第10話

「セリア様の魔法が何か二人は知ってる?」

「いつの間に!!」

「帰ってたんだ」

「そう、セリア様の能力は概念の一つ。その力は凄まじく、それでいてあまりにも強大過ぎるもの」


 アオイは二人の言葉を無視し、説明を続ける。


「概念系の能力は基本的に全て扱いが難しい中、セリア様は例外的に簡単に扱えるそう。正に天才ってやつね」

「さすが魔法少女バカ。詳しい」

「アオイと煙は高い場所が好きなんだっけ?」

「でもメリットには当然、デメリットがつく。それが魔法というものよ」


 キリッと二人へ目を向ける。


「いや……魔法少女の私達が身に染みて理解してるけど」

「何がしたいの?」


 そんなアオイに二人は酷く冷たい目線を送った。


 それを理解したアオイはキリリッと二人の戦う姿へ視線を移す。


「さて、この戦い。一体どうなるのかしらね」

「そろそろ本音で喋ったら〜」

「イヒトちゃんとセリア様の戦いとか有料級よ!!お金はどこに振り込めばいいのかしら!!」


 ◇◆◇◆


 何やら外野が騒がしいな。


 こちらを見学している魔法少女達が謎に盛り上がっている。


 どうせ大した内容じゃないだろうし(正解)、特段気にすることではないだろう。


 それに、向こうを気にする余裕は今の俺には無かった。


「さっきから動きませんね、あの人」

『魔力を温存しているんでしょう。そうやって空を自由に飛び続けると魔力切れを起こすので』

「なるほどです。では俺も止まった方が」


 一瞬速度を緩めた瞬間だった。


「……」

『危なかったですねー』


 先程止まろうとしていた地点の地面が抉れた。


 それはまるで透明な怪物に捕食されかけたようであった。


「触れずに遠く離れた位置へ攻撃する。サイコキネシス?もしくは見えない何かでもいるんでしょうか」

『念動力ですと!!す、素晴らしい!!つまり伝説のスカート捲りを故意的に起こせると!?是非その力を僕に!!』

「キモ過ぎます」

『全く、ロマンがありませんね。だからあなたもスカートを捲られるんですよ』

「!?」


 ステッキの言葉に合わせ、身を捩る。


 トラックに撥ねられたかのような感覚に襲われるも、直ぐに体勢を取り戻す。


「おっと、今ので決まったと思ったが」

「俺もそう思ってました」


 初めてクソステッキに助けられたな。


『これがデレ……ですか』

「死ねです」


 それにしても、かなり不味くなってきた。


 魔法少女の体と言っても疲労は感じる。


 飛びながら魔法を行使するには頭も体力も魔力も消費する。


 対して向こうは余裕そうな顔を保ち続けている。


「恐ろしい能力です……が」


 これだけやり合えば弱点も見えてくる。


 正直、驕っているわけではないが


「その鼻っ柱の一つ、折らせてもらいます」


 ◇◆◇◆


 決着が付く。


 その場にいる……いや、それを見ている全ての人間が確信した。


銀世界ホワイトアウト


 それは今までのような派手なものではなかった。


 イヒトの周りから発生した白い物体、その正体を皆は感覚で理解する。


「雪?」


 周囲に吹く銀白色は、世界を一つへと染め上げる。


「もしかして、また視界を奪う作戦かい?だとしたら愚策としか言えないな」


 セリアの考えは正しいものであった。


 魔法を使うには、魔力と呼ばれるものを使う必要がある。


 それは個人差はあれど、大きな差が生まれるものではない。


 ごく一部とは言え、周囲の景色すら変える魔法を使えば直ぐに魔力は空っぽになるだろう。


 一般的に考えるなら、イヒトの取った行動は愚策であった。


 だが


「ちょっと……長いね」


 セリアが異変に気付くまでにそう時間は掛からなかった。


 長い。


 あまりに雪が降る時間も、量も多すぎるのだ。


「僕だってこれだけの魔法を行使すれば魔力切れするというのに」

「お褒めに預かり光栄です」

「ッと」


 その上、しっかりと攻撃も重ねてくる。


 そんな行動にセリアは疑問を抱く。


 視界を奪ったところで無駄であることは最初のやり取りで理解しているはず。


 それが考えられない程馬鹿ではないことを既にセリアは知っていた。


 この行動の意味は、視界を奪う為のものではない。


 奪っているのは別の……


「おいおいイヒト君!!それは魔法少女としてどうかと思うよ!!」

「やっと重い腰を上げましたか」


