11 今日だけは君に逢える

過去に書いていたものの再掲。

お題:彼が愛した魔物

必須要素:正月

制限時間:15分



大晦日。

12月31日、午後11時59分。

あと1分で今年も終わる。

ちらちらと雪が舞う中で、彼は誰も居ない鳥居の下、神社に背を向けて腰を下ろし、その瞬間を待っていた。

年明けまであと10秒。


「5…4…」


ふと口をついて出たカウントダウン。

彼の小さな声が、暗く静かな境内に響く。


「3…2…1…」


「ゼロ」『ゼロ』


最後の数だけ1つの声が重なって、彼はゆっくりと振り返る。

そこには、白い巫女の着物に身を包んだ妖狐の姿があった。


「…久しぶり。待ってたよ」

『明けましておめでとう』


凛と響く美しい声。

その存在を確かめ合うように抱き締めると、妖狐の体温は思いの外低い。

それでも安心してふっと息を吐けば、クスリと耳元で笑う声がした。


『…苦しいよ』

「だって、本当は毎日でも逢いたいのに」

『ごめんね、今日だけしか“この姿”では居られないから』


妖狐は正月にだけ許された姿。

それ以外の日にはおぞましい魔物の姿になってしまうからと、妖狐は決して彼の元へは姿を見せてはくれない。


「…わかってる。だから」


今日だけは、心ゆくまで一緒に居させて。

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