言っただろただのお茶会さ」


 レティシアはいつの間にかテーブルに置かれていたコップを手に取る。


「協会の連中は私達に会ったら話し合おうともしない。悪・即・斬って感じかな?だから協会に属していないイヒトとは楽しく話せると思ったんだ」


 レティシアは嬉しそうにそう語る。


 一見すれば本当にお喋りが好きなだけの少女に見えてくる。


「まぁさすがに魔法少女を殺し過ぎた私と話そうとは思わないか」


 そう、見えるだけだ。


「俺は殺されるのか」

「何故?お茶会で殺傷なんて風勢がないだろう?」

「そう……か……」


 そう願うことしか出来なかった。


「さて、二人はお兄様に何か聞きたいことはあるかい?」


 レティシアが隣の二人に声をかける。


 だが返事はない、まるでその姿は人形のようだ。


「そうか。ならお兄様は何か聞きたいことでも?」


 そんなものはない、さっさと帰せ。


 そう言おうとしたが、俺の口から出た言葉は意外なものだった。


「10年前のあの事件を、知っているか」


 レティシアは首を傾げた。


 だが反応を示したのは隣の魔女だった。


「貴様、何故それを」


 被っていたフードが剥がれる。


 そこには白髪で、片目を閉じた少女がいた。


「まさか、生き残りか」

「何の話だい?」

「レティシア少し黙れ。今は極めて重要な話題だ」

「な!!魔女同士で仲間割れかい!?」


 ギャースカ騒ぐレティシアを尻目に、白髪の魔女は俺の前へとやって来る。


「どこまで覚えている、何を知っている。全て話せ」


 その鬼気迫る姿に驚くも、俺は口を開く。


「覚えていることはあまりない。あの日突然闇がやってきたこと。俺は何かに助けられたこと。そして、一瞬で全ての人間が消えたことだけだ」


 今でも鮮明に思い出す。


 あの悲劇を。


 確かに存在したはずの俺の思い出を。


 だが今はそれを誰も知らない。


 まるでなかったかのように、そんな事実など幻だったかのように。


「……ありがとう、辛いことを思い出させてしまって」


 そう言って白髪の魔女は俺の頭を撫でる。


「な、何するんだ」

「すまない、私には君が小さな幼子に見えてね」

「ところであんたはどこまで、何故それを知ってる」


 白髪の魔女は冷静さを取り戻した様子で俺の隣へ座る。


「私がそれを覚えているのは魔法によるものとしか。そして知っていることはすまない、私は君以上のものを持ち合わせていない」

「そう……か……」


 落胆したわけじゃない。


 変に期待しただけの話だ。


「ただこれだけは伝えておく」


 白髪の魔女の表情が変わる。


「あの闇はまだ生きていること。そして私が必ずあれを抹消させる」


 その目には強い決意が漲っていた。


「見たかい、シルヴィアがあんなに感情を剥き出しに喋ってるところを初めて見た」

「……」

「いつも寡黙だけど、今日は一段とだね。もしかして人見知り?」

「……」

「まぁいいや。どうやらお兄様のお陰で今日のお茶会はいつもより賑やかになった」


 レティシアは楽しそうに手を叩く。


「このことは協会にいくらでも話していい。ただ出来ることなら、また参加してくれると僕は嬉しくなる」

「今度はイヒトを連れて来いと?」

「いや、別にお兄様でも構わないよ。シルヴィアが楽しそうに話してくれるし、この子の人見知り克服の為にもなる」


 するとまたしても視界が歪んだ。


「また会おう、お兄様」


 そうして俺は自室に戻ったのだった。

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朝起きたら魔法少女になってた俺 @NEET0Tk

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