 初めてセリアが動き出す。


 魔力に色があるとするのなら、イヒトの魔力は白く希薄であろう。


 対して、セリアの放つ魔力は赤く烈火のように激しいものだった。


 凄まじい速度で空を舞い、周囲を破壊し尽くす暴風へと変貌した。


「やっと、メッキを剥がせました」


 イヒトはずっと考えていた。


 手札の消費を最小限に抑え、セリアの全力を引き出す方法を。


 その為には弱点を見破る必要があった。


 最初はセリアが動けないと想定した。


 魔法というものは想像よりも扱いが難しい。


 魔法少女をそれなりに知ったイヒトにとって、あれだけ正確に魔法を防ぐセリアの行動は不可解だった。


 だから動かないのではなく、動けないと踏んだ。


 だが


『自惚れてますねー』


 ステッキからの言葉に、一度思考をリセットする。


 そして思い出したのは、例の第6位の動画。


 自分より明確に強いと感じた相手の、更にその上に位置する順位の相手がそんな分かりやすい弱点を持っているものだろうか。


 そして、イヒトは答えへと辿り着いた。


「あなたの魔法を最初は念動力の類と考えていました」

「ん?もしかして知らない感じかい?一応僕の魔法は有名だし、むしろ知られていなかったことがショックまであるよ」

「……あなたの能力はそこまで器用じゃない。物を操るのではなく、破壊することしか出来ない。違いますか?」


 イヒトの言葉に、セリアは苦笑という形で答えた。


「その通り。僕の能力は、壊すことに特化した力なんだ」


 それは挨拶とした放った氷の棘。


 念動力ならば、攻撃をそのまま返したり、もしくは方向を曲げるだけでよかったはず。


 わざわざ破壊するなんてコスパが悪い。


 そう予測を立ててからは早かった。


「雪による体温の低下。周囲の雪を吹き飛ばせば簡単に防げるものを、あなたは行わなかった」

「その通り。僕は寒いのが苦手なんだ」

「縛りプレイは終了です。本気を出してもらいますよ」


 そう言って、イヒトは魔法を構える。


 対してセリアは大きくため息を吐いた。


「本気を出してない君がそれを言うのか。ハァ……ごめんねみんな。どうやら僕の負けのようだ」


 その瞬間、背筋に冷や汗が流れる。


「アイス」


 瞬時に魔法を唱えようとするも、それはあまりにも遅い一手であった。


「ク……ソ……」


 イヒトが最後に見た光景は、悔しそうにこちらを見ているセリアの姿だった。








「お疲れ様」

「全くだ」


 部屋へと入った芹沢紀伊は疲れた様子で椅子へと座る。


「見てた。紀伊が魔力切れなんて珍しい」

「一応ランカーの中ではトップクラスの自信があったが、あれは桁違いだ。はは」

「最初から本気、出してら余裕だったでしょう?」

「まぁ……これでも3位だからね」


 だけど


「君なら分かるだろう?イヒト君は本気を出してなかった。というより」

「属性魔法じゃない」

「そう。明らかに魔法のが遅すぎる」

「無駄な工程を一つ挟まないと魔法が制御出来ない」

「まるで昔の君ソックリだね」

「……今は出来る」

「違いない」


 紀伊が持っていたペットボトルを傾けるも、水は出ない。


「もう空っぽか」


 そう思ったのも束の間、口の中へと潤いが注ぐ。


「助かるよ」


 紀伊は満杯になったボトルを置き、もう一度椅子へともたれ掛かる。


「それで?テストの結果は?」

「学力の面では文句なし。どころか完璧過ぎる」

「と、言うと?」

「これ」


 画面を確認した紀伊は、なるほどと納得する。


「満点か」

「傑物と考えることも出来るけど」

「見た目以上の歳なのかな?うーんでも、基本魔法少女は変身しても年齢は近いはずなんだけど」

「勘違いの可能性もある。もしくは、魔法によるものか」

「若返る魔法かい?本当に存在するならビックニュースだろうが、さすがにそれは不可能だよ」


 誰よりも魔法の不便性を知る紀伊だからこそ、魔法が万能でないことを知っている。


「……これは」


 そして、それを証明するような結果を目にすることとなる。


「飛鳥。これは」

「彼女を、このまま野良にしておくのは危険かも」


(仮称イヒト)


 診断結果


 極度の人間不信


 魔力の乱れ多大


 危険度クラスA


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