第14話 秋藤さんと意外に息が合うのかも

 教室内では、いつも通り、影薄く隅っこで本を読んでいた。



「それにしても…………眠いなぁ、ふわぁ」



 昨日の月曜日の夜、梓さんはいつも通り家に来て、普通にゲームをしたのだが、その後、夜に梓さんから電話が来て、そっから淡々と日曜日で起こった出来事を聞かされた。


 それはまさかの朝まで続き、オールしてしまったのである。


(まさか、朝まで続くとは…………)



「千斗くん、ちょっといいかな?」


「なんだよ、渚」



 話しかけられたへと顔を向けば、渚がこっちを向いて微笑んでいた。


 その異色な組み合わせに周りの生徒がざわめき始める。

 こうして、お互いに名前呼びを堂々としたのは、これで初めて、渚も少し緊張していたのか、頬が少し赤かった。



「なになに?いつから、仲良くなったのよ!?」


「反応が大袈裟おおげさだな、秋藤さん」



 周りはざわめき、ひそひそしている中で、秋藤さんだけは躊躇なく聞いてきた。



「うっさい、驚くのは当然でしょ?」


「それもそうだな」


「それで、いつから名前を呼ぶぐらい、仲良くなったの?詳しく教えてくれないかな??」


「いきなり、名前呼びかよ」



 思わず、驚いてしまう俺は、少し引いた。



「ちょっと、ガチ引きやめてよ。普通に傷つくんだけど」



 さすのガチ反応にちょっぴりビビる秋藤さん。そんな隣で渚は秋藤さんに耳打ちで何かささやいた。



「なるほど…………千斗くんって本当に陰キャだったんだ」


「ちょっと、雫ちゃん!?」


「これがいわゆるダサい陰キャ。うん、ピッタリね」


「ちょっ――――ごめんね、千斗くん」


「いや、いいさ。陰キャであることは事実だしね」



 汗ばむほど、俺は今両手を握りしめていた。

 今までに感じたことない怒りと羞恥心、はっきりと陰キャと言われて嬉しいやつなんているはずがない。


(自分で言うのはいいんだが、人に、特に秋藤さんに言われると、ムカってくるな)


 少しだけ呼吸を整え、冷静さを取り戻す。



「まぁ秋藤さんは置いといて、渚。俺に何か用か?」


「ちょっと、無視しないでよ!」


「だったら、まずはそのへらず口をやめろ」



 柊千斗と秋藤雫、二人の掛け合いを見て周りの生徒は同じことを思った。


――――なんか、意外と息ぴったりだ。


 そんな空間で置いてきぼり感を感じている渚はちょっぴり雫ちゃんのことが羨ましいな、と見つめた。



「これだから、陰キャは嫌なのよ」


「秋藤さん、今、全員陰キャを敵に回したぞ」


「いいよ、どこからでもかかってきなさい!」



 長く秋藤さんとしゃべっているとチャイムが鳴る。

 次の授業が始まる合図だ。



「もう時間か、秋藤さんのせいで聞けなかったな」


「わ、私のせい!?」


「そうだろ?――――渚、話はまた放課に聞く、ごめんな」


「うんうん、全然大丈夫だよ、大したことじゃないし」



 こうして、時間は進んでいき、帰りの時間が訪れた。

 

(なんか、視線が痛いな)


 突き刺さる左右八方からの視線。だが、こうなるのはわかっていた。なにせ、相手は篠崎三大美少女の渚だ。それを下で呼んだら、いやでも注目を集める。


 教材をバックに詰め、帰り支度をしていると、渚が近づき、俺の隣に立った。



「ねぇ、千斗くん。さっきの…………」


「ああ、忘れてない。それで、何の用だったんだ?」


「明日なんだけど、ちょっと用事があって寄れないから、今日、寄ってもいい?」


「別にいいけど…………」



 俺はちらっと周りを見渡した。

 周りがまたざわめいた。


(これはもうごまかしきれないな。なら、もういっそのことか)



「わかった。それじゃあ、いっしょにいくかって言っても梓さんも一緒だが」


「全然いいよ」



 その会話を聞いた周りの生徒たちはこっそりと声を上げた。

 そんな中、またしても。



「ちょっと、二人で何話しているの?」


「ごめん、雫ちゃん。今日は一緒に帰れない」



 両手を合わせて頭を下げる渚に秋藤さんは困った様子を見せる。



「急に何!?てか、どいうこと?え、え?ちょっと、千斗くん、これはどういうこと!?」


「俺に聞くのかよ…………ちょっと渚が俺の家に行くだけだ」


「なぁ!?う、噓でしょ!!」



 秋藤さんは渚のほうへと視線を向けると、こくこくっと頷いていた。



「なんで、千斗くんの家に行くのよ、渚が」


 

 すると、渚がまた耳打ちで秋藤さんにささやいた。



「なぁ!?千斗くんってうらやま…………贅沢もの」


「何を聞いたんだ」


「…………わかった。私も行く」


「はぁ!?なんで秋藤さんも来るんだよ」


「だって、男女二人っきりは危険だから。正当でしょ?」


「男女二人っきりじゃないけど…………まぁ、いいか」



 俺の部屋に篠崎三大美少女が3人集まる。それは本来あり得ないことだ。それが今、現実になろうとしている。


 そんな会話に周りの生徒が聞き逃すはずがなく、隠すつもりなく一気に声を上げた。だが、そんなことを二人は気にしない。ただ、こっちらをずっと見つめている。


(これは、困ったな…………普通にだるい)



「みなさ~~ん、帰りのホームルームがはじまり――――まぁ!?ど、どうしたの?」



 美咲先生が教室に入ってこれば教室の現状に驚く様子を見せた。


 こうして、なぜか、渚はとにかく、秋藤さんも俺の家に来ることになったのであった。



 

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