第30話 渚の料理がうますぎる
学校の授業が終わり、いつものように梓は俺の家に訪れた。
そして少し時間が経つと、ピンポーンとインターホンが鳴り、モニターを見ると渚が立っていた。
そう今日は水曜日、渚が家に来る日、俺はすぐに渚を家に上げた。
すると、梓が一直線に渚のほうへと飛びつき。
「渚ちゃん、ゲームしよ」
「いいけど、ちょっだけね」
渚はニコニコしながら頷いた。
すぐに渚と梓はリビングに行き、コントローラーを手に持つ。
「このゲームって」
「”タケノコレース”、超神ゲーだから」
「へぇ…………」
物珍しいそうに見つめながら早速、ゲームを始めた。
ゲーム慣れしていない渚と超絶ゲームがうまい梓。実力は見るまでもなく、むしろ渚がゲームを嫌いにならないか心配になった。
(さすがに手加減ぐらいするよな)
そんな二人をお茶を飲みながらソファーの上で眺めている俺は、実質、空気だ。
そして、対戦の結果。
「私の勝ち」
「負けちゃった」
当然ながら、梓の圧勝で、渚は最下位という結果になった。
「まあ、初心者だからしょうがないな。てか、少しは手加減してやれよ」
「手加減はプレイヤーに対する冒涜だよ」
「それはガチ対戦の時だろ」
「そうなの?」
頭をかしげる梓を見て、苦笑いがこぼれた。
梓は全てにおいて全力だから、友達とかそういうのは関係ないようだった。
(それはそれで強みかもしれないけど、相手によっては…………まあ、大丈夫か)
「渚ちゃん、私のことを嫌いになった?」
「え…………全然、嫌いじゃないよ。むしろ、いつも全力の梓ちゃんを見てすごいなって思ってたところ…………私は、結構、臆病で何もないから」
少し暗い表情を浮かべる渚を見て、梓はガシッ!と渚の手を両手で握る。
「そんなことないよ。渚ちゃんのおかげで、友達増えたし、相談にも乗ってくれたし、学校でも話しかけてくれるし、だからそんなこと言わないで」
「梓ちゃん…………」
「渚ちゃん…………」
お互いに見つめ合う中、横目でそれを見ている千斗はソファーから立ち上がり、お茶を注ぎに向かった。
(一体、俺は何を見させられているのか)
俺はこっそりとキッチンに訪れ、お茶を汲んでいると。
「千斗くん」
気づけば、渚が隣に立っていた。
「渚…………梓は?」
「ゲームしてるよ。私もそろそろ作らないと帰りが遅くなるから」
「梓のわがままに突き合わせて悪いな」
「全然、むしろすごく楽しかった…………なんか、昔、千斗くんとゲームしてた頃を思い出したよ」
渚と昔からの付き合いで、世間でいうところの幼馴染だ。
そんな渚を昔はよく連れまわしていた時期があった。
今にして思えば、せっかくの時間を俺なんかのわがままに突き合わせてしまったことに申し訳なさを覚える。
「よく覚えてるな」
「だって、楽しかったから。ゲーセン行ったり、家でゲームしたり、本当に私にとって大切な思い出」
「そう思ってくれるなら、ありがたいよ」
「千斗~~早く来てよ!ゲーム!!」
ソファーの上で千斗を呼ぶ声が聞こえてくる。
「梓のやつ、声が大きいんだよ」
「元気でいいことだよ…………本当に元気になってよかった」
「渚、相談に乗ってくれてありがとな」
「え?」
千斗はそのままソファーのほうへと向かっていく背中をキョトンとした顔で見つめる渚なのであった。
「そんなに多き声出すなよ、近所迷惑だ」
「ご、ごめん」
「それでそのままタケノコレースをやるのか?」
「うんうん、これをやる!」
梓が取り出したのは”全力大全”といういろんなゲームができるゲームソフトだった。
「今日は頭を使うゲームがしたくて」
「なるほどな、いいぜ、やろう」
こうして全力大全をやることになった俺たちは、オセロや将棋、五目並べ、スピードなど、いろんなゲームをプレイした。
「全然、勝てない」
「これが俺の実力だ」
結果だけを見れば、スピード以外、全部勝った。
だが、半分くらいは運で勝ったと言っていいだろう。
(懐かしいゲームとかあって結構楽しい)
完全に実力だけじゃ勝てないゲームもあって、笑みがこぼれるほど楽しいと感じた千斗。
その横で悔しそうに頬を膨らませる梓は、人差し指を伸ばす。
「もう一回やろう」
「別にいいけど」
こうしてやることになったが、結果はほとんど変わらなかった。
「千斗…………強い」
「そこまで悔しがらなくてもいいだろ」
「千斗に負けることが屈辱」
「おい」
「みんな、ご飯食べる?」
どうやら、渚がご飯を作り終えたようだった。
「渚ちゃんのご飯…………食べる」
「家に連絡したのか?」
「大丈夫…………私、夕ご飯はたくさん食べるタイプだから」
「そういえば、そんなこと言ってたな」
渚がわざわざ用意してくれたご飯が机に並んだ。
(今更ながら、渚の家事力には驚かされるな)
家事もできて、勉強もできて、それでいて容姿端麗。何の欠点もないまるで物語に出てきそうな美少女だ。
「千斗!この肉じゃが、うまい」
「ああ、ダシが効いてて、おいしいな」
「よかった」
本当に渚のご飯がおいしすぎて普通に完食してしまった俺と梓は、少し苦しそうだった。
「た、食べ過ぎた」
「わ、私も」
「そんな無理して食べなくてもよかったのに」
「無理はしてない。ていうか、毎日、千斗がこんなおいしい料理を食べていると思うと、少し嫉妬する」
「ふふ、これぞ幼馴染の特権だ」
「あはははは…………あ、そろそろ時間だし、帰ろうかな」
気づけば、夜7時半だった。
「私もそろそろ帰ろうかな、千斗。私のバックの回収を頼む」
「それぐらい、自分でやれよ」
「千斗…………お願い♪」
「こいつ、わかったよ」
もうすっかり渚の前で緊張しなくなった梓は、二人でいるときと同じような態度をとる。
(どうして、俺がこんなことを…………いや、俺が甘いのか?)
別に梓が嫌というわけではないが、なぜか梓の言うことを素直に聞いてしまう。まるで、飼い主とペットだ。
「送りはいらない?」
「千斗くんは過保護すぎるんだよ」
「まあ、いらないならそれはそれでありがたいんだが、梓もいいのか?」
「大丈夫」
「ならいいか」
ちょっぴりさみしいような気もするが、たしかに毎日送っていくのは過保護すぎるのかもしれない、と思った。
「夜道には気をつけろよ」
「うん、バイバイ、千斗くん」
「千斗、また明日」
二人が帰る背中を見守る千斗なのであった。
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