第15話 秋藤さんが家でゲームをする
たくさんの視線が集まる。
それは人生15年で初めてのことだった。
――――――――帰り道で。
「ねぇ、千斗。これはどういうこと?」
ツンツンモードの梓さんはどこか声が固く、緊張しているようだった。
「かくかくしかじかで」
「かくかくしかじかじゃ、わからない」
「はぁ、まぁ賑やかでいいだろ?」
「そ、そうだけどさ」
今、俺の周りに篠崎三大美少女が集まっている。隣に梓さん、その後ろで楽しく腕を組んで会話をしている渚と秋藤さん。
容姿が整った3人に囲まれていれば、学校内だけでなく外でも注目を集めるのは当たり前かもしれない。
だが、それにしたって注目を集めすぎている。
そんな中で、無事にマンションの家に到着し、家に案内した。
「へぇ…………結構きれいじゃん」
「どの
「正直な感想を述べただけだし」
「こら、雫ちゃん。失礼にもほどがあるよ」
「だって…………」
頭を軽くたたかれた秋藤さんはわざとらしい声で涙目になる。
そのわざとらしさに多少のイラつきを覚えるも我慢して、リビングに向かった。
「千斗くんって何者!?なに、この大きなテレビ…………もしかして、お金持ち!?」
「まぁ多少はそうかもだけど、抱く感想がそれかよ…………はぁ、3人ともなに飲む?」
「私はお茶でいいよ」
「ココア!」
梓さんと渚は即決で決める中、秋藤さんだけは少し戸惑っていた。
「秋藤さんは?」
「えぇ、うぅ…………ん、水?」
「それでいいのかよ。それじゃあ、普通にお茶にするぞ」
「まぁ、渚ちゃんと同じならいいか」
各自の飲み物を用意し、机の上に並べると、渚がエプロン姿で料理を始める。
「渚ちゃん、何しているの?」
「千斗くんのご飯を作ってるの」
「へぇ…………本当に贅沢ものめ」
「なぜ、にらむ」
猫のようにシャー!と威嚇してくる秋藤さんを見て、ため息を漏らす。
たしかに、渚にご飯を作ってもらっているのは贅沢かもしれないが、威嚇される筋合いはない
「せ、千斗…………」
「どうした?」
隣を見ると、緊張しすぎて表情が硬くなっている梓さん。それを見て、思わず、吹いてしまった。
「な、なんで、笑うの?」
「い、いや、緊張しすぎだなって思っただけだ」
「なんか、ムカつく」
「いてて、痛いって」
手の甲をつねられる。
「それより、ゲームするか。秋藤さんも一緒にゲームするか?」
「なに?私は別にゲームなんてしないよ」
「逃げるのか、なら残念だ」
わざとらしく挑発してみると、秋藤さんがフグのようにプンプンになった。
「逃げる?なわけ、陰キャの千斗くんなんてぼこぼこにしてあげる!」
「いい度胸だ」
内心――――。
(秋藤さん、意外と挑発に弱いんだな)
心の中でくすっと笑うのであった。
「それじゃあ、最低でも3人でプレイできる…………」
「千斗、これはどう?」
そう言って梓さんが持ってきたのはもちろん”タケノコレース”だった。
こうして、俺と梓さん、そして秋藤さんとゲームをすることになった。
1時間後。
「なにこのゲーム!くそすぎるんだけど!?」
「叫ぶな、近所迷惑だろ」
白熱した対戦だが、実質、俺と梓さんの対戦になっており、秋藤さんは案の定、ぼこぼこにされていた。
だが、それは無理もないのだ。秋藤さんが相手にしているのガチガチのゲーマーなのだから。
「う――――あ!?待って!!うぅうぅうぅうぅ、あ!」
声を抑えられない秋藤さんは隣で叫びながらも必死にゲームをプレイしていた。
(もしかして、秋藤さんが一番、楽しんでいるじゃ)
横目で秋藤さんを見ていると、奇跡が起こった。
ゲーム画面を見てなかった俺は、そのまま梓さんのアイテムに翻弄され、そのまま秋藤さんに追い抜かれる。
「やった!!」
「しまった!?」
そして、そのままゴールし、初めて秋藤さんに負けた。
「初心者の私に負けるなんて、ゲームの才能ないんじゃない?」
「一回勝ったぐらいで調子に乗りやがって」
「ゲーム画面をちゃんと見ない、千斗が悪い」
「梓さん!?」
「そうだよね、梓ちゃん」
いつの間にか、梓さんのツンツンモードから可愛いモードになり、秋藤さんは梓さんに抱きついた。
「くぅ、まぁそれは認めよう。ならもう一回だ!!」
「いやだ」
「なんでだよ」
「次やったら、絶対負けるし、勝ち逃げも戦略」
「くぅ…………卑怯者が」
そんな風にゲームを楽しんでいると、渚が千斗の隣にちょこんと座る。
「楽しそうだね」
「渚ちゃん、私ね!千斗くんに勝ったんだよ!」
「聞いてたよ…………千斗くん、ご飯は冷蔵に入れおいたから。私はそろそろ帰るね」
「ああ、いつもありがとうな」
そんな俺と渚の会話を横目にじ~っと見つめる二人。
「お前ら、そんなに見なくてもいいだろ」
「別に!それじゃあ、そろそろ帰ろ、渚ちゃん」
「そうだね………梓ちゃんはまだいるの?」
「私はあとこのゲームで千斗に5勝してから帰る」
「あと、5戦もするのかよ」
現在、時間は5時半、まだ外は明るいし、一人でもないため送らないことにした俺は、玄関で見送った。
「それじゃあ、また明日ね」
「思ったより、楽しかった…………また、明日」
そう言って背を向けて帰っていった。
そして、二人っきりなった俺と梓さんは再びテレビの前で座り、コントローラーを握り、ゲームを再開するのであった。
「満足した」
「10戦5勝5敗…………マジで帰ってからずっとこのゲームをしてるんじゃないのか?」
「ふふん、実力だよ、千斗」
満足げに言いながら、二杯目のココアを口に運ぶ。
このままでは、いずれ、全敗する勢い、ビビっている俺はそろそろ違うゲームの対戦に切り替えないといけないなと思った。
「よっと」
「な、急になんだよ」
突然、梓さんが俺の方にもたれかかり、身を添わせた。
「ねぇ、千斗。明日はさぁ、ゲーセンに行かない?」
「ゲーセン?まぁ、別にいいけど」
「よし、じゃあ決まりだね」
梓さんはすごくうれしそうな笑顔を浮かべながら、気持ちよさそうに頭をこすりつけてくる。
(ネコみたい)
撫でたくなる愛くるしさが全面に溢れていて、心臓が飛び跳ねる。
「なぁ、近くないか?」
「そう?いつもこれぐらいじゃない?」
上目遣いで見つめてくる梓さんはちょっぴりかっこよくもあり可愛らしさもあった。
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