第24話 不安だからこそ、友達がいる
「こんな感じ…………結構、波乱万丈な生活を送ってるでしょ?だから、今回、久しぶりにお母さんにあったんだ。それで、ちょっとね」
軽く話し終えた梓は視線を斜め下にそらしながら暗い表情を浮かべた。
そんな中、千斗は目を見開いていた。
いろいろとつらいことや悲しいこと、梓がここまで来るまでの道のりはとても険しくてそれを乗り越えてここにいる。
それがどれだけすごいことか、俺は心の底から”すごい”と思ってしまったのだ。
「それはケンカにもなるよ。でも、聞いた感じだと、梓のお母さんはちゃんと梓を心配していたんだなって思ったよ」
「え…………」
「だって梓のためにわざわざ家まで来てくれたんだろ?海外出張を放り出してまで来るなんて、愛されている証拠だろ?それに梓のお母さんのその厳しさもきっと優しの裏返しだ」
「優しさの裏返し…………」
「でも、それでも梓のお母さんがやってることは間違っている。誰だってひかれたレールを歩きたくない。だから、梓はお母さんに普通に”自分はもう大丈夫”って伝えればいいんじゃないか?お母さんを安心させてあげるっていう意味でも」
梓は変わった。それは変わりようのない事実だ。
たしかに小学3年生のトラウマはまだあるかもしれないけれど、それでも今は友達がいるわけで、クラスの人たちとも多少なりとも会話ができてる。
それは大きな一歩で、これから少しずつならしていけばいいだけだ。
多分、それがまだ梓のお母さんに伝わっていないだけなんだと思う。
それが伝わればきっと――――。
「でも、私、お母さんと話すのが」
「だったら、俺も付き添ってやるよ」
「え?」
「不安なんだろ?なら一緒にいてやる。ああ、もしかして俺が一緒にいても――――」
「うんうん!千斗と一緒ならいける気がする!」
元気よく俺の両手を握る梓は、吐息を感じられるほどに顔を近づける。
「お、おお」
「あ…………ご、ごめん」
すぐに距離を離す梓は顔を真っ赤にしながら、視線をそらした。
「いいって、むしろ男子高校生としてはご褒美に入る」
「そ、そうなの?」
「まあ、俺は例外だがな」
心臓がバクバクと脈打ち、少し熱く感じる千斗。少しかっこつけすぎたかなと恥ずかしくなった。
「しかし、今もそうだけど、ゲーセンの格闘ゲームって結構マイナーで、小学4年生のころにやってたのは驚きだったな」
「まあ、そうかもね。実際、小さい頃はお兄ちゃんとしか格闘ゲームやってなかったし、それ以外だと、中学2年生のころに一回と、千斗と出会った時の一回だけかな」
「中学2年生の頃…………ね」
「どうしたの?」
「いや、もしかしたら、俺が対戦した相手が梓だったかもなって思っただけ」
「それって中学2年生のころに負けたあの子のことだよね」
そう、俺も中学2年生のころに格闘ゲームで負けたことがある。
あの時の俺はとにかく強く調子に乗っていたこともあり、まさに負けなしだったのだが、ある日、負けて、逃げるように帰ったのだ。
「まあ、さすがにないと思うけどな」
「そんな偶然があったら、それこそ運命だよね」
「そうだな。それじゃあ、俺はそろそろ帰るけど、梓のお母さんは…………」
「いないよ。たしか、無理に帰ってきたから、仕事の後処理をしに一旦、近くのホテルで仕事してるってお兄ちゃんが言ってた」
「そうか…………」
一緒に階段を降りると、敦さんが飛び出し、梓に抱き着いた。
「梓!!」
「な、なに?お、お兄ちゃん!?」
「もうずっと部屋から出てこないと思ったぞ!」
「ご、ごめん」
「千斗くん、本当にありがとう。君は我が家の恩人だ」
「もうお兄ちゃん!恥ずかしいからやめて!それじゃあ、千斗…………また明日」
梓はそう言って笑顔を浮かべた。
「ああ、また明日な」
こうして、一人で家に帰ったのであった。
□■□
――――春野家のリビング。
「もう大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思う…………多分」
「全く心配かけやがって…………でもいい友達を持ったな」
そのお兄ちゃんの言葉に思わず目を見開いた。
「うん…………本当に私もそう思う。そうだ、お兄ちゃん、お母さんはいつ帰ってくるの?」
「ああ、たしか今週の金曜日にきりをつけて17時ぐらいに帰ってくるって言ってたな」
「そうなんだ…………」
私は決死の覚悟を決めて、お兄ちゃんに言った。
「お兄ちゃん、私、お母さんと腹をわって話してみようと思う」
「梓…………大丈夫なのか?」
「大丈夫」
私はお母さんが苦手だ。話せば、ケンカになるし、でもそれでも心のどこかでお母さんと仲良くしたいって思っている自分がいる。
(大丈夫…………私には千斗がいる)
「私には千斗がいるし、それにひかれたレールを歩くのは嫌だし」
「そうだなってなぜ、千斗くんの名前が出るんだ?」
「さすがにお母さんと二人っきりは嫌だから、千斗も同席させようと思って」
「…………ぷ、あはははははは!なんだそれ」
「ちょっと笑わないでよ。というか笑うところあった?」
ぷくっと頬を膨らませる梓。
「いや、本当に千斗くんのことを信頼しているんだなって」
「それはもちろん、私にとって大切な友達だから」
「今はまだそれでいいか」
「それってどういうこと?」
「梓にはまだ早いかな」
どういう意味なのか全然わからない梓。こうして、梓の1日が終わるのであった。
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