第3話 魔王と勇者

創世暦350年8月3の火の日、真なる魔王と勇者が同時に誕生した。

2人の関係は光と影のようなもの、必ず同時に誕生し成長すると雌雄を決するのである。


しかし魔王の配下である魔人は、強大な力と狡猾さで戦況はかなり魔王軍の勝利に天秤が傾きつつある。

魔人とは魔王が生まれる際に7人の魔人が生まれて従うのだ、その寿命は1000年とも言われる。


今代の真なる魔王は魔法を十全に使いこなすという。


勇者はというと神の神託によりその存在が分かる、その後は教会が勇者を保護して教育と訓練を施し対魔王に特化した戦士とするのである。

今代の勇者は、剣術の使い手で魔法も使える魔法剣士である。

勇者に従う仲間は勇者パーティーと呼ばれる戦士やシスターで、5人組である。


15歳になった両雄は、人族に対して宣戦を布告し片や魔王討伐を片や人族宣戦を宣言したのであった。




ーー 7年後  創世記372年6月 (セブン7歳)



各地で激しい戦いが20年以上繰り広げられ、魔族と人族の戦いは最終決戦へと向かって行った。

今までの戦績は、魔族がやや優勢であるが数の力を使い人族が盛り返しを図る。

ここで魔人の暗躍がその勝敗を大きく魔族側に傾ける事になる。



ー 重力を操る魔人と音の速度で移動する魔人



2人の魔人が街に向けて歩いている、1人は魔人カールもう1人は魔人ゼブラだ。

カールは痩せ型で男のようだがその服装はピエロのような派手なものだ、ゼブラは男か女かわからない中性的な顔立ちと体つきをしている服装も中性的な服だ。


「おい、ゼブラ辛気臭い顔をするなよ。魔王様は慎重に事を進めたいのさ。」

「分かっている。分かっているが、しかし・・・納得がいかない。」

2人の魔人は何か命を受けて人の住む街に向かっているようだが、どうもその命令に納得がいかない魔人もいるようだ。

魔人は魔王が産まれるとその側に湧く様に7人の魔人が生まれる。

しかし魔王に対して恭順な魔人も魔人同士で仲が良いわけではなかった。

特に3人の魔人は実力が突出していたがそれ以上に個であり協調性が無かった。


しかしその実力は高く残りの魔人4人がかりでも勝てそうもないほどだ、その為雑用と言える事から何故我らが!という思いまでしばしば覚えるようなことが回ってくるため、ゼブラは今回の命令も今ひとつ納得がいかないのだ。


今回は目の前に見える人族の街において疫病を流行らせその影響をこの国の王都まで広げることなのだ。

そのような目的であればブラックという魔人が適任なのだが、其奴は2番目に強い魔人で全く動こうとしないのだ。


「まあブラックが病原菌の種をくれたのだ、それを井戸などに投げ込むだけのやさしい仕事さ。ついでに森の魔物を強化して街に向けようや。」

つまらない仕事をしたついでに悪戯でもしようという感じで魔人カールが言うと、魔人ゼブラが街中に入り込み病原菌の種を蒔いて森に戻る。

森ではカールがいく体かの魔物を進化させて群れで街を襲えと指示していた。

仕事を終えた2人の魔人は魔王の元の帰っるために森を南に横切りそのまま海に続く山脈を回り込み進んでいた。




ーー 創世記372年6月4の月の日 セブン魔人と出会う



7歳になったセブンは、かなりの成長を見せていた。

「ステータスが4倍になった、この数字問題じゃないのかな?まるで僕が魔王か災悪みたいな存在になりつつある気がするんだけど・・・魔王はいるし災悪を僕が倒せば良いだけだから問題ないのかな?」

