第28話 篠崎三大美少女に囲まれて

 次の日、マンションの階段を降りると、扉の前で梓が待っていた。


 相変わらず、肩にヘッドホンをかけながら、スマホをいじっているその姿は篠崎三大美少女と言われるのもわかるほど美しく、綺麗だった。


 そんな梓を見つめていると、ふとこちらに振り向き、小さく手を振った。


 俺も、もちろん、手を振り返した。



「おはよう、千斗」


「ああ、おはよう」



 軽くあいさつを交わした後、いつものように前を向いて学校に向かった。



「ふふ…………」



 隣でご機嫌そうに歩く梓を見て、つい微笑みがこぼれてしまった。

 すると、すぐに梓はこっちを向いて。



「ちょ、なに笑ってるの?」



 当然ながら、聞いてきた。



「いや、機嫌がいいなと思ってな」


「機嫌がいい?…………まあ、千斗と久しぶりの登校だからかな」



 久しぶりと言っても2日ぶりで、たかが2日だ。

 でも、その2日間が空いたあと、こうして一緒に登校して思ったことは梓と同じだ。


 俺も少し気分が舞い上がっている。



「千斗は私と一緒に登校して、嬉しくないの?」



 千斗より少し前を歩いた後、くるっとこっちを振り向き、上目遣いでそう言った。


 そんな彼女を見て、心臓がドキッと高鳴る。


(不意打ちのそれは効く)


 言っておくが梓は可愛い。


 普段、俺と一緒にいるから少しかすむが、梓は篠崎三大美少女と言われるほど、美人でモテモテで、すごくかわいくて、つきドキッとしてしまう仕草が女の子らしくて、それでいてたまに見せるツンツンとしてクールさ、そのギャップがより効く。


(学校ではクール系のツンツンモード梓、家では可愛い系のかわいいモード梓、俺はそう呼んでいる)



「くぅ…………梓、お前、俺をからかってるだろ」


「からかってないよ」



 梓は小悪魔っぽい表情を浮かべながら、楽しそうに笑った。


 そんなに俺をからかって楽しいのかとため息を漏らしながら、昨日の出来事を思い出す。


(梓に言うべきだろうか…………昨日のことを)


 千斗は昨日、偶然にも梓のお母さんと出くわしてしまった。

 しかも、最初の印象とは違い、優しい面があったからこそ、梓に言うべきか迷ってしまう。


 それにやっと梓が勇気を振り絞ってお母さんと話すことを決めたんだから、それに水を差すことだけはしたくない。


 言うべきか、言わないべきか、そんな葛藤かっとうが頭の中で起きているのだ。



「どうしたの?ぼーっとして…………」



 顔を覗き込んでくる梓。



「なんでもない」


「ほんと?怪しいな~~~」


「ほんとになんでもない」


「千斗が言うならそうなんだね」


「信じてないだろ」


「千斗のことは誰よりも信じてるよ」



 しれっとやばいことを言う梓に、今後が心配になった。



「そこまで信頼されても困るんだが、てか重い」


「なぁ!?それは、ひどくない?素直に私の気持ちを受け取ってよ」


「ムリムリ、普通にム~~~~リ」



 ちょっとおちゃらけた口調で言うと、梓がぷくっと頬をフグのように膨らませながら、軽く両手でポンポンっと叩かれた。



「痛いって」


「千斗のバカ…………」


「はいはい、俺はバカですよ」


「そういう意味じゃない」



 そんな会話をしていると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてくる。



「お~~い!梓ちゃんっ!!」


「あ、雫ちゃん!?それに渚ちゃんまで」



 梓に後ろから飛びついてくる秋藤さん。

 そして、その後ろに渚がいた。



「偶然だね、千斗くん、梓ちゃん」


「偶然ね…………たしか、渚の家って――――」



 千斗が何かを言うようとした時、秋藤さんが目線を合わせながら、声を上げた。

 


「はい!千斗は黙ろうね!!」


「あ、はい」

 


 秋藤さんの圧のある声に俺はうなずいたのであった。



 いつも、一緒に登校している渚と秋藤さん、この二人が一緒にいるのはおかしなことではない。


 だが俺の記憶が正しければ、渚の家は篠崎高等学校から近く、俺と梓の後ろから現れることはまずありえないことだ。


 つまり、わざわざ一度、遠回りしたことになる。


(これどう見ても、どう考えても、不自然だしおかしい)


 俺は隣にいる渚にしゃべりかけた。



「おい、渚…………」


「ごめんね、どうしても気になっちゃって」



 何の言い訳もすることなく、渚は浅く笑いながら両手を合わせた。



「まあ、別にいいけどさ」



 前を見ると楽しそうに梓と秋藤さんが喋っている。


(秋藤さんって意外といい人だよな)


 口調は悪いけど、梓のことを心配したり、こうして積極的に梓に話しかけたりと、周りを気遣っている。


 きっと今回も梓を心配してついてきたんだろうし、本当に友達思いなのだろう。


 そんな光景を見て、笑みがこぼれた。



「見すぎだよ、千斗くん」


「うん?」


「いい千斗くん、あまりじろじろ見ていると周りから変な人に見られるんだから」


「そんなにじろじろ見てたか?」


「無自覚が一番怖いんだよ」


「以後気を付けます」



 そんなにじろじろ見ていたつもりはないが、渚が言うのだからそうなのだろうと納得した。



「あ…………」



 ふと気づいた。



「それじゃあ、俺は先に行ってるから」


「え、千斗くん!?」



 俺はそのまま走って学校に向かった。


(”篠崎三大美少女”と言われてる3人に囲まれながら登校なんてしたら、男子生徒たちにどんな目で見られるか…………想像したくもない)


 最初のころみたいに変な噂を流されかねないし、何よりできれば、みんなに迷惑もかけたくない。


 そんな考えのもと、篠崎高校に着く前に飛び出した千斗なのであった。

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