第11話 春野家の兄妹と一緒にピザパーティー
車での移動中、俺と梓さんは後ろの席に座っていた。
「ごめんね、千斗。お兄ちゃんが勝手に」
「おいおい、今の言い方だと俺が無理やり連れてきたみたいじゃないか」
「その通りでしょ!お兄ちゃんのバカ!」
「なぁ!?お兄ちゃんに向かってバカとはなんだ!そんなに言うなら部屋で梓がどんなことをしているか、千斗くんに暴露してやろうか?」
「ちょっ!?それはやめてよ!!」
車の中でもプチ兄妹ケンカ、そんな中、千斗は窓の外の景色を眺めた。
(本当に仲のいい兄妹だな)
「もう…………どうしたの、千斗?」
「いや、仲がよろしいなと。いつもそんな感じで学校でも送っていればいいのに」
「だから、それができたら苦労しないよ。まぁでも渚ちゃんのおかげで少しはマシになったと思うけどね」
「それはたしかに」
渚と友達になってから、梓さんは渚と絡むようになった。というか、渚から絡みにいくようになった。放課からたまにお昼の時間、梓さんの周りが少しずつ人が増えていった。
ちらっと聞いた話だと男子生徒からの梓さんの評価が上がりつつあり、さらに人気が爆増、まさに梓さんの転換期に突入している。
そう思うと梓さんと渚を会わせたのは正解だった。
「そろそろつくぞ」
車が止まり、無事に春野家の家に到着した。
車を降りて端から端まで見渡し、あらためて梓さんの家の外観に驚いた。
大きな庭と車3台ほど入る駐車場に3階建ての一軒家、どこからどう見ても普通の一軒家とは違う。
(本当にお嬢様みたいな家だな)
「ほら、早く上がれよ、兄弟」
「その兄弟やめてくれませんか?」
「そうか、それじゃあ、弟君と呼ぼ――――」
「何言ってるの!お兄ちゃん!」
バチっ!
梓さんのストレートパンチが敦さんの頬にめり込んだ。
「ふぅ…………気にしないで、千斗。後で私がよく言っておくから」
「…………ほんとに仲がいいだな」
「仲がいいというか、まぁそうかもね。ほら、お兄ちゃん早く!」
「わかったって、うぅ、梓の愛が重いぜ」
普段の梓さんとはだいぶ違う。これが家族だけに見せる梓さんの姿。
(………こういう梓さんも新鮮だな)
初めて、春野家の家に上がり、リビングに案内された。
2階のリビング、掃除された部屋にすべてが完備されたキッチン、まるで一回も使っていないと言われても信じてしまうぐらいに綺麗だった。
「それでなに頼もうかな…………何か食べたいものあるか、千斗くん」
「頼む?」
「うち、基本、出前なんだ。親が海外出張でさ」
「なるほど」
「ピザパ…………ピザにしよう、お兄ちゃん!」
「いいな、それ。千斗くんもそれでいいかな?」
俺はこくり、頷く。
「よし、それじゃあ、来る時間までゆっくりくつろいでくれ。あ、ただ2階より上にはいくなよ」
「わかりました」
ピザが来るまでの間、見たことのない大きなテレビでゲームをすることになった。
そこで、梓さんがタケノコレースを取り出し、対決することに。
「私の勝ちだね」
「うぅ…………本当に
結果は3勝5敗で俺の負け。ほんの数日前まで右も左も知らない初心者だったのに数日で俺以上に実力をつけてきた。
これはもはや、センスと努力の差だろう。
「おお、タケノコレースか。梓、ここずっとそればっかやってたもんな」
後ろから敦さんが気軽に話しかけてくると、顔を真っ赤にしながら梓さんがこぶしを握りしめ、腕を上下に動かしながら軽くたたく。
「なんで、言うの!」
「だって家に帰ってきてからずっとやってただろ。本命のゲームもせずに」
「うぅ…………だって、千斗には負けたくないし」
「千斗くんってそんなにゲームがうまいのか?」
敦さんがこっちむいて投げかけてくる。
「まぁ、それなりには」
「千斗はもっと自信もっていいと思う。ゲーセンの格闘ゲームのときなんか、とびぬけてすごくて、レベルだとプロゲーマーレベル!」
「へぇ、じゃあ、今度、俺と対戦してもらおうかな」
「敦さんもゲーマーなんですか?」
「まぁ、梓がこれだからな」
「なるほど」
(梓さんがこれだけゲームが好きなのは敦さんの影響なのか)
よくある兄の背中を見て憧れてやってみてハマったというやつだ。
(対戦、してみたいかも)
ゲームをすること30分、インターホンが鳴り、ピザが届く。
「よ~し、ピザが届いたぞ!ゲームを片付けろ!飯だ!!」
敦さんが高らかに声を上げ、梓さんがすかさずゲームをかたずける。
そして、机にピザとコーラ2Lを3本置いて、無事に準備が整った。
「それじゃあ、乾杯!」
「お兄ちゃん、テンション高い」
「なんたって、梓が初めて友達を連れてきたんだ。兄としてテンションだって上がるだろ」
「ふつうは上がらないと思うけど…………」
「千斗くんも遠慮せず、食べて飲んでくれ!」
「あ、ありがとうございます…………あはは」
テンションの高い敦さんと隣でツッコミを入れる梓さん、そしてそれに挟まれる千斗は乾いた笑い声を漏らした。
こうして、春野家のピザパーティーが幕を上げたのであった。
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