既に付近の森にはセブンに立ち向かう魔物すらいないので「転移魔法」で魔の森と呼ばれる大森林に修行に行くのが最近の日課になっていた。


「!!、強い魔力を持つ何かがこちらに近づいている・・・二つだ。魔力が黒く敵対色だ!多分魔王の眷属の魔人というやつかもしれない。」

セブンは気を引き締めてから「魔力隠蔽」「気配隠匿」を発動し二つの魔人と思われる魔力の進行方向に先回りした。


「ゼブラ、少し休憩するぜ。お前に付いて移動するのはしんどいぜ。」

というとカールはゼブラの答えも聞かずに近くの大木の下に腰を下ろして休憩し始めた。

「チィ!」

ゼブラは舌打ちしながらも付近の魔力を探った後にカールの横に腰を下ろした。


「お前が少し遠回りしたいと言うからこちら側に来たのに、休憩ばかりで魔王様の元に帰るのが遅れるばかりじゃないか。」

ゼブラは不満をカールにぶつけ出したがカールは気にしていないようだった。

まあこの辺りなら問題ないかな、と言いながらカールは話し始めた。


「ゼブラがどう感じているか知らないが俺は、第一、第二、第三の魔人達を信用していない。特に第二の魔神は怪しい。アイツらの行動は怪しすぎる、俺らはアイツらと距離を置くべきだと思っている。その話をしたくて遠回りしたんだ。」

その話を聞いたゼブラは

「お前もそう感じていたのか、実は既に監視用の使い魔をそれぞれに付けて監視している。しかし未だ尻尾を出していない。」

と答えたゼブラを驚きの目で見るカール、

「そうかよ、分かった何か手伝えることがあれば言ってくれ。」

と答えると大きく息を吐いて緊張を解くカール。


その時カールの身体が真っ二つに切り裂かれた!

存在が消え始めるカールがゼブラに何かを言い掛けて目を見開いた。

ゼブラの後ろに人族の少年が立っていたのが目に入ったからだ。

その瞳の映像を読み取ったゼブラが音の速度でその場を離れる。


「何者だ?人族の子供に見えたが全く気配がしない。」

ゼブラは脅威と感じて魔王の元に情報を届けるべく全速力で逃げたのだ。

速度では一番との自信を持っていたゼブラは、敵が自分ではなくカールを最初に襲ったことに

「攻撃相手を間違ったな、アイツの情報を早く魔王様に!」

目の前にあの少年が立っていた。

「信じられん!・・どうやって私の前に・・。」

素早く進路を変えてさらに速度を上げる、しかしその先にもあの少年が居たのだ。


「クッ!逃げるのはやめだ!!」

ゼブラはそう言うと闇の剣を抜きながら少年を睨んだ。

少年は緊張も何もない感じでニコニコしながら近づいてきた、危険を察知したゼブラは剣を叩きつけるように斬りかかった。


空を切る闇の剣、自慢の速度を遥かに上回る速度で回避されたのだ。

「なんと言う速度、しかし範囲攻撃では逃げられまい。」

と言うとゼブラは闇魔法で周囲半径1kmを囲んでいたのだ。

「死ね、名も知らぬ勇者よ。」

と言いながら魔法を発動する。

周囲が一瞬で闇に囚われてその中の生きとし生けるものたちが命を奪われる。


「恐ろしい相手であった。」

ほとんどの魔力を使い切ったゼブラは、肩で息をしながら歩き出そうとして異変に気付いた。

「身体が動かない」

何かを感じて後ろを振り向くがその視界は不自然に回転しながら地面に落ちていく、その時ゼブラは笑うあの少年が剣を振り抜いたのに気づいた・・そして今度はゼブラが闇に呑まれた。

「まあまあの強さだね、でも少し遅いかな」

と言いながら少年は、家の方に駆け出した。



ー 魔王城



「カールとゼブラが死んだ。」

真なる魔王がそう呟いた半身を引きちぎられる感覚が襲ってきたのだ。同時に生命を受けた魔王と魔人は不思議な感覚で繋がっているようだ、しかしその声を聞いているものはその場には居なかった。



