第10話 ショッピングモールで服選び、そして梓さんの兄
何の変哲もない今日、梓さんはソファーで寝転がりながらお菓子をパクパクと食べる。まるで、自分の家のように、自堕落に。
「おい」
「なに?」
「あまりにも無防備すぎないか?」
梓さんが渚と友達になって4日目、今日は休日の土曜日でお昼から俺の家でお菓子を食べながらゲームをしている。
肌着一枚でへそをだしながら、学校での梓さんのイメージとはかけ離れた格好でなぜか、ここにいる。
「無防備?…………千斗になら、別にみられても平気だよ?」
「梓さんが平気でも俺が平気じゃないんだよ」
すでに6月を迎え、少しずつ熱くなってくる日々、薄着になるのはわかるがそれでも今この場にいるのは俺と梓さんだけだ。
(少しぐらい、警戒してくれよ)
頭を抱える千斗だった。
「そうだ!千斗!明日、渚ちゃんと一緒に初めて遊びに行くことになったんだけど…………服ってどうすればいいと思う?」
「うん?服?てか、明日遊ぶのか?」
「そう、初、渚ちゃんとのお遊びだよ!私も成長したよね♪」
思わず、顔が固まった。
ずっと俺の家に入り浸ってゲームをしていた梓さんがついにほかの友達、というか渚たちと一緒に遊びに行く。これはすごいことだ。ものすごくすごいことだ。
(しかし、服か。俺って別にファッションに詳しいわけじゃないんだよな)
「そういうのは渚に聞けよ」
「ダメだよ!できれば、驚かせたいんだ。ほら、できれば渚ちゃんびっくりさせて、より印象をよくしたい!」
「別にそこまでしなくてもいいと思うんだが」
「いや、千斗は何にもわかっていない。友達を作る難しさを!!」
「いや、握手したら友達って言ってた梓さんに言われたくないんだけど」
「と、とにかく、今から服を見に行くよ!」
行く気満々に明後日の方向へ指さす梓さんはやけに輝いていた。
「別にいいけど、その前に着替えろよな」
「わ、わかってるよ」
頬を赤らめながらへそを隠す梓さん。
こうして、ショッピングモールに行くことになったのであった。
ショッピングモールの入り口前、俺は頭を抱えていた。
「初めまして、梓の兄、
「は、初めまして、柊千斗です。会ったことはないと思います」
「そうか、気のせいか」
目の前に超絶イケメンの梓さんの兄がいる。
しかも、なぜか兄弟呼びで、チラッと梓さんを見ると”ごめんね”っと両手を合わせていた。
「聞いてるぜ、梓と仲良くしってもらっているどころか友達づくりの手伝いまでしてくれているとか、ほら、梓ってこうだから、なかなか心を開かないからさぁ、これからもよろしく頼むよ」
「あ、はい」
どうして、梓さんのお兄さんがいるのか、それは服を買いに行くことが決まり、準備していた時だった。
梓さんが財布を持ってくるのを忘れ、家まで取りに行ったとき、どうせならとついていったんだ。
そしたら。
突然、梓さんのお兄さんが来て、「俺もついていくぜ!」と車を出してくれたのだ。
「遠慮はするなよ。全部俺が払うからな」
「はい」
「お兄ちゃん、あまり千斗に迷惑かけないでよね」
「なんだよ、ツンツンしてよ。家だと”お兄ちゃん、ゲーム教えて”って可愛くいってくれるのによ」
「いつ頃の話をしているの!」
隣に梓さん、もう隣に梓さんのお兄さん、俺を挟んで口喧嘩ならぬプチ兄弟けんかをしている二人、仲がいいのか悪いのかよくわからない。
だが、お兄さんが悪い人じゃないことはわかる。きっと、男と二人っきりで出かけることに心配してついてきた、そんなところだろう。
「千斗、これどう?」
「う~~ん」
「これとか?」
「う~~~ん」
「これなんてかわいいと思うんだけど」
「う~~~~ん」
試着室でいろいろ着こなす梓さん、それを見て俺は思った。
どれもかわいい、どれも似合う。
むしろ、似合わない服が梓さんにあるのかと疑うほどにだ。
「どれも似合うんじゃないか?」
「お兄ちゃんには聞いてないんだけど」
「おお、こわこわ」
お兄さんの前だと梓さんは少しだけつんつんしているが、学校内のつんつんとは違ってかわいらしさが残っている。
(これが兄妹というやつか)
「兄弟はどう思うんだ?」
「似合っていると思うけど…………なんというか、梓さんらしくない?」
「ほほ…………その心は?」
「せっかくの友達とのお出かけだし、もっと自分らしさを出したほうがいいと思う。だから…………」
数分後。
「おお、似合ってるじゃないか、梓」
「お兄ちゃんに褒められてもうれしくない。でも、うん………」
俺が選んだ服はいたってシンプルだ。梓さんはつんつんとしていながら可愛らしさがある。ならいくら似合っていても暗めの色はなしだ。
ならシンプルに白を選びつつ、ジャケットとズボンと同じ色で統一することでシンプルながら梓さんの良さを引き出してくれる。
(それにしても自分で選んでいながら中々、上出来だな)
内心、ここまで似合うとは思っていなかった。それこそ、イメージに合わせつつ、できるだけ梓さんの良さを引き出そうとした結果に過ぎない。
「よし、これ買う。あと今まで試着した服も!お兄ちゃん、お会計よろしくね」
「おう、任せておけ…………んっ!?数字が6桁、これはまだまだ頑張らないとな」
会計をする敦さんの後ろ姿は暗かった。
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ、お兄ちゃん、ああ見えて結構稼いでるから」
「そ、そうか」
会計が終わり、敦さんと合流した。
「よし、それじゃあ、今からご飯を食べに行くか。何か食べたいものはあるか、兄弟?」
「え、あ…………別に何でもいいんですけど」
「だったら、うちで食べてくか?」
「お兄ちゃん!?」
「さすがにそれは」
「なに、気にすることはないぞ!なにせ、梓が大変お世話になっているからな。そのお礼だと思ってくれ!相当決まれば、さっそく家に帰るぞ!!」
流れに流れるままこうして、春野家でご飯を食べることになったのだった。
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