第19話 罰ゲーム『語尾”にゃん”』は最高だ

 急な態度に驚く梓。


 俺は心の底から言いたいのだ。感謝の言葉を。



「受け取ってほしい、俺の感謝の言葉を」


「なんか、千斗が壊れた」



 きっと今の梓を見られるのは俺だけで、人生で最初で最後だ。


 今の梓をしっかりとかみしめなくてはいけない。たとえ、ゲームを犠牲にしてでも。



「ふん…………」


「な、なに?そんなじろじろ見て」


「ふん…………」


「ねぇ、聞いている?」


「ふん…………」


「ちょっと、千斗!」



 もちろん、聞こえている。だが、しかし、俺は今、頭の中で想像しているのだ。梓が猫耳姿になって”にゃん”と恥じらいながら言っている姿を。


(ってこれ、俺、完全に変態じゃん)


 ふと、我に返った。



「さてと、悪ふざけはここまでにして、ゲームするか」


「なんか今日の千斗はちょっと変だよ」


「俺も男だからな。可愛いものをめでたくなる時だってある。あと、”にゃん”つけ忘れてるぞ」


「可愛いって…………まあ、言われてうれしいけど、恥ずかしいほうが勝つ、にゃん」



(か、可愛いすぎる!?くぅ…………まるで子猫みたいだ。抱きしめてわしゃわしゃしてぇって落ち着け俺!)


 自分の頬を思いっきり叩き、正気に戻る。



「ちょっと、千斗、何やってるの?」


「いや、落ち着こうかと」


「ほんと、今日の千斗はおかしいよ。あ!?いいこと思いついた…………にゃん」


「いいこと?」


「ゲームで勝負して私が勝ったら、この罰ゲームをなしにする!どうにゃん?」


「別にいいけど…………もし梓が負けたら」



 俺は目を輝かせながら、慎重に丁寧に言った。



「わかってるよな?」


「え…………」


「梓が勝ったら罰ゲームを免除する。それに関しては賛成だ。だがもし梓が負けたら、もちろん、追加の罰ゲーム、受けてくれるんだよな?」



 千斗は素敵な笑顔を浮かべているが、その笑顔はどこか異様な圧を感じさせた。


 初めて千斗に恐怖を感じた梓は一粒の汗を流しながら、ゴクリっと息を飲んだ。



「は、はい」



 そして、コクっと頷いたのだった。




 こうして、ゲーム勝負をすることになり、梓は一つのゲームを上げた。



「これで勝負にゃん」


「なんで、これなんだ?」




 梓がバックから取り出したのはツイスターだった。



「たまにはこういったゲームもいいよね?…………にゃん」


「なるほど、たしかにたまにはいいかもな。それじゃあ、早速やるかってこれ、3人いるぞ」


「あ…………うっかりにゃん」


「おい…………どうするんだよ」



 ツイスターゲームはプレイする二人と審判が一人いる。つまり、この場に二人しかいない現状、遊ぶことはできないのだ。


 

「やっぱり、今日は”タケノコレース”でもするか?」


「そうだね。渚ちゃん来た時にやるにゃん」


「そうだな」



 結局、ツイスターはやることなく、いつもの”タケノコレース”をやることになった。


 ――――30分後。



「勝ったにゃん」


「負けた」



 もはや、勝負にすらならない。最短ルートをミスなく通り抜け、余裕の1位、手つきはもはやプロそのもの。


(もう、このゲームで勝負するのはやめよう。勝てる気がしない)


 決して、逃げているわけではない。ただ、勝てない勝負で戦うつもりがないだけだ。


 これが逃げているということかもしれないが。



「これで罰ゲーム免除にゃん♪」



 嬉しそうにはしゃぐ梓は本当にうれしそうだった。



「マジで、どこまで強くなるんだよ」


「これぞ、秘密の特訓のおかげにゃん」


「秘密の特訓?」


「夜遅くまで練習したかいが…………なんでもないにゃん」


「そうか…………語尾、抜けてないぞ」


「はぁにゃん!?」



 いわれて気づき、口を両手で閉じた。


 そんな傍らで千斗はすごく気になっていた。


(秘密の特訓ってちょう気になる)


 初めて梓が”タケノコレース”をプレイした時なんて、右も左もわからない初心者だった。なのに数週間もしないうちに、追いつかれるどころか追い抜かれた。


(秘密の特訓、一体、どんな内容なんだ)



「は、恥ずかしい…………」



 梓は顔を真っ赤にしながらソファーに顔をうずめる。



「なぁ、その秘密の特訓って具体的になにしたんだ?」



 すらっと自然に聞いてみるも、梓は無反応だ。



「おい、梓?梓さん?」



 反応がないまま数分後、梓のスマホの通知が鳴る。



「千斗、スマホとって」


「はいはい」



 俺は机に置いてある梓のスマホを取り、梓に手渡した。


 梓はそのまま無言でスマホ画面を眺めた。するとバッと突然、立ち上がり、バックを手に取って、こちらを向いた。



「今日は帰る」


「お、おう、それじゃあ送って行くよ」


「…………ありがとう」



 こうして、いつも通り家まで送ることになり、外に出た。



「何かあったのか?」


「何かってわけじゃないけど…………ちょっとね」


「そうか、まあ深くは聞かないよ」



 少しだけ暗い表情を浮かべている梓を見て、俺は静かに隣を歩いた。


 そして、いつの間にか梓の家の前に着く。



「それじゃあ、また明日な」


「うん、また明日ね」



 梓が後ろを振り向くと、俺もまた帰り道へと足を向けた。

 その時だった。


 ドンドンドンドンっと外でも聞こえてくる降りてくる音、振り返ってみると。


 ガチャ!



「梓!!!」



 見知らぬ女性が怖い顔をして梓を怒鳴っていた。


 

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