第14話
「行くよ、アオイ」
「オッケー」
レナの言葉と共にアオイは走り出す。
レナのサポートもあり、その速度は凄まじいものとなっていた。
「確かに早い……けど」
「反応された!!」
アオイの渾身の一撃をガードするルナ。
すかさずカウンターの炎が燃え上がるも、
「やっぱり強いわね」
「ねぇー。もう直ぐランカー入りってのも多分間違いないでしょあれは」
現在3人は訓練所にて模擬戦を行っていた。
いつもなら他の魔法少女と手合わせすることが多いが、今日はルナの提案もあり身内での戦闘となったのだ。
「うん、大体分かってきた」
ルナは何かを確かめるように頷きを入れ、変身を解いた。
「分かったって何が?」
「どうせ瑠奈のことだから戦いのことでしょ」
同じく変身を解く二人が早元の元へと駆け寄る。
「まず二人問題点、速さに頼り過ぎて動きが一直線過ぎる」
「確かにそうだけど、葵のスピードに魔法を合わせるのって大変なんだよ」
「知ってる、玲奈がそんな器用なこと出来ないって」
「酷い!!」
「だから合わせるべきは葵の方」
「そういう意味ね」
葵は納得した様子を見せる。
「玲奈が私に合わせるんじゃなく、私が玲奈に合わせると」
「高速で動きながら魔法の動きを追う。普通じゃ出来ないけど」
葵になら出来る。
そう断言する瑠奈の言葉には確かな信頼があった。
「やってみましょう、玲奈」
「瑠奈はいつも無茶ばっかり。はぁ〜、でも仕方ないか」
二人は早速とばかりに特訓に入る。
対して瑠奈はその場に止まる。
(葵は間違いなく才能の塊だ。あと一年もすればランカーにも余裕で手が届く。玲奈も戦闘能力自体はまぁまぁだけど、あの魔法は間違いなく有用過ぎる)
対して自分はどうだ。
改めて自身の魔法を思い出す。
その魔法は火種。
本来ならば小さな炎を起こすだけの魔法だが、その本質は燃料によって大きく異なる。
闘争心という燃え上がる情熱に魔法をかければ凄まじい熱量が手に入る。
最初のこれはそれは大変だった。
魔物と戦おうという意思に振り回され多くの人に迷惑をかけた。
だが今となればその力にも慣れ、ランカーに最も近い魔法少女の一人となった。
だが不思議と強くなればなるほどに魔法の力は弱まっていった。
このままではむしろ自分が足手まといとなる。
そんな不安が瑠奈の中で渦巻いていた。
「はぁ、疲れました」
そんな瑠奈の前に疲労困憊のような様子で歩いてくる幼女が一人。
「イヒト、お疲れ。校長の授業はどうだった?」
「イカれてるとしか言いようがありません。あれは体罰です、訴えてやります」
「あれも校長なりの愛の鞭。実際、体が驚くだけで痛み自体はさほど感じて
ないはず」
「いわれてみれば確かに」
イヒトは確かめるように体に触れる。
「まぁ今回は許してやりましょう。ところでここは一体?」
「ここは訓練所。シュミレーションは人気だから、使えない人はこうしてここで特訓してる」
「なるほど」
実際、ここでは様々な魔法少女が切磋琢磨している光景が目に浮かぶ。
だが今日はいつもと違いどこか皆集中できない様子だった。
その理由がなんなのかを瑠璃は直ぐに理解する。
「丁度いい、一度イヒトとは手合わせしたかった」
そう言ってルリは変身する。
「そういえば初めてでしたね。お前とのちゃんと力比べするのも、魔法少女でない姿を見るのも」
そうしてイヒトはどこからか木製のステッキを取り出す。
魔法少女は時折それぞれの魔法にあった何かしらを生み出すことがある。
アオイの持つ刀もまたその一つだ。
だからこそ、イヒトが毎度使うそれに対してそこまで注力することはなかった。
「いく」
「はい」
互いに淡白な返事と共に戦いの火蓋が上がる。
烈火の如く進むルナをイヒトは特段驚くことなく迎撃する。
「それ、めんどい」
下手な氷なら一瞬で溶かす熱量を身にまとっているにも関わらず、砕き弾くことしかできない。
それはひとえにイヒトの力によるものか、はたまた魔法の差か。
「負けない」
されどルナは鍛え抜かれた勘と技術でそれらを乗り越える。
「やはり、お前は強いですね」
その言葉と共にイヒトの魔力が高まる。
大技が来る。
そう確信したルナは一気に距離を詰める。
「油断したね。やっぱり対人戦は慣れてない」
「油断したのはお前の方では?」
何を言っているのだろうか。
ただでさえ遠距離で戦うことが得意なイヒトの懐に入った。
そのうえ、どうやらイヒトは例の動きを止める魔法を使う気がないように見える。
ならば私の勝ちだ。
それは油断ではなく合理的思考に基づく結果だった。
だがそれは所詮机上の空論でしかない。
「む」
「俺が接近戦はできないと思ってました?」
ただの木の棒により渾身の一撃を止められたルナは目を見開く。
「身体能力を上げた?でもイヒトは氷の魔法のはず」
「さぁ、どういう手品でしょう。どちらにせよこれで」
ルナの腹部に氷の感触が伝わる。
「俺の勝ちですね」
珍しく表情を崩し喜びを見せるイヒト。
「参った。確かに油断した」
そうしてルナは残念そうに、されどどこか清々しそうにそう呟く。
「また手合わせしたい。いい?」
「そこまで暇ではないですが、まぁ気が向いたらで。俺は今日はもう帰ります。ここへ来ることはもうないと思いますが、今後とも手助けはしますので」
そう言ってイヒトは空へと飛び立つ。
「えぇ〜凄かったね」
「ね!!あのイヒトちゃんとルナさんの戦いが間近で見れるなんて」
それと同時に周りは一斉に騒がしさを増す。
それもそのはずだ。
ランカーとは魔法少女にとっての一つのゴールの形と言っていいだろう。
それらに届きうる二人の戦いは分かりやすい指標となったのだ。
「……」
それらの目線を浴びたルナの心は少しだけ乱れる。
それがルナの心に大きく刺さり続けた。
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