ーー 創世記372年7月1の火の日深夜    聖王国辺境の街ゴムラ



ドンドンドン。

激しく扉を叩く音が暗く静まった街中に響く、その後から少女の声が

「先生、起きてください。お父さんを・・助けて!」

少女の悲痛な声がことの重大さを物語るがそんな事はこの街では珍しくもないことになっていた。

流行病が蔓延して街の人の半分は動けないのだ、あの魔人の蒔いた病原菌の種が発芽したのだ。

疲れ切った男がドアを開けると

「ああマリーか、家に向かいながら話を聞こうか」

と言いながら少女の後に付いて真っ暗な道を進む。


家に着いた少女と医者は少女の父親の様子を確認する。

間違いない今流行りの病気だ、生き残るも死ぬも半々、運だけしか助かる道のない病気だ。


必要なものを病人の側に置くと家族を含めて外に出る、感染を恐れての対応だ。

発病して直ぐには感染しないのが救いの病気だが特効薬はない。

少女は母親と祈りを捧げるために教会へ向かう。


教会が見えてきたところで教会の中心から眩しい光が立ち上がるとそれが空を覆い、その後街中に広がりながら降り注ぎ始めた。

「キレイ」

思わず空を見上げるマリーが呟く、そして

「!あの子も家族の誰かが・・・。」

教会から出てきた少年を見ながら呟いた。


朝日が街を照らし始めた時にその奇跡は人の目に見え始めた。


特効薬もなく運任せの病気が消えていたのだ、始まった時と同じように突然に終わった。

違うのはあの日の空を覆う聖なる光くらいだろう。

その夜の奇跡を見た街の人たちが

「女神様が助けてくだされた。」

と言いながら教会に多くの寄進をしていった、その行列は夜まで続いたという。




ーー 創世記372年9月3の水の日  聖王国の王城の会議室



魔族の攻勢が激しくなり人族は幾つかの小国と一つの大国を失おうとしていた。

魔王軍にその存在を脅かされていた各国の首脳や国王が集まり今後の対応の話し合いという名の会議をしていたが、芳しい打開策は無かった。

「勇者はどうしたのだ!我が国からあれだけの支援を受けながら未だ魔王軍を打ち滅ぼせないではないか!」

小国の国王が苛立たそうに発言する、

「そうだ我が王国も魔物のスタンピードのおり勇者に助けを求めたが、「それは勇者の勤めではない」と断られた。どういう事だ!」

別の王国の首脳が糾弾するように教会の司教に詰め寄る。


教会の司教は落ち着いた態度で

「皆さん落ち着いてください。魔物や魔族軍から国や民を護るのはそれぞれの王国の務めでしょう。勇者は魔王を倒すための存在、その為にはより魔族国の奥へと向かわなければなりません。唯一勇者だけが魔王を倒せるのですから。」

と語った。


今代の勇者の名はシオン=グランデ 22歳、もう7年も魔族との戦いに明け暮れている。


勇者は戦うごとに強くなっているが所詮は1人、魔王に直接戦いを挑めなければ勇者が魔王に挑む前に人は魔王軍に滅ぼされる。

そんな状況なのにここに集まった多くの王族や首脳は勇者頼りに自分達の地位と富を守ることしか考えていない。

だからこそこれだけ時間がかかっているのではなかろうか、それが創造神アテネ様の御心では。

司祭はそんなことを思いながら

「2ヶ月ほど前に女神様のお力と思われることが立て続けに起こりました、疫病の根絶とスタンピードの殲滅です。いずれも人の力ではどうすることもできないようなお力が振るわれたようです。いまだ神は我々を見捨ててはいません、今こそ力を合わせて魔族を叩くのです。」

と力強く口にしたがそれに応じる者はいなかった。


いつものように話し合いは形だけで終わり、それぞれが安全な場所へと移動していった。

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