第4話 梓さんの友達宣言
ゲームを始めて、何時間が経っただろうか。
お互いにボタンを連打し、ジョイスティックを傾け、ゲーセンの時はまた違う白熱した対戦を繰り広げていた。
「あ――――!なに今の!?」
「知らないのか?」
気づけば、、互いに砕けた言葉を発しながらゲームを楽しんでいた。
「ま、また負けた」
「これで3勝だな」
「さっきの技、なに?裏技かなにか?」
「自分で調べるんだな」
「うぅ…………もう一回!もう一回!」
「え~~~どうしよっかな」
煽るような口調で梓さんは、にらみつけてくるが、普通にスルーした。
「って、もう7時だ」
学校に帰ってきたのが16時40分ぐらいで、現在は7時、つまりあれから2時間ちょっとゲームをしていたのだ。
さすがにこんな夜遅くまで梓さんをいさせるわけにはいかない。
「7時だから何?」
「そろそろお開きにしよう。さすがに夜遅くまでゲームするわけにもいかないし、それに親が心配するだろ?」
「別に心配なんてしないよ」
さっきまでのテンションはどこへやら、どうやら地雷を踏んでしまったらしい。
あまり、触れないほうがよさそうだ。
「とにかく、そろそろ帰れ。近くまで送っていくから」
「あと一回だけ!」
梓さんは頑なに「あと一回!」と連呼した。
相当悔しかったのだろう。
「わかった。じゃあ、あと一回だけな」
「うん!」
そして、最後の対戦。互いに手加減せず、対戦を繰り広げた。実力はほぼ互角、差があるとすれば小技の知識や読みあいになってくるが。
(う、噓だろ)
さっきまでの動きとはうって変わり、俺は圧倒的な敗北を
「私の勝ち」
「べ、別人だ」
最初の3戦の動きとはまるで違う、というより切れが良く完全に動きを読んでいる動きをしていた。
ゲーセンの時にも思ったけど、やっぱり普通のゲーマーとは全然、違う。
ゲームセンスというべきか、とにかくセンスがいい。
「どう?悔しい?」
「ああ、悔しいよ、まったく」
うれしそうな表情を浮かべる梓さん、そんな姿がすごくかっこいいと思った。
そこでゲームを終わりにして、俺は梓さんの家の近くまで送ることにした。
さすがに外もまあまあ暗いし、それに梓がこちらを見て、一緒に帰りたそうに見つめてくるのだ。
「忘れ物ないよな」
「ない」
「よし」
玄関の扉を開けて、俺と梓さんは道なりを歩く。
全くもって絵にならない二人が歩く光景、もし梓さんの隣が超絶イケメンだったら、周りからきゃきゃっと言われていただろう。
てか、こうして梓さんと一緒に歩いている時点、おかしいことを、今さらながら千斗は気づいた。
「そういや、聞きそびれたけどさ」
「なに?」
「どうして、俺の家が分かったんだ?」
「後ろをつけただけだよ」
「ふぅ…………うん?後ろを付けた?」
「うん…………ゲーセンの帰りに帰ったふりをして、そっから」
(こ、怖すぎ!?)
心の中で驚愕の声を上げる千斗はそっと梓さんと距離を離した。
「どうして、離れるの?」
それに気づいた梓さんがそっと近づく。
「今日だって後ろから追ってどう話しかけようか、悩んでたんだよ」
「後ろから?」
そういえば、今日は珍しく少し登校が遅かったような気がする。てか、あの時も後ろからつけてたのか。
「ストーカーかよ」
「ちょ!?ストーカーと一緒にしないでよ。友達の家を知ることは当たり前のことでしょ?」
その言葉に俺の頭上で「?」が浮かんだ。
友達の家を知ることは当たり前のことなのか?そのためにわざわざ後ろをつけて特定するものなのか?なんか、梓さんの言う友達には何かずれがあるような気がした。
「てか、俺、梓さんの友達なんだ」
「握手をしたら友達でしょ?」
「なるほど…………えぇ!?」
梓さんの認識に驚きを隠せない俺は声を上げた。
(ゲーセンでの初対面で、握手した瞬間から友達だったということか。いや、おかしいでしょ!友達ってそんな簡単だったけ?俺がおかしいのか?)
「私、ずっと友達がほしくて、すごく緊張したけど、こうして友達と一緒に遊ぶのって楽しいんだね」
「…………」
千斗はもう言葉すら出なくなった。
「友達って作るの大変だよね。話しかける勇気がいるし、根性だっている!でも、友達が千斗くんでよかった」
「それはうれしんだが、その言いにくいんだが友達いないのか?」
「うぅ」
やっべ、さすがに今の質問はダメだ。
「すまん、今のは俺が失礼だった」
「いいよ、事実だし。私、小学3年生の時に、ちょっといろいろあって、話しかけれると緊張というか、その表情がこわばっちゃって、みんな引いてっちゃうんだ」
梓さんは悲しげな瞳を浮かべた。
なるほど、あの冷たい目線はそういうことだったのか。
「だからね、今日は本当に楽しかった」
梓さんの無垢な笑顔。それは決して学校では見られない素敵な笑顔だった。
そんな表情に心臓が飛び跳ねる。
可愛くて、かっこよくて、少し不器用で、そんな彼女が輝いて見えた。
「まあ、俺も友達いないし、人のこと言えないけどさ」
「そうなの?」
「ああ、だからお互い、高校初の友達だな」
少し臭い言葉を言ってしまい、顔が熱くなってくる千斗は、何もなかったかのように前を歩きだした。
(いかんいかん、あんま変なことをいうべきじゃないな)
「お互いの初めて…………へへ」
本当にうれしそうに梓さんは呟いた。その声は俺には届かなかった。
少し気まずさを感じながらも、気づけば、梓さんの家の前に到着していた。大きな家でどう見ても裕福な家だ。
「そうだ、千斗くん、連絡先交換しよう。友達なら当然だよね」
「そうだな」
俺は梓さんと連絡先を交換した。
「それじゃあ、また明日ね、千斗くん」
「ああ、また明日、梓さん」
お別れ間際の梓さんは少し悲しげだったけど、最後の最後まで笑顔で手を振ってくれた。
そんな彼女に俺も手を振り返した。
一人の帰り道、俺は夜空を眺めながら、ため息をついた。
「はぁ…………明日からどうしよう」
内心、湧き上がる感情は不安だった。
自分から友達と言っておきながら、心の中では本当に俺が友達でいいのだろうか、とか、明日どんな顔をすればいいのだろうとか、いろんなことを考えてしまう。
そんな弱音を胸に、スマホを開き連絡先を見つめる。
スクロールする必要すらない連絡先一覧。
そこに、梓さんの連絡先が追加されている。
「梓さんか…………まあ、なんとかなるでしょ。小説でよくあるラブコメじゃあるまいし」
そんな感じで吞気に帰る千斗なのであった。
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