第6話 小さなアクシデント
午後の授業が終わり、帰りの時間。
やっと、終わったと背を伸ばしながら教材などをバックに詰める。
(なんとか、終わったな)
今日1日、特に話しかけれることもなく終わり、安堵しながら周りの視線を気にしてみると、やっぱりまだ視線が集まっていた。
授業が終わって数分後、美咲先生が教室に入り、帰りのホームルームが始まった。 そして、思いにもよらぬアクシデントが起きた。
「それじゃあ、柊くんと渚ちゃんはちょっと残ってほしいんだけど、大丈夫かな?」
「え」
「ちょっと手伝ってほしいことがあって二人とも部活動に参加してないし、ダメかな?」
唐突な美咲先生の頼み事に夏川渚は「わかりました」と答えた。
「柊くんはどうかな?ダメかな?」
どう見たって断りにくい状況に千斗は頷いた。
「ありがとう!それじゃあ、みんな起立!!」
こうして、帰りのあいさつが終わり、無事に1日が終わった。
(まさか、帰宅部であることがこうしてあだになるとは)
帰りのホームルームが終わった後、俺と渚は美咲先生の後ろについて行くことになった。
「いや、二人ともありがとね。と言ってもそんな大変なことじゃないから、安心して」
「私たちは何を手伝うですか?美咲先生」
「茶封筒にプリントを入れる作業だよ、多分、40分もあれば、多分終わるから」
使われていない理科室、そこにはプリントと茶封筒が積まれていた。
「それじゃあ、二人とも頑張ってね」
そう言って美咲先生は理科室を去っていった。
□■□
まさか、こうなるとは思わなかった。
今、自分の頭の中に駆け巡るのは梓さんとの約束だ。
梓さんに何も伝えられず、ここまで来てしまった以上、今頃、怒っているだろう。
「はぁ…………」
溜息をもらしながら、黙々と作業をこなす。できるだけ早く終わらせなくては、そんな気持ちで真剣に取り組んでいた。
「ねぇ、せ…………柊くん」
「なに?」
突然、渚が話しかけてきた。
「その…………春野さんと最近、仲がいいらしいね」
「ああ、ちょっときっかけがあっただけだよ」
「そ、そうなんだ…………ふぅーん」
今思えば、この状況、普通の男子生徒なら喜ぶところだろう。
「春野さんと仲がいいんだね。それじゃあ、噂もホントってこと?」
「噂?」
「そう、今日ずっとその噂で持ち切りだったんだ。柊くんと春野さんが、そ、その………みだらな関係にあるって」
「なわけないだろう。相手は高根の花だぞ?偶然、ゲーセンで出会って仲良くなっただけだよ」
「そ、そうなんだ。じゃあ、噓なんだ」
(まさか、ここまで噂がひどくなっているとは、噂ってこえぇ)
内心、聞いた噂に心臓バクバクだった俺は気を紛らわすように作業スピードを上げた。
作業を続けていると。
バタンっ!
扉が開いた。
「渚ちゃ――――ん!」
「え、雫ちゃん!?」
秋藤さんが突然、理科室に現れ、渚に抱き着いた。
「どうしたの?」
「今日、部活が休みになったから、手伝いに来たの」
「そうなんだ」
「あれ?なんか、渚ちゃん暗くない?」
「いちゃつくなら、外でやってくれないか」
「え、えぇ!?だれ?」
俺の顔を見て、驚愕しながら冷たい目で言う秋藤さん。
同じクラスなのに認知すらされていない。まぁ、普通はそうだろう。なにせわざわざ興味のないことなんかを覚える必要なんてないのだから。
「同じクラスの柊くんだよ」
「へぇ…………」
「せめて、同じクラスメイトぐらい覚えようよ」
「えぇ…………だってめんどくさいじゃん」
相変わらず、この二人は仲のいい印象だ。というか、普通にいつも一緒にいるから、そう思ってしまう。
「それじゃあ、私も手伝うよ。あなたは帰っていいよ」
「ちょっと、雫ちゃん。失礼だよ」
「だって…………」
「3人でやったほうが効率いいだろ。さっさと手を動かせ」
「なぁ!?あんた、女の子に対してその言い方!失礼でしょ!」
「お前が言うか」
バチバチな状況の中で、「まあまあ」と仲裁する渚に、秋藤さんは抱き着いた。
「うわぁ―――ん、あいつがいじめる」
「こいつ…………」
秋藤さんってしゃべってみればみるほど、なんかむかついてくる。白々しいというか、なんというか、本当に渚のことが好きなんだと思う。
(あれか、最近はやっている女の子同士のあれだな)
「ごめん、柊くん。雫ちゃんも悪気あるわけじゃないの」
「べ――――!」
「もう!雫ちゃん!!」
(悪気がなかったら、舌を出しながら、べ―――、とはしないだろ)
「とにかく、早く作業を終わらせよう」
「そうだね」
二人だったのが三人になり、一気に作業スピードは上がった。
そして、予定より早く20分で終わった。
「終わった!渚ちゃん、帰ろよ」
「そうだね」
こうして二人を見るとやっぱり、篠崎三大美少女といわれるだけある容姿スペックをしているなと、改めて思った。
「なに?じろじろ見て」
「いや、仲がいいなって」
「当たり前でしょ!私と渚ちゃんは超仲がいい!あなたに入る隙なんてない!」
「入るつもりはないよ。それじゃあ、俺も帰るから」
「ふん、さっさと帰りなさいよ、しっ!しっ!」
邪魔者ような目で見てくる秋藤さんを見て、容姿だけがすべてじゃないと改めて思う俺であった。
「こら!雫ちゃん、そんなこと言っちゃダメでしょ」
ペシ!
渚は軽く頭を叩いた。
「うぅ…………痛い」
「本当にごめんね、柊くん」
「いいよ、別に気にしてないし」
「それでも、ごめんね。雫ちゃん、私たちも帰るよ」
そう言って渚と秋藤さんが歩き始めた。
その時だった。
「あっ――――」
渚が椅子にひかかり、重心が前に倒れこんだ。そんなところを俺はすかさず、抱き寄せた。
「おっと、大丈夫か?」
「あ、うん」
抱き寄せられた渚は硬直していた。
「ちょっと、渚ちゃんから離れて!」
その光景に反応が遅れる秋藤さんはすぐに俺と渚を引き離す。
「渚ちゃん、大丈夫?」
「だ、大丈夫だよ、ちょっとびっくりしちゃっただけだから」
顔色を少し赤くしながら乱れた髪を整える渚ちゃん、その横で心配そうに秋藤さんは見つめた。
(怪我はなさそうだな)
「足元には気をつけろよ。それじゃあ、俺は帰るから」
「あ……」
何か言いたげそうにする渚だったが、ぐっと堪えその背中を見守りながら、言った。
「ありがとう、柊くん」
俺はそのまま何もなかったかのように理科室を出た。
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