第17話 少し小悪魔な梓さんは梓と呼んでほしい

 大きめゲーセン内で二人は歩いていた。



「千斗はお財布、大丈夫なの?」


「全然、大丈夫じゃない」


「だと思った。だってあの日から全然、ほとんどゲーセンに行ってないでしょ?」


「梓が家に来るようになる前までは結構、ゲーセンに通ってたからさ。金銭的にな…………そういう時は、PCでゲームすることが多いんだけど、今は梓さんと一緒にゲームすることが多いな」


「千斗ってPC持ってるんだ」



 驚いた表情を浮かべる梓さん。



「ああ、持ってるよ、知らなかったけ?」


「知らないよ。基本、リビングにいるし」


「そっか、俺の部屋見せたことなかったか」


「それじゃあ、明日は千斗の部屋でゲームしよう」


「なんでだよ」


「だって千斗の部屋が気になるから…………ダメ?」



 顔を近づけながら上目遣いでかすかな吐息さえ聞こえてくる。


(ち、ちかいな)



「べ、別にダメとか言ってないだろ。それより、早くゲームしよう。と言っても多くはできないけど」


「わかってるよ、それにここに来たのはただ大きいゲーセンに行きたかったわけじゃないし。実は今日、新しいゲームがゲーセンに登場したんだよね」



 梓さんの後ろについていきながら案内されたのは、ゾンビを打って倒すガンシューティングゲームの台だった。



「1週間ぐらい前に登場したガンシューティングゲームの新台、タイトルは【ゾンビを銃で脱がせ!!】だよ」


「…………どんなタイトルだよ」


「面白そうだよね、いっしょにやるよ」


「あ、うん」



 乾いた笑い声が漏れる千斗は、お金を入れて銃を手にする。


(このタイトル、そのままの意味でとるならゾンビの服を脱がすゲームだよな。でも――――)


 バン!バン!バン!バン!バン!バン!バン!



「ふぅ~~~~あ、さすがにスコア1位は無理かって千斗、動きが鈍いよ」


「いや、画面がきもすぎる」



 ノリノリでゾンビを打ち抜き、服を脱がす梓さんだが、そのゲーム画面は悲惨なものになっていた。


 ゾンビを打ち抜けば、ゾンビがいきなり「ぎゃぁぁぁぁあ」っと言って服が脱げ、しかも倒せば倒すほどオーバーリアクションになる。


 梓さんは気にしていないようだけど、普通に画面がきもくて集中できない。



「そう?私はかわいいと思うけど」


「噓だろ」



 よくよく周りを見渡せば、人があまりいない。


(このゲーム、人気がないのか)



「ほら、1位を取るまトライ!次は集中してやってよね」


「わ、わかったよ」



 梓さんの真剣な表情、完全にゲーマーの顔つきになっていた。


(楽しそうでよかった)


 千斗も気を取り直して、ゲームに集中した。




 1時間後。



「やっぱり、無理だった」


「そう落ち込むなよ」


「だってあと少しで1位のスコアを更新できそうだったんだよ。悔しい、超悔しい!」


「でも1位から下は全部、俺たちのスコアで埋まったけどな」



 ゲームを終えた後、振り返ればたくさんの人が見ていて、まさかゲーセンでここまで見られるとは思っていなかった。



「はぁ…………また今度、リベンジする」


「あはははは」



 乾いた笑い声が漏らしながら俺は思った。


(多分、次来た時にはなくなっているんだろうな、あのゲーム)



「千斗、もしよかったら、夜ご飯一緒に食べない?」


「え?なんで?」


「いや、今日お兄ちゃんが家にいなくてさ。夜ご飯代もらってるんだけど、一人じゃ寂しくて…………」


「別にいいけど、外食?」


「あ、うん」


「できれば、高くないお店でお願いします」



 外食することになった俺と梓さんは近くの激安イタリアンファミリーレストランに入店した。



「なに頼もうかな、何がいいと思う?」


「俺に聞くな。好きなものでいいだろ」


「もう、千斗はタンパクだな。よし、普通にペペロンチーノでいいや」


「俺も同じので」



 お互いに注文を済ませ、料理が出てくるまでしゃべりながら時間をつぶした。


 そんな中で俺は自分の昔の話を話題に出した。



「昔さ、プロゲーマーを目指すって!馬鹿にみたいに夢見た時期があってさ。いろんなゲームをやって、ゲーセンに入り浸って、1日が本当にゲームだけで楽しかったんだ。その時の俺は無敗、どんな対人ゲームでもほとんど負けたことがなかったんだ」


「それはすごいね」


「でも、中学2年生の時かな、そん時結構、格ゲーが自分の中で熱くてさ、ゲーセンで格闘ゲームをやったんだよ、でも負けちゃってさ。しかもただ負けたんじゃなくて、ぼっこぼっこ、手も足も出なくて、あれは本当に今でも鮮明に覚えてるんだ」


「千斗がそこまで言うなんて、すごく強い人と対戦したんだ」


「まっ、そのあとリベンジすることなく終わったんだけどな。ほら、受験シーズンだったからさ、ゲームも当然できなくて、気がついたらプロゲーマーを目指す夢も冷めちゃったんだ。笑えるだろ?」


「千斗…………」



 変な雰囲気が流れる中で、注文した品が届いた。



「よし、食べるか」


「そうだね」



 雰囲気を変えるため、ちょっとした昔話をしたつまりだったがなぜか余計に変な雰囲気になった。


(まずったな。さすがに違う話題のほうがよかったか。でももう話すことないんだよな)



「千斗って今でもプロゲーマーになりたかったりするの?」


「うん?ああ、正直ないかな。今は普通にゲームしているだけで楽しい。まあでもそうだなあ、中学2年生のときに負けたあの子とはリベンジしたいなって最近は思ってるかな」


「へぇ、そうなんだ」



 パクッと梓さんはパスタを口に運ぶ。

 興味なさそうな感じでもくもくと食べながらちらっと梓さんはこっちを見た。



「食べないの?」


「いや、食べるけど」



 夜ご飯を食べた後、会計を済ませて外に出ると、空が真っ暗で時間も夜7時ぐらいだった。



「楽しかったね」


「そうだな。まあ、あのへんなゲームをしただけなんだけどな」


「変なゲームじゃないよ。最高の神げーだよ」


「そうですか」


「あ、絶対思ってない!」



 あれを神げーと呼ぶのはどうかと思う千斗はニヤリと笑った。



「えいっ!」


「ちょっ――――!」



 すると梓さんが俺の後ろに回り込み抱き着いた。



「ねぇ、千斗。そろそろ私のことを梓って呼んでくれてもいいんだよ?」



 そんなちょっと小悪魔のような声を耳元で囁かれた。

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