第25話 寂しいと感じた1日
次の日、梓は渚と秋藤さんと一緒に登校することになり、千斗は一人で登校した。
若干の寂しさはあったものの、梓が学校に来たことへの喜びのほうが大きかった。
そんな俺は今、教室の端で窓の外を眺めながら、頭の中を空っぽにしてボケーっと放課を過ごしている。
「はぁ…………いい天気」
「なにたそがれているのよ、気持ち悪い」
「秋藤さんか、何の用だよ」
「ようがないと話しかけちゃダメなの?」
「目立つだろ。さっさとご主人様である渚のところに戻れ」
「なぁ!?その言い方はひどくない?」
放課の時間、いつもなら渚としゃべっているか、ほかの友達と話している。それが秋藤さんだ。
なのに、今日に限ってわざわざ俺に話しかけてきた。
(これは絶対、何かあるな)
「まあ、私だってできることなら渚と一緒にいたいけど」
「そういえば、渚いないな」
振り返ると渚の姿がなかった。
「先生に呼ばれたのよ」
「あ、なるほどね。で、なんで話しかけてきた」
「暇だったから、あと千斗くんと話しているとこの人よりはマシって思えて気が楽になるのよ」
「最低な理由だな。ようがないなら席に戻れ」
「もう話に付き合ってくれない男はモテないよ?」
「人生一度もモテたいって思ったことはない」
そもそもモテたいと思う男子が気持ちが千斗には理解できない。
「あ!わかった。千斗くん、もしかして今日も梓ちゃんと一緒に登校できなくて拗ねてるんでしょ?」
「はぁ?そんなわけあるかよ、バカが」
「またまた、照れちゃって、でもしょうがないでしょ?だって梓ちゃんのほうから誘ってきたんだから」
そうどうして今回、梓と渚、そして秋藤さんが登校することになったのか、それは単純に、心配かけてしまったから、というところが大きい。
と思っている。
(別に拗ねていない。全然拗ねていない)
「千斗くんもかわいいところがあるんだね」
「どうして、こんな奴が”篠崎三大美少女”なんて呼ばれてるのか、皮をかぶるのがうまいことだな」
「皮をかぶってるつもりはないけど、でもかわいいのは事実だからしょうがない。まあ渚ちゃんほどじゃないけど」
「まったくもってその通りだ」
俺は深く頷いた。
「そういうところがあるからモテないよ」
「だから、モテたいと思ったことはない」
そんな会話をしているとチャイムが鳴る。
「いい暇つぶしにはなかった。ありがと」
「さっさと視界から消えろ」
「千斗くんって私にだけ言葉が強いよね」
「もう少し、秋藤さんがおしとやかだったら、優しくなれたかもな」
「そっか、それは無理だね、それじゃあ!」
秋藤さんは手を振って席に戻っていった。
□■□
午前の授業が終わり、お昼時間を迎えるとスマホの通知が鳴った。
確認してみると。
(梓)『今日は渚ちゃんと梓ちゃんと一緒に食べます』
梓からの初めてのメール。今日は梓と渚、そして秋藤さんの3人で食べることをメールで知らされた。
「文が固いな…………まあいいけど」
ちらっと渚と秋藤さんのほうを覗くと、秋藤さんの目が合い、ニヤリと笑った。
「あいつ、もしかして俺のこと嫌いなのか…………って」
視線が少し集まっているような気がした千斗はサッと教室を出た。
2日連続、一人飯、いつもの俺なら平気なのだろうけど、やっぱり少し寂しさを感じる。
「屋上で一人って久しぶりだな」
ご飯を食べながら晴天とした空を眺める千斗は昨日のことをよく思い出してみた。
すると、徐々に顔が熱くなっていき、途中で考えるのをやめた。
「は、恥ずかしい」
思い返せば思い返すほど、自分が梓に言った言葉がどれだけ恥ずかしいことか、黒歴史になるレベルだ。
(マジで、俺らしくなかった…………)
後悔は特にしていない。だって結果として梓は学校に来ていることだし、俺がやったことは無駄じゃなかった。
「友達っていないと寂しいもんなんだな」
初めてといっていいほど、千斗はすごく寂しいと感じている。何回でも言おう、千斗は寂しいと感じている。
「そろそろ教室に戻るかな」
スマホで時間を確認するとまだ12時40分で、千斗は思わず目を見開いた。
「まだこんな時間か、一人だとご飯を食べるのも早いな…………もう少しゆっくりするか、どうせ早く戻ったって、目立つだけだし」
最近、千斗はよく周りの生徒から注目を浴びている。
(ここずっと、特に気にせず渚や秋藤さんとしゃべってたからな…………自嘲しないと)
しばらく、ゆっくりした後、教室に戻ったの千斗なのであった。
授業が終わり、みんな下校時間になると、教室の扉の前で梓が待っていた。
「ふぅ…………千斗!帰ろ♪」
ツンツンモードじゃない梓が目の前にいる。少し無理をしていることは表情ですぐに分かったけど、それ以上に、ふわっと暖かい気持ちが込み上げてきた。
「無理するなよ」
「む、無理してないよ」
すぐにツンツンモードになり表情が険しくなる。
(いつもの梓だ)
「そうか、それじゃあ、帰るか」
「昨日は全然ゲームできなかったから、今日は死ぬまでやるよ」
「死ぬまでやるなよ」
こうして俺たちは一緒に帰るのであった。
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