第13話 梓さんのいない1日がこんなに虚しく感じるなんて
今日は渚たちと梓さんが遊びに行く日だ。
「梓さんがいない日なんて、久しぶりだな」
ここ数週間、毎日のように梓さんと一緒にいた。平日は学校の帰りから夜の7時半ぐらいまで、ゲームでの対戦を繰り広げた。
休日だと、朝から俺の家に来てはゲームをしたりご飯を食べたりと、楽しく過ごしていた。
そんな毎日を送っていたからこそ、梓さんと一緒にいない日が新鮮に感じつつもちょっとした虚しさも感じる。
ソファーにぐったりと体を添わせ、久しぶりにスマホでソシャゲを開いた。
「退屈だな…………」
黙々と操作し、無感情でゲームをプレイすること1時間。
「俺って家で何してたっけ?」
梓さんとまだ友達じゃなかったとき、俺は一体、家で何をしていたのか、振り返ってみた。
よくやっていたのはゲーセンに入り浸ること。でも、それは1か月ぐらいでやめて、そこからFPSゲームをちょろっとやり、そこからゲーセンの格闘ゲームにハマった。
「そうか、意外とゲーセンでゲームしていることが多いのか」
久しぶりにゲーセンに行こうと財布を確認すると小銭がなく、通帳を見るも残金が少なかった。
「そういえば、梓さんが毎日、家に来る前は馬鹿みたいにゲーセンでお金を使ったんだけ。しばらく、ゲーセンには行けないか。じゃあ、久しぶりにFPSゲームでもするかな」
俺はソファーから立ち上がり、自分の部屋の扉を開けた。
そこにはデスクトップが1台にデュアルモニター、マイク、イヤホンなどゲームをする上での機材がそろっていた。
人差し指でデスクトップのボタンを押し、パソコンを起動させ、ゲームチェアに腰かけた。
「何年ぶりのログインだろう」
起動させたゲームは【シューターロワイヤル】という大人気FPSゲームで、現在でも大きな大会が世界中で行われている。
「中学3年生ごろにログインしなくなったから丁度、1年ちょっとぐらいか」
ログイン画面に入り、ログインするとちゃんとデータが残っていた。
「お、今7シーズン目なのか、早いな」
俺が本気でプレイしていたのは2,3シーズンのときだった。
シーズンというのは期間を設けて、その間にいろんなコンテンツを実施すること言って、言うなればシーズンごとにアップデートがくるイメージだ。
「久しぶりにやるか」
こうして千斗は、久しぶりに【シューターロワイヤル】をプレイするのだった。
数時間後。
「ソロだとこんなもんか」
5,6戦プレイしてわかったことは、ソロでは現状、ポイントシステムに関係で、ソロでは盛りにくくなっている。
「まぁ、FPSだしな。しょうがないか」
席を立ち、凝り固まった体を伸ばしながらほぐした後、リビングに向かう。
お茶を注いだコップを片手に再びソファーに座り、テレビをつける。
「ふぅ…………疲れた」
テレビでニュースを見ながら空いているもう片方の手でソシャゲの周回をしていると、突然、電話がかかってくる。
梓さんだ。
「まさか、もう」
今はちょうどお昼時、普通なら楽しくお昼ご飯を食べている時間であるはずだ。
「でるか」
俺は、スマホを操作し、電話に出た。
『千斗』
「ど、どうした?」
『…………一緒に食べるご飯って気を使ったほうがいいかな?』
「どういうことだ?」
俺の頭上には”?”が浮かんだ。
詳しく話を聞いてみると、どうやら、今女子トイレにいるらしく、ご飯をショッピングモールの中で食べることになったらしいのだが、そこで食べる食べ物が女の子らしいというかヘルシーだったらしい。
だから?といった感じなのだが、梓さん的にはかつ丼を食べたくて、でも渚の頼んだものを見て何とも言えない気持ちになり、現在に至るようだ。
「普通に食べたいモノ食べればいいだろ」
『でも、もし私だけモリモリの食べ物を食べてたら引かれるかもだし』
「大丈夫だって、そんな程度で引かれることはないよ、心配しなくていい」
『本当?』
電話ごしでもわかる。今の梓さんはかわいいモードの梓さんだ。
「ああ、俺を信じろ」
『わかった…………こんな時間にごめんね』
「気にするな」
『じゃあ、また』
プツっ。
電話が切れた。
「くだらない電話でよかった」
心の底から安堵する俺は、ソファーから立ち上がると、今度電話ではなく、メッセージの通知が届く。
「今度はなんだ?」
画面を覗くと、渚からだった。
(渚)『梓ちゃんがトイレから帰ってこないんだけど、大丈夫かな?』
このメッセージを見て最初に思ったことは、”どうして俺に聞く?”だった。
(千斗)『なぜ、俺に聞く?』
(渚)『だって、頼るなら、千斗くんだろうし』
(千斗)『なるほど…………多分、大丈夫とだけ言っておく』
(渚)『本当?私、心配だよ』
(渚)『あ、梓ちゃん来た!』
(千斗)『それはよかったな』
「渚も渚なりに心配はしてくれているのか」
俺はスマホをもって再びゲームチェアに腰がけ、【シューターロワイヤル】をプレイするのだった。
窓を覗けば、すでに外は真っ黒だった。
スマホで時間を確認すると、すでに7時を回っていた。
「げ、もうこんなに時間が経ったのか…………」
俺は席から立ち上がり、夕ご飯を食べようとリビングに向かおうとしたとき、ピンポーンっとインターホンが鳴った。
「こんな時間に誰だろう」
モニターを確認すると、そこには。
『千斗、来たよ』
なぜか、梓さんがいた。
「な、なんで…………」
俺はすぐにマンションの扉を開けて、家に上げた。
「ふぅ…………ゲームをしに来たよ」
「梓さん、おとなしく帰って」
「なんで!?急いで来たのに…………」
走って来たからか、息が荒く、頬が赤く染まっている。
「いや、意味が分からん」
「だって、千斗とどうしてもゲームがしたくて」
その言葉に千斗はキョトンとした表情を浮かべながら、視線をそらした。
「時間あまりないけど、ね。ダメかな?」
「別にいいけど、できても30分ぐらいだぞ?」
「30分あれば十分だよ。お邪魔します!!」
「まったく、吞気な奴だな…………ふん」
笑みこぼれる千斗。内心、少しうれしかった。
そんな風に今日も俺たちはいつものようにゲームをするのであった。
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