第29話 学校の日常

 一足先に学校に着いた千斗は誰よりも早く教室に向かい、教室の扉を開ける。



「ちょっと疲れた」



 汗をぬぐいながら自分の席に座った。


(全然、運動しないから。息が…………)



「はぁ…………ふぅ、キツイ」



 深呼吸をしながら乱れた呼吸を整えている中、ガラガラっと教室に扉が開き、渚と秋藤さんが教室に入ってきた。


 ちらっと見ると渚と目が合ったが、すぐにそらされた。


(俺、何かしたか…………いや、まさか、俺が目立ちたくないから、配慮して…………ありがとう)


 心の中で両手を重ねながら、頭を下げた。


すると、ガラッと扉が開く。



「みんな~~~おっはよう!元気かな?」



 キラッとしながらウィンクする美咲先生に生徒のみんなは、歳を考えろと言わんばかりの表情で美咲先生に見つめる。



「もしかして、私が可愛すぎるせいで、言葉が出ないの?」



 うるうると憐れむように見つめてくる美咲先生。


 女子生徒はとにかく男子生徒は”はぁ…………ねぇな”とため息をついた。



「もうみんな、年頃なんだから♪」



 もはやついていけないと、男子生徒は苦笑いしながらうつむいた。



「さてと、それじゃあ、みんなホームルームを始めます♪」



 なぜか、テンションの高い美咲先生なのであった。



□■□



 授業は淡々と進んでいき、気づけばお昼時間を迎えていた。



「今日も早いな」



 お昼時間になれば、すぐにでも弁当箱を持って教室を出るのだが、千斗は窓の外を眺めていた。


 何か考えているのかと言われれば別にそうでもなく、ただボケーっと何も考えていない。



「千斗…………千斗…………千斗!」


「うわぁ!?って梓か」


「梓かじゃないよ、早く準備して」



 周りの目線が気になるのか、ツンツンモードになっている梓。


(ほんと、どうして俺みたいなやつが梓と関われているのか不思議だ)



「はいはい…………」



 席を立ちあがり、弁当箱を持って教室を出る最中で、声がボソッと聞こえてくる。



「いつも思うんだが、どうしてあんな奴が春野さんと」

「だよな…………」

「でも、もう見慣れたよな」

「逆に私はありかな。合わなさそうで実は…………的な奴」

「たしかに、でもどうやって知り合ったんだろうな。少し気になる――――」



 そのあともなんか言っていたような気がしたが、よく聞こえなかった。

 でも、これで分かったことは、俺と梓というセットに生徒たちが慣れつつあるということ。


 これはいい傾向だ。なぜなら、このままいけば、それが当たり前になり、変な噂も立たなくなるからだ。


 こうして、俺と梓は屋上に向かった。



「渚たちと食べなくてよかったのか?」


「千斗とご飯食べたいから」


「そ、そっか」



 勘違いされそうなことを平然と言う梓と一緒にいると心が持たないような気がした。


 そんな千斗は梓のお昼ご飯に視線を移す。


 今日はメロンパン一つだ。



「いつも思うんだが、それで足りるのかよ」


「足りるよ」


「どんな胃袋してんだよ」


「大丈夫、私、夕ご飯をたくさん食べる派だから」


「そういう問題なのか?」



 梓の食生活が心配になる千斗だが、自分も言うて夜ご飯は渚が作ってくれているため、人のことは言えない。


 それにお昼ご飯の弁当だって、基本、冷凍食品の盛り合わせで、栄養バランスが取れているわけでもない。


(俺が言えた義理じゃないな)


 人よりもまず自分を心配しろってよく言うし、もう少し食生活を見直そうと思った。



「ごちそうさまでした」


「ごちそうさま」



 ご飯を食べ終えてもまだ12時50分、まだ少しだけ時間がある。


(今日は水曜日、つまりあと2日…………)


 隣で見ている限り、元気そうで普通だが、梓が緊張しないはずがない。



「ふぅ…………なんか、最近、楽しいことばっかり」


「そうか?どちらかと言うと、大変だったような気がするけど」


「それも含めて」


「そうですか」



 屋上でだらしなく両手両足を広げながら、仰向けになる梓は気持ちよさそうな表情を浮かべていた。


(俺の考えすぎか)



「だらしないぞ」


「これがいいんだよ、これが…………わからないかな?」


「わからんって」


「なら、私がわからせてあげよう」



 そう言って千斗の手を引っ張った。



「ちょっ、おい」



 無理やり梓の横で仰向けにされる千斗。



「空、きれいだよね」


「ま、まあ、きれいだよ」



 視界に広がったのは晴天に広がる青い空だった。優しくなでるような風が吹き抜け、心地よさすら感じられる。


仰向あおむけになるのもたまにはいいな)



「…………って、このままじゃ寝るだろ!」



 俺は梓のほうへと振り向くと、こっちをずっと見つめていた。



「な、なんでこっち向いてるんだ?」



 振り向けば、こっちをずっと見つめる梓。いくら俺でも少しびっくりしたけど、なんとか表情を出さずに抑え込んだ。



「あ、いや…………気持ちよさそうな表情してるなぁ~~っと思って見てただけ。べ、別に…………なんでもない」



 視線を逸らす梓だが耳が真っ赤だったことに気づく。


(最近、気温が高くなっているし、暑いのか?って!?)


 ふとスマホの時間を確認した。


(もう12時5分じゃん。そろそろ戻らないと)


 俺はすぐに立ち上がり、梓に手を伸ばした。



「そろそろ戻らないと次の授業に間に合わないぞ」


「あ、うん」



 梓は千斗の手を借りながら立ち上がり、教室に戻るのであった。


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