第27話 たまたま偶然

 思わず、正座で座ってしまった千斗。


(大事な話ってなんだろう)



「今週の金曜日、お母さんが帰ってきます」


「そうか」


「そこで私はお母さんと話します」


「うん」


「そ、その…………ふぅ、一人じゃ心配だから、そばにいてほしい」



 視線をそらしながら耳が真っ赤で、そんな梓がかわいいと思った。



「なんだよ、そんなことかよ」



 気が抜けたため息を漏らしながら、正座を崩す。


(なるほど、今週の金曜日か)



「そんなことって、私にとってかなり重要なことだよ。それに昨日は結構流れというか雰囲気というか、もし千斗が言っていたことが私の妄想だったらって思うと、切り出しにくくて、それで…………渚ちゃんや雫ちゃんに相談したり」


「もしかして、今日よく一緒にいたのって」


「その…………相談を」



 なるほど、と千斗は納得した。


 そして、同時に内心感動もしていた。


 だって、あの梓が自分から相談しに行くなんて、すごいことだし、それぐらい、渚や秋藤さんを信頼していることになる。


(梓も少しずつ成長しているんだな)



「ほら、だってどうしても疑いたくなっちゃうし、不安になっちゃうし、でも千斗に相談するわけにもいかないし」


「そうか…………梓、俺はうれしいよ」


「なんで、泣いているの?」


「うれし涙だ。それで、今週の金曜日だっけ?その時についていけばいいのか?」


「う、うん」



 梓は少し申し訳なさそうな表情を浮かべていた。



「わかった」


「ごめんね、千斗。本当は私が一人で――――」


「いいって、俺たちは友達、困ったときは助け合うもんだろ?」


「千斗って本当にやさしい」


「ありがとうってそろそろ帰らないと本当にやばいぞ」



 話していればもう夜8時だった。



「そうだね。それじゃあ、そろそろ帰ろうかな」



 いつも通り、梓を家まで一緒に送り、その間にまたゲームの話で盛り上がった。


(やっぱり、梓とゲームしたり、話すのはすごく楽しいな) 


 そんなことを思っていると、気づけば、梓の家の前に到着。



「また明日ね、千斗」


「ああ、また明日」



 お互いに向かい合い手を振り、梓の背を見届けたのであった。




 梓を家まで送った後、頭を使いすぎたせいか、アイスが食べたい気分になった。


 おそらく、頭が糖分を欲しているのだろう。


 千斗は帰り道にコンビニに寄ることにした。


 コンビニに入るとアイスと適当にお菓子を取ってレジに運ぶ。



「780円になります」


「え~~と、はい」



 会計を済ませ、外に出ようとしたとき、後ろで。



「あっ!」



 女の人の声と小銭がジャラジャラと落ちる音が聞こえてきた。


 俺はすぐに後ろを振り向き、迷わず小銭を拾った。



「す、すいません、うっかり」


「いえ、全然大丈夫です…………よ」



 顔を上げると、見たことのある顔だった。



「あ、あなたはたしか梓の…………」



 思わず、目を疑ったが、間違いない。


(どうして、梓のお母さんがここに)



「あははは、俺はここで」


「ちょっと待ちなさい!」



 肩をガシっ!とつかまれた。



「学生がこんな時間に何をしているのかしら?」


「まだ夜の8時30分ぐらいですけど」


「まだ高校生よね?」


「あ、はい」



 梓のお母さんの頭上になぜか、角が2本見えた。


(梓のお母さん、すごく怖い。俺のお母さんより100倍怖いんだけど)


 思わず、顔を引きつってしまうほどの怖さでつい反射的に頷いてしまう。



「まあ、それはいいわ。それより、あなた…………え~~~と」


「柊千斗です」


「ああ、敦がそう言ってたわね。柊くん、あなたに実は一つ聞きたいことがあったのよ」


「聞きたいことですか?」



 真剣な表情でこっちを向く梓のお母さんからは全く怖さを感じなかった。


 それが不思議な感覚で、さっきまでの恐怖は何だったんだろうと思った千斗は真剣に聞くことにした。



「柊くんは梓とかなり仲がいいらしいわね。敦から聞いてるわ」


「まあ、それなりに仲良くさせてもらってますけど」


「梓のことをどこまで知ってるのか知らないけど、梓は学校でも元気にしているかしら?」


「え…………」



 想像の斜め上の質問に思わず、声が漏れた。

 俺が持つ梓のお母さんのイメージは怖くて、厳しい、いわゆるよくいる厳しいお母さんのイメージだった。


 でも、今の梓のお母さんの言葉からは優しさを感じた。



「どうなの?」


「あ、え、まあ、すごく元気ですよ」


「そう、ならいいわ。引き留めて悪かったわね」


「い、いえ…………」


「それじゃあ、これからも梓と仲良くしてあげてね」



 そう言って梓のお母さんは背を向けた。



「もしかして、意外と優しい?いや、でも梓から聞いた話だとな…………わからん」



 少しの会話だったけど、怖かったのは最初だけ、その後はただ我が子を心配する一人のお母さんのようだった。


 それに違和感を感じつつも、千斗は思った。


 血のつながった子供を心配しない母親はいない。


 そう意味でもやっぱり、梓と梓のお母さんにはすれ違いが起きているんじゃないかと千斗は考えた。



「考えてもしょうがないか、アイス食べて、寝よ」



 こうして、千斗は家に帰り、アイスを食べて、ぐっすり眠るのであった。




 



 


 


 

 


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